第1話 『デートの意味』

第1話-①

「おはよー」


 私はあくびをしながら自分の席の椅子を引きながら、前の席でスマホをいじっていた同じバイト先でもある友達の美山澪みやまみおに話しかけた。


「あ、葉月はづきじゃん。遅刻ギリギリなんて珍しいね。ていうか眠そうだね?」


 チャームポイントのポニーテールを揺らしながら私のほうにからだを向け、澪はそんなことを言う。


「ん、ちょっとねー。色々考え事してたらなかなか寝付けなくて。ふあぁ~」


 澪に適当に返事をしたらまた一つ欠伸が出た。


「葉月が考え事なんて珍しい」なんてぼやきながら「そういえば今日朝練で由紀ゆきがさ——」


 おそらく今日はバスケ部の朝練の日だったのだろう、澪は朝練であったことを私に報告してくる。

 澪は今年の四月から入学してきた遠山由紀とおやまゆきちゃんのことがえらくお気に入りみたいで、時折こういう風に私に報告してくるのだ。

 私は眠い目を擦りながら、「うん」だの「そうなんだ」と適当に相槌を返す。

 澪とそんな風に雑談してしばらく経つと、ホームルームを告げるチャイムが鳴った。


 

 ホームルームで先生が今日のことを色々話ているのを聞き流し、私は睡魔で霧がかかったような頭で昨日のことを思い出す。


『私とデートに行こう』


 何でもないことのようにそう言った海那うみなさんと予定はLINEで詳しく決めようなど、数回言葉を交わした後私は家に帰ったのだが、海那さんの言った『デート』という単語が気になって悶々としていたのだった。

 別に『デート』なんて単語、女子同士だと冗談で言ったりするから珍しくない。

 実際、澪や由紀ちゃんと遊びに行くとき冗談で言ったりもする。

 だが今回は相手が違う、普段学校でも会ったり頻繁に遊びに行ったりする澪や由紀ちゃんとは違うのだ。

 海那さんとはバイトを始めたときに仕事を教えてくれたりとバイトでの付き合いはあったものの、プライベートの付き合いなんて全然ない。

 それにあんな顔が整った美人だ。そんな海那さんに『デート』なんて言われたらいくら女子同士でも悶々としたって仕方ないと思う。

 海那さんも別に、そんなに深く考えて言ったわけではないだろうし、何か特別な意味を持たせて言ったわけでもないんだろうけど、やはり気になってしまうのだ。

 それに元々は私がお礼をするつもりだったのだ、それがなんで私との『デート』になるんだろうか。

 海那さんの考えてることが分からない・・・。

 そんな風に、海那さん本人しかわからないようなことを一人悶々と考えていたら、気づいた時には深夜の2時を回っていて、私は睡魔と戦う1日を過ごす羽目になったというわけだ。


「おーい葉月、起きてる?戻ってこーい」


 私はそんな声に一瞬ビクッとし、声のほうに目を向ける。

 そこには朝と同じように、体をこちらに向け私の目の前で手を振ってる澪の姿があった。


「な、なに?」


「なにってあんた、ずっとぼーっとしてたけど大丈夫?もうホームルーム終わったよ?」


 澪に言われて周りを見渡すと、どうやらホームルームはいつの間にか終わっていたみたいだ。

 海那さんのことを考えてまた時間を忘れてしまっていたらしい。


「だ、大丈夫、ちょっとぼーっとしてただけ・・・」


「そう?大丈夫ならいいんだけど、あんまり眠いなら保健室で少し休んできたら?」


 澪は心配そうに私を見ながらそんなことを言ってくれる。


「んーん、全然平気。ただちょっと夜更かししちゃっただけだし、そんなことより一限目化学でしょ?移動教室だし、早く行こう」


「あ、そうだった、化学の元塚もとづか先生遅れるとすごい怖いし早く移動しちゃおう」


 そう言って澪は、バタバタと忙しなく一限目の授業で使う教科書やノートやらの準備を始めていく。

 もしかして海那さんはこういう風に私が悶々として、困ることを想像して『デート』なんて言葉をわざわざ使ったのかもなぁ。

 なんてくだらない事を考えながら私も澪にならって授業の準備をするのだった。

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