脳の歪みは彼女のために

コラム

001

少年はベットから目を覚ました。


朦朧もうろうとする意識で周囲を見渡す。


どうやらどこにでもある民家の一室のようだ。


ここはどこだろう、どうして自分はこんなところにいるのだろうと、手で自分の顔に触れてみると、包帯と傷跡があることに気が付く。


さらに、包帯は頭にも巻かれている。


自分は大怪我をしてここへ連れて来られたのか。


思考を巡らせるが、頭痛がして思い出すことができない。


自分が何者で何歳で、何と呼ばれていたか、なんという名前なのかさえ思い出せない。


彼がふと左の肩口に目をやると、そこには文字のようなものが見えた。


そこにはDS-1と書かれている。


これはなんだ、何かの番号か何かか。


まさかこれが自分の名前か。


少年はそう考えていると、目の前には椅子に寄りかかって眠っている少女の姿があった。


年齢は十代前半くらいだろうか。


まだ幼い女の子にしては髪の短い黒髪の少女だった。


その少女の顔色は悪く、ベットで横になっていた自分よりも重症者に見える。


「き、きみ……はぁ……」


少年は少女に声をかけようとした。


だが、うまく言葉を口にすることができない。


何度も喋ろうとするが、やはり自分の考えを言葉に変換して出すことができない。


そのとき、部屋に人が入って来た。


少年は驚くでもなく、入って来た人物を見た。


頭をすっぽりと覆った布――バンダナを巻いた男だ。


「目が覚めたか? って、おいリズムッ! またムチャやったなお前ッ!」


男は少年に声をかけると、眠っている少女に気が付き、怒鳴り始めた。


リズムと呼ばれた少女は、それでも目を覚まさない。


バンダナの男は、リズムを抱き上げて部屋を出て行こうとする。


少女を抱き上げた男の両手は金属だった。


義手なのか。


少年はそう思ったが、それよりも少女が連れて行かれる前に聞きたいことがあると、彼は喉を振り絞る。


「まッ! ま……てぇ……えッ!」


バンダナの男が少年のほうを振り向く。


そして、ニカッと歯を見せて笑った。


「お前もあんまムリすんじゃねぇよ」


そして、男は身体を少年のほうへと向ける。


「オレはソウルミュー·ライクブラック。世界最高のガジェット開発者だ。そして、この死にかけてる美少女は俺の妹のリズムだよ」


「なっあ……ん……でぇ……?」


なんとか言葉を繋ごうとするが、少年はやはりうまく喋れない。


ソウルミューと名乗った男が言う。


自分の妹であるリズムが、ずっと少年のことを看病していたのだと。


「こいつのアホなとこだよ。他人を助けようとして自分が参っちまってんだから。まさにミイラ取りがミイラになるってヤツか。いや、違ったっけ?」


そして、ソウルミューは少年に寝ているように言うと部屋を出て行った。


残された少年は、ぼやけた意識のまま呟く。


「リ……ズム……。リ……ズム……」

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