第4話 嬢ちゃん、あとは任せろや
芝居がかった仕草で王が語り始める。
「今皆に問う。見事魔王を討伐せし勇者の功績は実に大きい。しかしながら自らの野心の為に、我が忠臣であったリンドルフをも手に掛け、不穏な噂も絶えない。
魔王さえも打ち破る程の強さを持つ勇者である。
邪な考えを持つ力あるものなど、それこそ次の魔王にさえなり得るのではないか?野放しにしていても良いのか?
私は国王となった際に誓った。国を守る為ならば我が命すら投じる覚悟があると。
例え世の脅威であった魔王を討伐せし勇者であったとしても、後の脅威となりうる前に・・・
今こそ我らの心を鬼と変えて排除すべきではないか。」
よくもまあこんなこじつけのような言葉がスラスラと出てくるものだ。図ったかのように人々が声を上げている。
「そうだ!排除すべきだ!」
「よくもリンドルフ様を!」
「お前などもう勇者ではない!」
罵詈雑言が女勇者目掛けて飛ぶ。
はっきり言って不快だ。何とも耳障りだ。
勇者はと言うと、それでも凛と背筋を伸ばし、堂々と王を見据える。
強い意思を感じる目は怒りを浮かべていそうものだが、ただただ冷たく氷のよう。
またそれはとても可憐な姿であった。
余裕がないのか落ち着きがなく、充分な間を空けることなく王は告げる。
「勇者よ。残念だがお前の仕打ちは看過できんな。処遇は追って伝えるゆえ、お前を拘束させてもらう。何か言いたいことはあるか?」
「私は・・・
勇者となった日から、魔王軍の討伐に全てを捧げてきました。後ろめたいことなど誓って何もしておりません。
亡きリンドルフ様は私に全てを教えてくださった。どうしてその私が手に掛けようというのです。
勇者として人類の悲願を成し遂げた今、私が欲するものはこの国の恒久的な平和と余生の安寧のみ。王よ、どうか御英断を。」
「愚かな」
そう言った後に王は右手を挙げた。
すると隅で控えていた衛兵達が勇者の身柄を拘束すべく勇者の元へ駆けつけてきた。
「この期に及んで情けないものよ。真実を語るのならば命まで取らなかったものだが・・・
衛兵達よ、この罪人を牢屋へ入れろ。」
さも残念そうに語る口許が、一瞬ニヤリとしたのを見逃さない。
衛兵達はそれぞれが指令に対し忠実に行動していく。
まさに衛兵の一人が勇者の身体に触れようとしたその瞬間、強烈な光が謁見の間を襲う。誰一人例外なく、あまりの眩しさに極度の混乱に陥っていやがる。
もっとも、そんな現象を引き起こしたのは俺なんだがな。
この場にいる全ての人物が漏れなく光で目を一時的に使えなくしてやった。
「はははっ!どうだカスども!」
「何者だ!」
「くそ、目が見えん!王は無事なのか!」
「勇者の力か!卑怯者め!」
場に控えていた臣下達全員がが慌ただしく口々に叫ぶ。
まさに阿鼻叫喚。皆が慌てふためき怒鳴り合うだけで何もできない。
微塵もこういったリスクを想定していなかった様子にこの国の底が知れる。
少し心が晴れた気がした。
ああ、勇者なら俺が既に確保している。
驚き呆けた顔をした勇者は、少しの抵抗を見せたが、今は一時的に眠らせている。
「まあ嬢ちゃん、あとは任せろや」
その一言で大人しくなって身を任せてきた。
自分で言うのは何だが、ギャンブラー気質なのか?
こんな得体の知らない奴の言うことに素直に従うとは、肝が据わっているのか余程切り抜ける自信があるのか・・・
まあいい。
さてと、せっかくだ。
少しコイツらにお灸を据えてやるか。
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