第6話 本当に最低!気持ち悪い!
――…夢を見た。
人々の感謝を受けながら私は、手を振り誇らしげに王都に帰還する。
今日は私達が主役なんだ。人類の悲願と言っていい魔王の討伐は民衆達を恐怖から解放した。もう脅威に怯えることもなく過ごすことが出来る。
自分達が成したことでこんなにも喜んでもらえるということは、本当に素晴らしいなと思った。
横にはリンドルフ様。多くの仲間達も凱旋に参加していて、私の後ろを同じように手を振りながら喜んでいる。
様々な楽器が聞こえて人は歌って踊ってお祭り騒ぎだ。聞いた話によると、今日は祝日に指定されるらしい。
行政など国家運営を担う人々もお祭りに参加している。人々には食事と酒が振る舞われていて、身分や人種問わず楽しげだ。
色とりどりの紙吹雪が宙を舞い、魔法で作られた花火がとめどなく空に咲いている・・・
そう、夢なんだ。
改めてそれに気づくと、見ていた景色が徐々に霞んでいき視界が白一色になる。
いけない。気を抜けば抜け出せなくなってしまう。
失った人が増えるたび、私は度々こういった夢を見るようになった。決まって生への執着を薄れさせるんだ。
すぐに私も皆と同じところに行こう。そう思い身を投げ出すように戦いに明け暮れてきた。
ああ、夢で見た景色の全てが私の望んでいたものだった。
だが現実には、リンドルフ様や共に凱旋をしていた仲間達は既にこの世にいない。
凱旋ですらできなかったさ。
私が王城へ帰還した時、民衆からのむしろ蔑むような目線に困惑した。
そして王城内、謁見の間での出来事・・・
権謀術数渦巻くあの空間で私は、まるで幼子のように抗うことが出来なかった。
悔しいか?そう聞かれたところでわからない。
私が行ってきたことで後ろめたいことは何一つだって無かったし、これまでの人生に誇りを持っている。
ただ仲間の死を利用されたことに腹が立つ。これはとても割りきれそうにもないな。
悲しいやら寂しいやら腹立たしいやら…私の心は今なお複雑だ。
だがそれにしても今の状況が分からない。
謁見の間で詰問され窮地に立たされた時、謎の人物によって眠らされ、背負われ移動したことまでを朧気ながら覚えている。
で、今は簡素なベッドに横たわっている。
古びた家の一室のようで、家具が最低限あるだけ。
寝心地が良いとは決して言えないが、野宿など当たり前のようにこなしてきた私にとっては随分と贅沢だ。
起き上がり、体を慣らす。
知らない天井で起きたことに戸惑いを感じたが、まずは情報収集だろうとテキパキと身の回りを整えて部屋を出た。
森の中にポツンと家があるようで、家から外を見渡す限り木々に囲まれている。俗世から隔絶されたよう。妖精達が住む・・・とか、魔女が住む・・・とか、そんなおとぎ話に出てきそうなほど見事に自然と調和している家だ。
縁側らしきところに座り、ぼーっと外を眺めていると、遠くから女性と男性の言い争う声が聞こえてきた。と言っても男性が女性を宥めているような感じがする。
「ぜんっぜん姿を見せないと思ったら急に現れて!しかも知らない女の子をさらってくるとか本当に最低!気持ち悪い!」
捲し立てるように男性に突っかかっているのは恐らくエルフだろうか?透き通るような緑色の髪は長く、腰の近くまである。人形のように整った顔立ち、手足も長く非のつけようがない。
「わかったわかった、すぐに姿を見せなかったのは申し訳なく思ってるさ。何せ俺だって最近目が覚めたばっかりなんだよ。」
エルフの女性を宥めるような声色で語りかけるのは私と同世代くらいの見た目をしている男の子。少し眠そうな目を擦っている。黒髪がところどころ跳ねているが、あまり気にしていない様子だ。ボサボサの髪から覗く容姿は整っており、横のエルフと並んでも遜色ないほどに綺麗に見える。
夢を見る前に聞いた声と一致していることから、私を連れ出してくれた人物だと思った。
「貴方はいっつもそう!私の気持ちなんてちっとも考えてくれてないの、わかってるからね!」
ぷりぷりと頬を膨らませて怒るエルフをよそに、男性は私の姿を目に入れたようで、こちらにやってきた。
「おはよう、気分はどう?」
「あっ、おはようございます」
少しぎこちなく返してしまった。「ここは?」とだけ聞いてみた。
「ここはね、あそこで怒っているエルフが住んでいる森だよ。外界からのあらゆる干渉を受けない神聖な森」
「ちょっと!無視しないでってば!」
エルフの女性も更にヒートアップしてこちらにやってきた。
なんというか、修羅場?というやつ?
初めて見る光景に私はそんなことを考えていた。
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