第7話
アナside
トイレの鏡に映る自分を見つめながら私は思った…。
あんなに会いたくて追いかけ続けていた時には会えなかった…。
何度もジョウキがよく行くショップや目撃情報が出たのあたりをウロウロしていたのに遭遇なんて一度もしなっかた…
なのになぜこのタイミングで私はこんなにもジョウキと遭遇してしまうのだろ?
神様は意地悪だ…まるで私を試すかのようにして遊んでるんだ…。
少し気は重くなったが考えてみればただとなりの部屋で食事しているだけ。
下手に意識すれば向こうだってプライベートなんだから嫌なはず…
いつも通りにしてればいいんだ…そしてユナとびっくりしたね~!って笑い合えばいい。
私はトイレを出て部屋に戻ろうと廊下に出ると…
仁王立ちで腕を組み、眉間にシワを寄せた私の王子様…ではなくジョウキが立っていた。
ど、どうしよう…か、かっこいい~!////と荒ぶりそうな私はしっかりしろ!平常心、平常心!
と自分自身に喝を入れ一瞬、だらしなく緩みかけた口元に気合を入れ純平に軽く頭を下げて部屋へと歩き出す。
J「こっちだから。」
すると、なぜか超不機嫌な声でジョウキにそう話しかけられ呆気にとられる私。
A「え?」
J「だからこっちの部屋に入って!」
そう言ってジョウキは私の腕を少し乱暴につかみ部屋へと引っ張り込んだ。
A「痛っ!なにするんですか!?」
私は力いっぱいに引っ張られた腕の痛さをぶつけるように思わずジョウキを睨んだものの…その相手は大好きで仕方ないジョウキなもんだからもう、自分でも複雑な感情が入り混じりどうすればいいのか分からない。
すると、なんだか強い視線を感じジョウキに無理やり入らされた部屋の中を見渡すとそこにはなんと、トウヤにハヤセ、マハロの横にはユナが嬉しそうに座っていて私は思わず目が点になる。
A「ちょっと!ユナ!あんたなんでそこにいんのよ!!」
Y「え//?マハロくんがここに座っていいよ///って////」
いつも取引先や飲み屋でナンパされてもクールに断る強気なユナがマハロの前で珍しくぶりっ子しながらそう言うもんだから、初めて見たユナのそんな顔に私は驚いた。
T「アナちゃんだっけ?ここに座ったら?」
私がぶりっ子しながらマハロと話しているユナの顔を凝視しているとトウジがあいてるソファを指差して優しく微笑んだ。
そのあまりに美しい微笑みに一撃を喰らった私は我にかえる。
A「いや…でも悪いので…ほら!ユナいくよ!」
私がユナに視線を送りながら言うがユナは子供のように首を横に振り、マハロの横のを動こうとしない。
すると、トウヤが言った。
T「ここユナちゃんのお兄さんの店っだてさっき聞いてっさ?俺ここの常連でつい話が弾んじゃって!これも何かの縁だしコーヒー1杯だけでも一緒にどう?」
A「いや…でも…」
私が立ったままトウヤの提案に悩んでいるとジョウキが扉を開けて勝手にコーヒーを注文した。
J「マスターすいません!コーヒー6つ」
その様子に私が驚いているとジョウキは何を思ったのか私の耳元に顔を近づけ、私は思わず背筋がピーンと伸びる。
J「コーヒー注文したんだから飲みなよ。」
ぼそっとそう耳元でつぶやかれ私はパニックになり崩壊した。
ジョウキに導かれるまま小さなソファに座り、前に出されたホットコーヒーを手に取って啜ると緊張やらなんらで唇をヤケドした。
A「熱っ!」
T「大丈夫?」
A「はい…大丈夫です///」
ヤバイ…隣に座っていたトウヤが覗き込むようにして私を心配してくれるとかマジでヤバイ!!これは夢なんだろうか?そう思いながら周りを目だけ動かしてキョロキョロしているとジョウキがおもむろに口を開いた。
J「っで?なんで俺のファンやめんの?」
A「ブッ~!」
ジョウキの放った言葉を聞いた私は思わずコーヒーを吹き出した。
J「きったねぇ~な!」
なんて言いながらジョウキはおしぼりを私に差し出し、私の前のテーブルをせっせと吹いてくれている。
M「だ…大丈夫?」
マハロは心配そうにそう言いながら私の前に水を出してくれた。
A「だ大丈夫です…すいません。っで!なんで知ってんの!?」
私が勢いよくジョウキの方を見るとジョウキは優雅な顔してコーヒーを飲んでいた。
J「俺の質問に答えろよ。なんで俺のファンを辞めるの?」
A「それは…色々あって…」
J「色々って?」
それは…芸能人にハマりすぎて現実で恋が出来ないかもしれないと怖くなったからファンやめまーす。
なんて言える訳がない私は焦りながら簡単な言い訳を考える。
A「す…好きな人ができたから?なんちゃって!あはは~」
Y「え!?そうなの!?」
