第52話 体調不良
山登りの筋肉痛が癒えた頃から、僕たちは次の模試に向けて勉強を始めていた。
ただ――。
その日は珍しく朝に理沙からメールが届いた。
『おはよー(^ ^) ごめん、今日熱が少しあるみたいだから、休もうと思うm(_ _)m』
『え、大丈夫?』
『今は熱があるだけだから、寝てたら治ると思うー』
『わかったよ。お大事に』
『ごめんね。今晩は行けないと思うから(><)』
『自分でなんとかするから大丈夫!』
『ふぁいとp(^_^)q』
大丈夫かなぁ……。
理沙が心配だけど、メールの文面は元気そうだし、僕は不安だったけど学校に行くことにした。
◆
夜、僕は家に帰ってから理沙にメールを送る。
『こんばんは。体調はどう?』
すると、すぐに返事が返ってくる。
いつも返信が早いのは相変わらずで、そのことに少し安心する。
『熱下がらない……』
『そうなんだ。それ以外は大丈夫なの?』
『うん。……でも、寂しい(T-T)』
『明日良くならなかったら、夕方行くよ』
『ありがとう! でも、無理しないで』
『大丈夫だって。それじゃ、よく寝てね』
『うん。おやすみ』
11月になって、日に日に冷え込んできてるから、体調崩したのかな。
理沙と付き合い始めてから、彼女が風邪を引いたのは初めてだ。
このところ、毎日のように理沙が家に来て夕食を作ってくれていたけど、今日は自分でなんとかすることにした。
「えっと……」
僕は冷蔵庫の中を確認する。
少しは料理を教えてもらっていたけど、正直まだよくわからない。
なんというか……作りたいもののレシピを見ながらだとなんとかなるんだけど、冷蔵庫の中にある食材で何が作れるのかがわからないんだよね。
困った僕はとりあえずご飯を炊いて、冷蔵庫の中にあった豆腐を冷奴にして食べることにした。
これなら、醤油かけるだけだし、失敗の心配はないから。
あとは、ストックしてあったインスタントの味噌汁と、ご飯にはふりかけ。
しばらくならこれで我慢できる。
今までずっと頼りっきりだったなぁ……。
ちゃんと料理を覚えて、少しでも楽にしてあげないと。
もしかしたら、風邪を引いたのも疲れてたのかもしれないし。
そう思いながら、僕は冷たい豆腐を食べた。
◆
翌朝、学校に行こうと僕が準備していると、今日も理沙からメールが届いた。
『おはよう! だいぶ熱は下がったよ!』
それを見て、僕はほっと胸をなで下ろす。
『よかったー』
『でも、念のため今日も休むよ。明日からは行けると思うー』
『わかったよ。一応、夕方寄るつもり』
『りょーかい!』
何を手土産に持っていこうかと思いながら、僕は家を出て駅に向かった。
◆
「ってわけなんだけど、何か良いアイデアない?」
昼休み、学食で友達の松本と昼を食べながら、僕はお見舞いの品について彼に聞いてみた。
最近ずっと理沙と一緒だったからか、松本とこうして顔を突き合わせて昼を食べるのも久しぶりだった。
「そんなの、万年独り者の俺に聞いてわかると思うか?」
松本は呆れた顔で答える。
それはそうかもしれないけど、松本は結構気がきくヤツだから、そういうのわかるかなって思ってきいてみたんだけど。
「うーん……。そうかぁ……」
「そもそも岩永が一番知ってるはずだろ? 何が喜ぶかとか……」
そう言われて、改めて考えてみる。
暇な時に貰って嬉しいのは、理沙の場合は本とかかなぁ、やっぱり。
ただ、明日から学校来れるくらいってことだから、今日渡してもって気もした。
あ、それじゃ、素直にケーキとかの方がいいかな。
理沙は、甘いもの意外と好きだから。
「とりあえず、ケーキでも買っていくよ」
「へー、良いんじゃね? ケーキって言ったら、夏頃に開店した店、あったろ? 最初行列すごかったけど、今はそうでもないみたいだから、ちょうど良いんじゃないか?」
「ああ、マルシーの近くにできてた店」
「そうそう。帰りに寄りやすいし」
「うん。ありがとう。そうする」
手土産も決まったし、僕は早く放課後になるのを待った。
◆
松本との相談のとおり、僕は帰りにケーキを買った。
理沙と、理沙の両親のぶんで、合わせて3個。
それを手に持った僕は電車に揺られて、自分の家の最寄駅を過ぎ、理沙の家の近くの駅まで急いだ。
駅に着くと、歩いて彼女の家に向かう。
理沙の家に着くころには、もう外は薄暗くなっていた。
外から見える彼女の部屋には明かりがついていない。
寝てるのかな、と思いながら、理沙にメールを打つ。
ただ、いつものようにすぐには返事は返ってこなかった。
珍いけど、トイレとかのことだってあるだろうしって思ってしばらく待ってみても、返信はない。
不思議に思いながら玄関の扉に手をかけると、鍵は開いていた。
勝手に入るのに悪い気もしたけど、中を見ると理沙の靴があったから、玄関から声をかけた。
「理沙ー! いるー?」
声をかけても返事はなかった。
寝ててもこれだけの声なら起きるだろうと思う。
不安に思いながらも、僕は階段を上がって理沙の部屋に向かった。
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