内側がズタズタでも外側を装いたい


 悲しいことがあった。

 堪えられない程ではない、けれど、傷ついていることは自覚している。


 腹立たしいことがあった。

 耐えられない程ではない、けれど、素直に飲み込めるものではなかった。

 

 悔しいことがあった。

 執着する程ではない、けれど、諦めることができなかった。

 

 そんな時、私はいつも為すすべなく、それが過ぎ去るのを待つことしかできない。

 そして、その濁った感情を、表に出すことを良しとしないのだ。

 

 段々と「装う」のは得意になった。

 内側がズタズタになっていても、澄ました顔で装いたい。

 

 こんなことで悲しむことを、誰にも知られたくない。

 あんなことで腹立たしく思うことを、誰にも悟られたくない。

 どんなことで悔しがるかを、誰にも教えたくない。

 

 私を動かすのは、私自身だけであってほしい。あってほしいのに。

 いつも、私以外の人の言動で傷ついて、私以外の人の言動に腹立たしく思って、私以外の人の言動が悔しがらせる。

 

 だから、せめてもの抵抗で、私は今日も装うのだ。

 私のちっぽけな矜持を、守ってあげるために。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る