第40話 書店

「……麺、硬っ!」


 口に入れたうどんの麺を飲み込んでから、理沙は開口一番に一言呟いた。


「そうだね」


 それは僕も同感で、学食や近所のうどん屋で食べる麺はもっと柔らかい。

 それに比べると、見た目は同じように見えるけど、全然違う食べ物に思えた。


「顎が疲れそうー。美味しいけど……」


 理沙はそう言いながらも、すでに丼の中はそこそこ減っていた。

 そういえば、僕たちは一玉のうどんを頼んだけど、二玉注文してる人を多く見かけた。

 量が2倍違うわけだから、一玉だとちょっと少なく思えた。


「みんな食べるの早いね」

「うん……」


 食べながら周りを見ると、みんな勢いよくズルズル食べていた。後から来て、もう食べ終わっている人もいるくらいだ。

 とはいえ、2人ともなんだかんだでスルスルとお腹に入ってしまった。


 残りの出汁を飲みつつ、理沙が言った。


「普通……って言ったらあれだけど、普通に美味しい。最初硬くてびっくりしたけど。……まだ何杯か食べれそう」

「食べてたら、硬いのもなんか慣れちゃったな。コシがあるって言った方が良いんだろうけど」

「どこにでもうどん屋あるし、毎日うどん食べるってのもわからなくもないね」


 僕たちは席を立って、空いた丼の返却口に持っていく。

 箸は別のゴミ箱があって、そこに捨てるみたいだった。


「来るまでは少し心配してたけど、そうでもないね。1人のお客さんもいっぱいだし」


 見ればカウンター席も多くあった。

 今日は日曜だから会社員っぽい人は少ないけど、たぶん平日だと会社の昼休みに来るって人も多いと思う。

 安いし早いから、ささっと食べてっていうのにはちょうどいいし。


「次どこ行く?」


 店を出てから、理沙は僕に聞いてきた。


「商店街に宮肘書店の本店があるって知ってる?」

「宮肘って、あの?」

「そうそう。学校の近くにもあるよね」

「へー、本店ってここだったんだ……」


 今は全国にあるチェーン店の本屋だけど、本店がここにあるって知ったのは最近だった。


「本店って言うだけあって結構大きいみたいだから、行ってみたいなって」

「うん、良いよ。私も気になるー」


 最初に行ったうどん屋から、歩いて10分くらいで商店街の中にあった宮肘書店に着いた。


「……意外と地味だね」

「そうだね。入り口狭いし」


 商店街の中の店だからか、それほど大きな本屋にはとても見えなかった。


「とりあえず入ろうか」

「うん」


 中に入っても意外と狭く感じた。

 たぶん、天井が低いのと、通路が狭いからかな?

 でも、店内図を見ると、今僕たちが居る本館も3階まであって、中で繋がってる新館は6階まであるみたい。

 合わせると結構な広さになりそうだった。


「んーと……私達が見るような本は新館ぽいね」


 理沙が店内図を見ながら呟いたのに、僕は頷いた。


「そうみたい。……行く?」

「もち!」


 そう言う彼女に僕は手を引かれて、1階の奥から繋がる新館に入った。


「……こっちは広くはないけど、綺麗だね」


 店内の広さ自体は本館の方が広いけど、新しいからか、新館の方がずっと明るくて綺麗だった。


「――あっ! 見てみて、コレ!」


 そう言って理沙が手に取ったのは、かなり古めの本だった。

 かなり有名で、僕もタイトルは知っていたけど、読んだことはなかった。


「結構古い本だけど、まだ本屋で置いてるんだ……」

「普通、どんどん新しい本になっていくもんね」

「凄いなぁ。……私は持ってるから買わないけどね。あはは」


 そう言いながら、理沙は笑った。


「えー、じゃあ貸してよ。読んでみたい」

「いいよー。……私にゲームで勝ったらね」


 にやりと笑みを浮かべて、理沙が言う。

 僕は頭を掻きながらそれに答えた。


「えー、それずっと借りられないやつじゃ……」

「あはは、ひろくんが頑張ればすぐだよー」


 理沙は僕の胸を指でつつきながら、「――冗談だよ」と笑った。

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