第8話


トウヤside


ジョウキの過剰な問い詰がアナちゃんは不愉快だったのか勢いよく立ち上がり部屋を飛び出した。


それと同時に俺の足元に何かが落ちテーブルの下を覗き込むとそこにはピンクのハンカチが落ちていた。


俺はそのハンカチを拾い上げアナちゃんを追いかけようと立ち上がるとジョウキが俺の前に立ちはだかった。


J「それ俺が渡しに行くよ。」


ジョウキそう言って俺の手からハンカチを取り上げる。


T「いや、俺が届けるから。」


いつもならこんな事でムキになるなんて絶対にない。


だけどこのときの俺はなぜがジョウキに譲るような真似をしたくなくて、俺もまたそのハンカチをジョウキの手から取り上げた。


M「いやお2人さん!もう、そろそろ事務所に戻らないといけないんですよ〜?そんな揉めてる暇ないでしょ?」


マハロがそう言って俺とジョウキのやり合いを止めようとする。


Y「もう戻っちゃうの?じゃ、兄にお会計聞いてくるね?」


ユナちゃんが気を利かせて部屋から出て行き、その間も俺とジョウキはお互いに譲ることなく睨み合う。


H「あぁもう〜早く届けるなら届けて来いよ!時間ないから!」


俺はハヤセくんのその声を聞いてハンカチを握りしめたまま店を飛び出した。 


そう時間は経ってないからまだすぐ近くにいるはず…


どうかタクシーには乗ってませんように…


俺は頭の中でそう唱えながら走っているとすぐにアナちゃんの後ろ姿を見つけた。


そして、俺は財布に入っていた小さな紙切れに急いで電話番号と名前を書いてハンカチの間に挟んだ。


人目を気にして大声でアナちゃんを呼び止めるわけにもいかないので、俺はアナちゃんの細い手首を掴んで引っ張った。


すると、その衝撃でアナちゃんはフラつき咄嗟に俺はアナちゃんの腰に手を回して抱きとめていた。


柔らかく香るアナちゃんの香水の匂いが俺の鼻をかすめ、思わず俺は腰に巻きついた手にグッと力が入った。


不思議そうに俺を見上げるアナちゃんの目は真っ直ぐで俺は視線をそらしながらアナちゃんを解放した。


女性と見つめ合うなんて初めての事じゃないのに俺の心臓は周りに音が聞こえてしまうんじゃないかと思うぐらいにうるさく動いた。


メンバーとしてジョウキの行動を謝ったけど本当はそんなことどうでも良かった…


ジョウキのことなんて本当に忘れちゃえばいい…


ジョウキのファンなんて早くやめちゃえばいいのに…


そう思ってしまった俺はもう、この時すでにアナちゃんに恋をしてしまっていたのかもしれない。


走って店に戻るとジョウキは不機嫌そうな顔をして俺の顔すら見ることはなかった。


H「トウヤも戻ったしじゃ、事務所に帰ろか。」


こういう時、ハヤセくんの存在はピリっとした空気を穏やかに変えてくれるから本当に助かる。


俺たちはマスターとユナちゃんに挨拶をし店を出た。


事務所へと戻るタクシーの車内でマハロからユナちゃんと連絡先を交換したと他の2人に聞こえないよう小声で自慢された。


マハロもやるなそう思いながら俺もアナちゃんから連絡がくるといいなと心持ちにしながら事務所へと戻った。



ユナside


今、私の目の前で2人の男前が揉めている。


その様子はとても滑稽だがこの光景をみた世界中の女性達はどれだけアナの事を羨むんだろ?


私は兄に会計を聞きながらアナに連絡をした。


すると勢いよく店を飛び出したのはまさかのトウヤの方だった。


今回の勝者こっちなのね?まさかあの負けず嫌いで有名なジョウキが負けて温厚なトウヤが競り勝つなんてね。


そう思いながら私はアナにメッセージを送った。


そした、個室から出てきたジョウキは超不機嫌で性格的に顔に出やすく、わかりやすい子だなと心の中で思いながらも相手は芸能人だし見て見ぬフリしておこうと視線を逸らした。


すると、マハロがゆっくりと私の横に来て小さな声で言った。


M「ユナちゃん?あのさ…もし良かったら連絡先…教えてくれない?」


私はマハロからのまさかの言葉に腰を抜かしそうになるのをグッと足に力を入れて堪えて答えた。


Y「連絡先?うん…もちろん」 


なんて余裕なフリをして教えたけど深入りしない方がいいと頭のどこかで思っておきながら教えちゃう私は相当なバカなのかもしれない。


私はみんなを見送ったあと、兄の店を軽く手伝ってから慌ててアナのマンションへと急いだ。


家の扉を開けてくれたアナは落ち込んでるかと思いきやいつも通りのアナだった。


A「思ってたより早かったね?」


ソファに座る私にコーヒーを出しながらアナはゆっくりと私の横に座り、私はさっきの出来事を話し出す。


Y「店でのことだけどさ?アナがあんなムキになるの初めてみたかも…」


A「え…あぁ…」


そう返事をしたアナはまつ毛に影を落としたので、これ以上この話はしない方がいいのかと思い、私は話を逸らした。


Y「ってか聞いて!私大変な事しちゃったの!」


A「大変な事?えっ何!?マハロになんかしたの!?相手は芸能人だよ?!」


暗い顔だったアナは私の言葉によりいつもの表情に戻った。


Y「それがさ…連絡先交換した////」


私はニヤニヤしながら少し自慢気にそう言ったのに何故かアナの反応はイマイチだった。 


A「あぁ…そうなんだ…」


え?なに?それだけ?


他にさ?何かあるでしょ?


どこかうわの空なアナさん…


反応間違ってますよ~アナ!!


そこは!えぇ~ぇ!とかマジで~!!とかが正解なんだけど?


なんて思いながら私は返事に戸惑う。


Y「え…あ…うん…」


一旦、気持ちを落ち着かせるためにもとりあえずコーヒーをゆっくりと飲みひと息つくとアナから徐に口を開いた。


A「実はさ?私もトウヤに電話番号渡された…」


Y「ブッーッ!!!!」


私はあまりの衝撃から口にふくんだばかりのコーヒーを見事に噴射し咳き込んだ。


Y「ゴホゴホっ!えぇ!?トウヤの!?」


A「うん…ほら…これって連絡した方が良いのかな~?」


そう言ってアナはスマホケースから小さな紙切れをだした。


Y「した方がいいよ!今!今だ!」


こんな風に言ってしまう私は本当に救いようのないバカだ。


この時…アナにやめといた方がいい…


そう言っていたら誰も傷つくことなんてなかったのかもしれない。



つづく

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