せっかく私が考えた言い訳なのになぜかユナが1番に驚いた顔をして食いついてくる。
チラッとジョウキの顔色を見れば、理由を聞いてきた割には無表情のままだった。
J「ふ~ん。でもさ?好きな人ができたからってやめる理由にはならないだろ?俺たちのファンには結婚してる人だっているし。」
確かにそれはそうだ。
現実とアイドルを推すのは全く別の話しなのだから。
しかし、それ以上の都合の良い言い訳が思いつかない私は次第に焦りが募り苛立ち始める。
A「まぁ、そうなんですけど…私にも色々あるんですよ。」
そう口を濁せばジョウキはまた、一歩深く問い詰めるように言う。
J「だからその色々の部分が俺は聞きたいんだけど?」
少し当てつけのようにそう言ったジョウキは少し前まで私の無敵な推しだったはずなのに、何故か物凄く不愉快な気持ちになり一瞬にして推しへのトキメキが冷めてしまったようだった。
A「しつこいですね!?言いたくないんですよ!分かんないんですか!?」
あからさまに私がそう苛立ちを剥き出しにし敵意をジョウキに見せるとジョウキも眉間にシワを寄せながら言った。
J「勝手にファンやめるとか許さねぇからな!」
は!?私の自由でしょうが!そんなこと何であんたに決められなきゃなんないの!?と心の中で憤り、もうこれ以上一緒にいればもっと最低なことを言ってしまうと思った私は立ち上がる。
A「もう戻ってもいいですか!?ごめんユナ、先に帰るわ!」
私はイライラを抑えるのに必死で他のメンバーにろくな挨拶もせず自分の個室に戻りバックを持って店を出た。
私の憧れていた王子様はどこへ行ったのだろう?
実際に会ったらひしつこくてウザい男だった。
現実を叩きつけられた私は小さな路地を出てタクシーを探していると突然、後ろから手首をぐっと掴まれて思わず私はよろけて転びそうになった。
A「きゃっ!!」
「あ…ごめん…大丈夫?」
視線を自分の腰にやるといつの間にか逞しい腕が私の腰に巻きついていて私は転ばずに済んだ。
そして私がゆっくり顔をあげるとそこにいたのはトウヤだった。
T「ごめん…荒っぽいことして!でも、大声で呼び止める訳にもいかないから…ごめんね?」
A「トウヤくんが…なんで?」
私の問いかけにトウヤは少し微笑みながら巻きついた腕をほどき私はトウヤの腕から解放された。
T「これ。アナちゃんのだろ?」
そう言って渡されたのはピンクのハンカチ…
A「あ…ありがとう!私、落としちゃってたんだね?」
T「うん。あ、あのさ?ジョウキの事なんだけど…気を悪くさせちゃったよね?あんな言い方してさ?ごめんね…」
A「あぁ…いや大丈夫。こっちこそちゃんと挨拶もせずに飛び出してごめんなさい…」
T「ううん。じゃ…俺仕事あるから…」
A「あっ!これありがとうございます!」
私がピンクのハンカチを見せながらトウジに微笑むとトウヤも一緒に微笑んだ。
T「とんでもない。じゃまたね?」
そう言いながらトウヤは手を振って歩いていき、私は小さくなっていくトウジの背中をしばらくの間眺めているとハンカチの隙間から何かが落ちた。
私はしゃがみ込みそれを拾うと小さな紙切れに綺麗な字で「090xoxoxxoo トウヤ」そう書かれていた。
え?えっ!?えぇ~ぇぇ!!!
私は目を疑う。
なんとあの泣く子も黙るイケメンであるトウヤの電話番号をゲットしてしまったのだ。
どうしよ…これは登録するべきなのか!?
この紙切れは一体どうすればいいのか!?
と、とりあえずユナに連絡しよう!
そう思いながらカバンからスマホを取り出すと既にユナからメールが入っていた。
Y「アナちゃ~ん!忘れ物を今、王子様が届けてるからタクシー乗っちゃだめよ~!みんなも帰っちゃうし私はオッパの店を手伝ってから帰るね?また、帰りにアナの家に寄るね?」
どうやら数分前に届いてた様子のユナのメール。
でも、ハンカチを届けてくれたのは幻滅したばかりの王子様ジョウキではなく彫刻のような顔をした美しい王子様のトウヤだった。
また、腰に感じたあの逞しい腕の感触を思い出しつい私はニヤついてしまう。
確かにあんなにしつこくて俺様な王子様のジョウキよりトウヤの方が優しくて美しくて王子様だな…
なんて思いながら私は絶対に落としてはいけない紙切れをスマホカバーの奥に挟み込み、慌ててタクシーに乗り帰宅した。
そして、部屋に飾られてあるジョウキとトウヤが並ぶポスターをみてふと思う…
はぁ…これが2人の王子様か…と。
つづく
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