002

――人混みの中。


二人の男女が歩いていた。


石畳の地面をカツカツとブーツの音が鳴る。


その服装は真っ黒な警察が着ていそうな制服で、白いショート丈のコートを羽織っている。


時間はまだ夜になっていない午後だが、空はもう真っ暗だ。


二人の頭の上には張り巡らされた配線とネオンサイン。


その目が痛くなるようなネオンが照明代わりに、埋め尽くされた人混みとゴシック調の建物を照らしている。


一人は金髪に碧眼のロングヘアの少女。


その凛々しい顔にはまだ幼さが残っていた。


「前にいるのがそうか?」


金髪の少女が隣を歩く少年に声をかけた。


その少年は、薄い紫の髪色をした長身の少年だ。


薄紫の髪色の少年が、飄々とした態度で少女へ返事をする。


「あぁ、間違いねぇぜ。ナイトクラブでの目撃証言によれば、あのレザージャケットに黄色の頭だ」


その言葉を聞いた少女は、少年の胸をドンッと叩く。


「いってぇッ! おい何すんだよパロマッ!?」


「ムドは先回りして道を塞げ。私はこのまま追いかける」


「それはいいけどよぉ。この人混みじゃ発砲は無理だし、何よりもオレの能力も使えねぇぞ」


「いいからさっさと行く。目標に逃げられるだろうが」


「へいへい」


ムドと呼ばれた少年は、パロマと呼ばれた少女の言う通りに動く。


パロマは人混みをかき分け、前にいる黄色頭の男へ近づいていく。


そして、男に声をかける。


「ちょっと失礼。私は才能の追跡官アビリティトレーサー、第三班所属のパロマ·デューバーグだ。いくつか質問に答えてほしい」


パロマは手に付けていた指輪から立体映像ホログラムを出して身分を証明し、質問しようとした。


だが、黄色頭の男が突然走り出す。


周囲を埋め尽くしている人の波を強引に進んで、彼女から逃げる。


当然パロマも男を追いかける。


駆けながらワイヤレスのイヤホンタイプ通信機器を使い、ムドへと連絡。


打合せ通りに挟み撃ちにしようとしたが――。


「あれ? なんでパロマがここにいんだよ?」


「それはこっちの台詞だッ! 奴はどうしたッ!?」


人混みの中で叫ぶパロマに、ムドは平謝りしていると、彼が気が付く。


「裏道だ、裏道ッ! あの黄色頭はこっから逃げたんだよッ!」


「くッ!? 読まれたか。土地勘がないってのは不利だな。追うぞムドッ!」


二人は脇道へと入り、狭い道を走っていく。


二人が追いかけていたのは、この街――アンプリファイア・シティで問題になっている電子ドラッグの売人と思われる男だ。


このまま逃がしてなるものかと、パロマが顔を強張らせていると、目の前に足を止めた黄色頭と一人の少女の姿が見えてきた。


その少女は黒髪に三つ編み。


さらに、パロマやムドと同じ上下黒の制服にショート丈の白いコートを羽織っている。


「ありゃリズムか? なんだよ、じゃあもう捕まえたも同然だな」


「喜んでいる場合かッ! 手柄を横取りされてしまうんだぞ!」


再び声を張り上げたパロマに、ムドはまた謝罪した。


そして、二人の目の前では――。


「チルドってあなたのことですよね? 悪いけど、アタシと来てもらいます」


「テメェも後ろのヤツらの仲間かッ!? あんッ!?」


チルドと呼ばれた黄色頭の男が、着ていたレザージャケットからナイフを取り出した。


そして、リズムへと突き出す。


だが、三つ編みの少女は怯むことなく、むしろ前へと出た。


手を伸ばし、掌を翳し、そこからは白い光が放たれ始める。


チルドは一体なんだこれはと驚愕。


さらにリズムはその光を放つ手でナイフを握り、チルドの懐へと入り込むと、その身体を地面へと叩きつける。


呻く黄色頭を見下ろして、リズムが駆け付けたパロマとムドへ声をかけた。


「確保したよ。いやいや、危ないとこだったね」


パロマはフンッと鼻を鳴らし、ムドのほうはホッとしている。


「やっぱスゲーよな。そのオーラってヤツ」


ムドにそう言われ、リズムは微笑みを返した。


彼女たちは、才能の追跡官アビリティトレーサー


特殊能力者で構成された組織の班員であり、この電気回路で発達した犯罪都市――アンプリファイア・シティに派遣された軍警察である。

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