第2話-②

 コンビニにつき、スマホで時間を確認すると11時40分を示していた。

 どうやら知らないうちに早歩きになっていたようだ。「どれだけ楽しみにしてたんだ・・・」と自嘲気味じちょうぎみに笑ってしまう。

 

 早くついてしまったし、コンビニでコーヒーでも買ってのんびり待ってよう。

 

 そう思い店内に入るとエアコンがついているのか、涼しげな空気が私を包んだ。

 

 目当てのコーヒーを求めてドリンクコーナーまで行くと、見知った顔の人がいることに気づいた。

 というか、私が待つはずだった人、朝日海那あさひうみなさんその人だった。

 いつもと違う私服姿の海那さんは、黒のパンツに白のTシャツの上からデニムジャケットを羽織っていて、メイクもいつもよりばっちり決まっているからか、『きれい』というより『かっこいい』という印象が強くてつい見とれてしまう。

 

 そんな海那さんはこちらに気づいたのか、一瞬驚いたような顔になり、


葉月はづきじゃん、おはよ。早いね?」


 とクスっと笑いながら声をかけてきた。


「お、おはようございます。早く着いたほうがいいかなって、ちょっと早めに出ちゃいました」


 いきなりだったので若干声が上擦ってしまった。

 

「そうなんだ?ありがとうね」

 

 そう言い、海那さんは私に笑いかけてくれる。


「全然です!迎えに来てくれるのに、待たせるわけにはいきませんから・・・!」

 

「葉月はまじめだねぇ」


「海那さんこそ、来るの早いですね?待ち合わせの時間までまだ結構あるのに」


「初めて来る場所だったし、道が混んでるとかで遅れちゃうのが嫌だったから早めに出たの」と言った後「それに葉月との『デート』、楽しみだったから」とクスッと笑って付け加えるのだった。


 私は「そ、そうですか…」と言い、恥ずかしくてつい目を逸らしてしまう。


 私は誤魔化すように、ドリンクが並んだ棚からブラックコーヒーを選んで手に取る。

 海那さんも何を買うか決めていたみたいで、棚からミルクティーを選んで手に取った。

 すると海那さんが私の方をじっと見て、「ん」と私のほうに空いてるほうの手を差し伸べてきた。

 私はきょとんとそれを見て、自分の手を海那さんの手に差し出した。


 すると海那さんは「ふっ」と噴き出して「違う違う、ほしいのは葉月の手じゃなくて、そっちのコーヒーだよ」とよっぽど面白かったのか、笑いながら言ってきた。


「ご、ごめんなさい!」


 私は手を慌てて引き、代わりにコーヒーを差し出した。

 めちゃくちゃ恥ずかしい。耳まで赤くなってる気がする・・・。


「ん、ありがと。それじゃお会計してくるから、葉月はちょっと待ってて。それとも私と手、繋ぎたい?」


「だ、大丈夫です!私、外で待ってますね!」


 からかうように言う海那さんを置いて、私は外に早歩きで向かった。


 外に出ると、自分の体温が高くなったせいか、さっきより気温が高く感じるのだった。



 外で待っていると、しばらくして海那さんがコンビニから出てきた。「お待たせ」と言い、買ってくれたコーヒーを私に渡してくれた。


「すいません、奢ってもらっちゃって」

 

「これくらい全然気にしないで、今日はとことん付き合ってもらう予定だし」


 海那さんはそんなことを言い、自分用に買ったミルクティーを一口飲んだ。

 私もそれにならい「ありがとうございます、いただきます」とコーヒーを一口飲む。

 

 コーヒーのすっきりとした苦みが、私の上がった体温を少しだけ下げてくれる、そんな気がした。


「それじゃ行こっか」

 

 そう言い海那さんは近くにめてあったベージュ色の軽自動車に乗り込む。どうやらそれが海那さんの車らしい。

 私も助手席のほうに回り込み、「お願いします」と一言言って車に乗った。

 

 海那さんの車はたばこの匂いが染みついてる、わけではなく芳香剤のいい香りがした。

 後部座席を見ると、3匹の猫のぬいぐるみが並んで座っていた。左から白、黒、茶色の順だ。

 ぬいぐるみのことを海那さんに聞くと、「あぁ、それね。左からねこ吉、ねこ助、ねこ次郎っていうの、可愛いでしょ?」と笑いながら言っていた。

 海那さん、ぬいぐるみに名前つけるんだ。ぬいぐるみじゃなくて、そんな海那さんが可愛いな。なんてことをつい思ってしまった。


「まずはお昼ご飯を食べに行きたいんだけど、葉月何か食べたいものある?」

 

「うーん」と考えて「パンケーキ食べたいです!」となんとなく出た答えを海那さんに伝える。


「いいね、パンケーキ。おすすめのパンケーキのお店あるんだけど、そこで大丈夫?」


「大丈夫です、海那さんのおすすめも気になりますし」


「そっか、葉月は可愛い後輩だねぇ」


 海那さんはそう言い、車のエンジンをかける。

 私がシートベルトを締めたのを確認した海那さんは、車を運転し始めた。


 私は窓の外を眺めながら、これから始まる『デート』に思いをせる。

 待ちに待った『デート』は、始まったばかりだ。

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