第2話 初めての『デート』

第2話-①

「ピピピピっピピピピっ」


 耳から直接頭を刺してくるような音で、私の頭は夢の世界から現実の世界へと強制的に引き戻される。

 枕元に置いてあるスマホを手にとって、未だ鳴り止む気配がないその音を止める。

 時間を確認すると10時ぴったりだった。寝坊はしていないみたいでホッとする。


 体を起こして「んーっ」と体を伸ばしていると「ふあぁー」とあくびも一緒に出てきた。


 いつもならもうちょっと惰眠だみんむさぼりたいところだが今日という日はそうはいかない。

 そう、今日は海那うみなさんと約束した土曜日なのだ。

 あれから何度かLINEでやり取りして、海那さんが12時くらいに家の近くのコンビニに迎えに来てくれることになっていたので、この時間に起きるくらいがちょうどいいと思ったのだ。


 私は寝起きの頭を起こすためにとりあえず顔を洗おうと思い自室を出て、家の一階に降りる。

 私の家は二階に私の部屋と両親の寝室があって、一階にリビングなどがある一般的な一軒家だ。

 一階に下りる途中、誰かがテレビを見ているのか最近よく聞くお笑い芸人の声が聞こえてくる。

 今の時間だとおそらくお母さんだろう、お父さんは土曜日も働いてるはずだ。

 一階降りると、お母さんがリビングで朝ごはんであろう食パンをかじりながらテレビを見ているのが見えた。

 お母さんはミディアムボブに切った髪をパーマで巻いていて、さらにその髪を明るい茶色に染めている。童顔なのもあってか、実年齢より若く見える。

 私がお母さん似の顔をしているからか、休日一緒に買い物に行ったとき何度か「姉妹ですか?」と聞かれるくらいだ。


「おはよ」


「おはよう葉月はづき、今日は早いのね?食パン葉月の分もあるけど焼こうか?」


「ん-ん。お昼外で食べる約束してるから朝ごはんはいらないや、ありがとね」


 お母さんに今日約束があることを伝え、私は顔を洗うために洗面所に向かう。

 

 顔を洗い、ついでに寝癖ねぐせも直しさっぱりした気持ちで自室に戻ろうと階段に足を掛けてふと、お母さんにもう一つ伝えなければいけないことを思い出した。


「お母さん、今日は夜ご飯もいらないや。外で食べてくるね」


「わかったわよー、遅くなるのはいいけど、どこか泊まるならちゃんと連絡するのよ」


「ご飯はいらないけど、泊まりにはならないから大丈夫!」


 お母さんはなんてことないように了承してくれた。ご飯いらないだけで、どうして泊まることになるんだろう・・・?

 今日はお昼から遊んで、夜ご飯を食べて解散。という予定だから泊まるようなことはない。

 私はお母さんの軽口を聞き流し、準備をするため自室に戻るのだった。


 

 部屋につき、昨日のうちに決めておいた服をクローゼットから取り出す。

 昨日のうちに決めておいたのは単純に、今日決めようとすると悩みすぎて時間がかかると思ったからだ。

 

 実際昨日「これじゃ子供っぽいかな・・・?」とか「これは気合入りすぎ・・・?」とか1時間ほど悩んだ。

 

 そんな私が選んだ服装は、白のオーバーサイズのTシャツに花柄のスカートだ。靴は白のスニーカーを履く予定。

 今日は「歩くかもだから動きやすい服装のほうがいいかも」と海那さんにも言われているから、なるべくラフで動きやすい格好をチョイスした。

 そういえば、今日の予定はお昼を一緒に食べて、夜ご飯を食べるくらいしか聞いていない気がする。歩くかもっていったい何をするんだろう・・・?

 そんなことを考えながら部屋着のスウェットを脱ぎ、昨日決めた洋服たちに着替えていく。

 

 着替え終わり、鏡を見て全身を改めて見てみる。


「悪くない・・・と思う・・・」


 子供っぽくなく、気合が入りすぎてもない、自然な感じになっているはずだ。

 実際おしゃれなんて自分が好きなものを着ればいい、とは思うのだけどやっぱり初めて遊ぶ海那さんに変に思われるのは嫌だ。

 また悩みだすと沼にはまりそうだったので、ほどほどに切り上げる。

 

 その後メイクを済ませ、髪をセットしたら11時30分をまわっていた。

 最寄りのコンビニとはいえ、歩いて行くと10分程度はかかる。

 余裕を持って出たいし、そろそろ家を出るべきだろう。

 私はお気に入りのショルダーバッグを抱え、忘れ物はないか念入りに確認した後部屋を出たのだった。



 一階に降りるとお母さんがこちらに気づいたのか、こちらに振り向き、


「今日はいつもよりなんかおしゃれね、可愛いわよ」


 なんてことを言ってくる。

 

「あ、ありがと・・・。変じゃないかな?」


 照れながら、そんなことを聞いてみる。 


「全然変じゃないわよ?私の娘なんだから、可愛いに決まってるじゃない」


 そんなことをお母さんが言ってくれるからか、少しは自信が出てきた。

 『私の娘なんだから』なんて自信満々に自分で言うのも、我が親ながらどうかと思うが・・・。


「可愛いかどうかは置いといて、変じゃないならよかった・・・」


「あんたは可愛いんだから、どんな服着たって似合うわよ。もっと自信持ちなさい?」


 私は「分かったから、もう行くね!」と適当に返事をしてリビングから出て、玄関に行く。

 家で履いてるスリッパからスニーカーに履き替え、ドアに手を掛け「いってきます」とお母さんに声をかけ外に出た。


 外に出ると6月にしてはカラッとした晴天で、温かい空気が私を迎え入れてくれた。

 今日は待ちに待った海那さんとの『デート』の日だ。

 私は浮き立つ気持ちのまま、待ち合わせのコンビニまでの道を歩くのだった。

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