第9話


アナside


ユナに急かされて私はトウヤに電話をかけてみた。


すると、すぐにあの独特な低い声が私の鼓膜を刺激した。


T「もしもし?」


A「あ…もしもし…アナです」


T「本当に電話かけてきてくれたんだ//」


A「あぁ…しない方が良かった?」


T「ううん…嬉しい。でも、もうすぐ打ち合わせ始まるからごめんね?」


A「あ、こっちこそ忙しい時にごめんね?じゃ、また!」


T「うん。番号ちゃんと登録してよ?」


A「うん分かった…登録するね?じゃ…お仕事頑張ってね…ファイト!」


T「ありがと…じゃまたね?」


こうして私とトウヤの初めての電話が終わった。


ずっと、テレビやライブで見ていた存在だからなのか、トウヤのことを昔から知ってるかのような感覚に襲われた。


Y「なんて?」


A「ちゃんと登録しろよ~って!」


私がそう言うとなぜかユナは複雑な表情をして私を見つめる。


Y「そっか…ねぇ…トウヤじゃなくてジョウキの方が良かった…?」


ユナにそう問いかけられた私はユナの言っている意味がわからなくてユナの顔を見つめる。


A「え?何が?」


Y「電話番号よ!」


ユナの言葉を聞いて私は考えてみたが、なんとなくその答えは決まっていた。


A「さぁどうだろね?でも、ジョウキだったらもし番号もらったとしても電話しなかったかも…」


Y「なんで?」


A「もう、ファンやめるって決めちゃったから?私さ?こう見えて結構、頑固だからさ…ね?」


Y「こう見えてもどう見えてもあなたは頑固だけどね?」


そして、私たちの飲み物はいつしかコーヒーからワインに変わりいつものごとく楽しくお酒が進む。


ワイングラスをテーブルに起きスマホを見ると一通のメールが届いていた。


T「さっきは電話くれたのにちゃんと話せなくてごめんね?今日はもう遅いから寝ます。アナもあんま酒ばっか飲まないでちゃんと温かくして寝ろよ?トウヤより」


え!?なんでトウヤは私が飲んだくれてること知ってるの?


しかも…呼び捨てだ…驚きと照れから私は部屋の中にいるはずもないのにトウヤが覗いていないか部屋の中を見渡して確認した。


そして、先に寝落ちしてしまったユナにブランケットをかけてソファに座り直しトウヤに返信をした。


A「遅くまでお疲れ様。ライブ中だから忙しいんだね。トウヤも風邪ひかないように気をつけてね?私はパジャマをインにして寝る人なので大丈夫です!おやすみ アナより」


こんなむず痒くなるようなやり取りは何年ぶりだろう…?


スマホの画面を見ながらニヤニヤすることなんてジョウキの画像をみる以外でないと思ってたのに。


久しぶりに異性を想う気持ちが芽生えて私の心臓は早く動きだした。


しかしそれと同時にトウヤが芸能人じゃなかったら良かったのにななんて思ってしまう自分もいた。


あの日から私はいつもと変わらない日常を送っていた。


毎日会社に行き、早く終わればユナと2人で飲みに行く。


そんないつもと変わらない日常の中でただひとつだけ変わった事があった。


それは毎日トウヤから連絡がくること。


ライブ期間中で忙しい時期なはずなのにトウヤは毎日、何気ない話や風景の写真を送ってきてくれた。


だから、今までかじりついて見ていたsnsはほぼ開かないで済むようになった。


トウヤからの連絡で今、みんながどこで何をしてるか把握出来るようになっていたから。


そして、私たちが参戦するライブ前日。


いつものようにトウヤから連絡がきた。


でも、それはいつものメールではなく着信。


2度目の電話に若干、心臓が慌ただしく動くのを感じ少し深呼吸してから私は着信を取った。


A「もしもし?」


T「もしもし?起きてた?遅くにごめんね。今ミーティング終わってさ。」


A「起きてたよ?遅くまでお疲れ様!」


T「アナさ?明日、俺たちのライブに来るじゃん?良かったらその時に楽屋来ない?」


A「えぇ!?行きたいけど…それはダメでしょ…」


T「う~ん。でもさ?あの時いなかったメンバー達に2人の事話したら会いたいって聞かないんだよ。」


A「うそ…ってか!なんて話したの?」


T「え?ジョウキのファンを辞めます宣言したファンに遭遇したって!その子が俺の行きつけの店のオーナーの妹の友達だって。」


A「そんな詳しく話したんだね。」


私はまさかファンをやめる宣言した事を他のメンバーに話したなんて思ってもみなくて少し気まずかった。


T「メンバー達も楽しみにしてるからさ明日来てよ?ね?」


A「う~ん。分かった。じゃ、少しだけお邪魔するね?」


T「マジで!?やった~!!じゃ、現地に着いたら連絡して?マネージャーに頼んで迎えに行ってもらうからさ…ゴホッゴホ」


A「分かったよ~!ってか声が枯れてるし咳も出てるけど…大丈夫?」


T「あぁ…うん…今日のライブも盛り上がったからかな?でも大丈夫!じゃ、明日!」


A「うん…おやすみ。」


トウヤの咳を気にしながら着信をきるとタイミングよくユナからメールが入っていた。


Y「ヤバイ…マハロに楽屋に誘われた。行くって勝手に言っちゃった…ごめん。」


マハロもユナに連絡してたんだ。


ユナ嬉しかっただろうな…そんな謝らなくていいのにと思いながら私もユナと同じ選択した事をメッセージでユナに伝えた。


ユナにメールを送り終えた私はやはりトウヤの枯れた声と咳が気になって仕方ない。


もしかしてこの大切な時期に風邪!?


そう思った私はママがよく作ってくれるアレをトウヤのために持って行ってあげようと思った。



つづく

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