第3話


アナside


綺麗な夜空を眺めて、足の裏から伝わる冷たいコンクリートの硬さが余計に悲しさを増させる。


もう、そろそろ夢をみるのは終わりにしなきゃ…


現実の恋が本当に出来なくなる…


ジョウキを追いかける楽しいオタ活は次のライブで最後にしよう…


私は夜空を眺めながらそう心に決めた。


すると、私は誰もいないと思っている所でいきなり背の高い男性に声をかけられ、心臓が止まりそうなほど驚いた。


A「ひやぁ~あぁぁ~!!」


私は口を塞がれ冷や汗が一瞬にして全身から溢れ出した。


J「俺だよ俺!」


微かに香る優しい匂いと聞き飽きるほど何度も聞いていたあの甘い声…


その声だけで名前を聞かなくても後ろにいるのが誰なのか分かってしまう自分がまた少し怖くなった。


J「これ…落し物じゃない?」


A「え…あ…はい…ありがとうございます」


スマホを手に取りホームボタンを押すと画面がバキバキに割れていて凹んだ。


A「画面がバキバキに割れてる…」


J「え?マジで?なんでだろな」


A「あ、すいません…ありがとうございます。あ…あとお体お大事に…」


あの人は芸能人で私とは住む世界がちがうんだよと私は自分自身に言い聞かせ、私はジョウキに背中を向けて先にゆっくりと歩き出した。


私は歩きながらバキバキになったスマホを眺め、ジョウキのファンになってからロック画面にしていたジョウキの写真にサヨナラを告げ、ユナとのツーショット写真をロック画面にした。


あ…ユナに謝らなきゃ…そう思った私が恐る恐るユナに電話をかけた。


Y「あ!もしもし!今向かってますので!」


A「え?ユナ?どこに向かってるの?」


Y「え?アナ?スマホ落としたんじゃ…」


A「もう、スマホ戻ってきたよ…さっきはゴメンね…言い過ぎた…」


Y「よかったよ…私こそゴメン…ってか…前…」


A「前?」


ユナの声を聞いて私がゆっくり前をみると、そこには走ってくるユナがいた。


A「何やってんの!?」


Y「いや、スマホを拾ってくれた人が交番所に届けるって言うからアナを連れて行くために迎えに行こうとしてたのよ!」


A「そっか…ありがとうね?」


Y「無事に戻ってきて良かったね?今日、泊まってもいい?」


A「もちろん、いいよ!」


Y「ねぇ?ところでさ?なんで裸足?」


A「え?あぁ…慣れない靴で走って靴擦れした。」


私たちは仲直りし笑い合いながら家に帰りまたワインを1本あけた。





ユナ side


もう、家に帰るのが面倒くさくなって私はいつものノリでアナの部屋に泊まることにした。


そして、なぜか涙目のアナはワインボトルを持ってきて飲み直す気満々だった。


Y「アナ?このワイン開けていいの?ジョウキの誕生日のワインでしょ?」


A「うん。だから飲むの!」


Y「え?どういこと?」


A「私ね…ジュンギから卒業するって決めたの!次のライブが最後。それが終わったら婚活して現実の幸せを手に入れるよ!」


Y「アナ?急にどうしたのよ?さっきジョウキに遭遇したばかりなのに?普通ならもっとハマるんじゃないの!?きゃーきゃーなるんじゃないの?」


A「うん…なんか怖くなったの…本当に恋が出来なくなりそうで…怖くなった…」


Y「アナ…」


私は少し寂しそうに話すアナを見て言葉が見つからなかった…


アナがどんなにジョウキを夢中で熱狂的に応援していたかを知っているから。


ジョウキのいいニュースが入ると自分の事のように喜んで、ジョウキの悪い噂を聞くと触れられないほど落ち込んで…


アナがジョウキを大好きなのは私が1番知っている。


でも、そんな姿を見るたびに本当はずっと心配してた。


現実から逃げるためなんじゃないか?あの人の面影をジョウキに重ねてしまってるんじゃないか?と…


だから、アナの口からジョウキを卒業すると言葉を聞いた時は正直、ちょっとホッとした。


やっと本当の幸せを見つけようとしてくれたんだ…現実での恋をする勇気が出たんだと。


Y「次の公演最終日が最後のライブか…」


A「そうだね…」


Y「いい席だといいね…」


A「私、くじ運わるいからな~!」


Y「まぁさ?どこの席だったとしても楽しもうね?」


私はアナの頭をポンポンとなでたらアナは泣きそうになったのを隠すかのようにおどけた。


A「あぁ~もぉ~ユナと結婚したぁ~い!!」


Y「バツイチ子持ちのお姉様をからかうんじゃないの!」


そう、私は離婚経験があり5歳になる息子がいる。


息子は今、元旦那が親権を持っているので会わせてもらえるのは月に一回。


来月再婚が決まった元旦那…もしかしたら息子と月に一回会うのも危うくなるかもしれない。


私の心にすっぽりと穴が空いている時に5歳下の妹のような存在だったアナがずっと側にいてくれた。


そして自分の事のように心を痛め一緒に泣いてくれた。


アナは私にとってよき理解者で大切な人だからアナには幸せになってほしい。


いい人に出会って愛することだけじゃなく愛される喜びを知ってほしい。


気づけばアナは私の横で子供のようスヤスヤと寝息を立てながら眠っていた。



つづく

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