第34話 負けず嫌い

「あ、はい。私です」


 理沙が手を挙げると、運ばれてきたカキ氷が彼女の前に置かれた。

 ここの店のカキ氷はかなり大きなサイズで、理沙が驚いていた。


「思ってたより……大きいね。カキ氷って、久しぶりかも」

「ここのは大きいよね。溶ける前に先食べなよ」

「うん」


 僕が言うと、理沙は頷いてスプーンをカキ氷に突き刺した。

 その影響でポロッと上の方の氷が崩れて、テーブルへと落ちた。


 それを見た理沙は「むぅ……」と、顔をしかめつつも、そのまま氷をすくって口に入れた。


「あー、冷たいっ!」


 すぐに僕の注文した宇治金時も届けられる。

 カキ氷は僕も今年初めて食べるけど、食べ慣れてはいた。


「理沙、こうすればこぼさないんだ」


 僕はそう言って、カキ氷の真ん中にそっとスプーンを突き刺し、氷をすくった。


「えーっ、意外。端から食べるものって……」

「あんまり盛り上がってないやつならそれで大丈夫だけどね。と言っても真ん中から行っても、ダメな時はダメだから。その時は諦める」


 笑いながら僕は理沙に言う。

 次に修さんのみぞれが届けられ、無言で食べ始めた。

 理央さんのパフェは時間がかかってるのか、まだ来ない。3人がカキ氷を食べているのを、彼女は眺めていた。


 理沙のカキ氷もだいぶ減ってきて、食べやすくなったみたい。

 もう溢れないかなと、僕はお手拭きで彼女のカキ氷から溢れた氷を拭き取った。


「あ、ごめん。ありがとう」

「気にしなくていいから」

「うん……」


 そのとき、理央さんの頼んだフルーツパフェが届いた。

 予想以上に大きなパフェで、思わず理沙が呟いた。


「お、おっきい……」

「ふふー、良いでしょー?」


 なぜか勝ち誇ったように言う理央さんに、理沙は口を尖らせた。


「ひろくん、次のデート、私ここであのパフェ食べる……!」

「ええっ。まあそれは良いんだけど……。それより、こっちの方がいいんじゃない?」


 僕は彼女にメニューを開いて見せながら、とある写真を指差す。

 ここに来たときはカキ氷のページしか見てなかったけれど、パフェのページを見ると、いろんな種類のパフェがあった。

 僕は何度か来たことがあった店だから知ってたけど、この店の看板メニューみたいなパフェがそこに載っていた。


「……スーパージャンボパフェ……?」


 他のパフェが小さく見えるほど巨大な器に、これでもかと言うほどアイスやフルーツを山盛りにしたパフェだ。


「うん。僕も食べたことはないけど、食べてるのを見たことは何度かあるよ」

「すっごい……」


 メニューには3、4人前と書いてあるけれど、カップルで食べきっているのを見たこともあった。


「僕も前から一回チャレンジしてみたいなって思ってたけど、家族で食べるのもね……」

「――うん、やる! 私、次来てひろくんとこれ食べる……!」


 理沙は獲物を狙うような真剣な目でメニューを凝視した。

 ゲームをしているときと同じで、負けず嫌いな彼女が次のターゲットを見つけたようだった。


 ◆


 最後に理央さんがパフェを食べ終わるまで、修さんは終始無言だった。

 でも機嫌が悪いってわけではなさそうで、みんなの様子を一歩引いて見ているような、そんな気がした。


「ごちそうさまでした」


 僕が手を合わすと、修さんは口を開いた。


「こんなものですまないね。次はもっと良いものをごちそうするよ」

「いいえ、お気になさらず。ありがとうございました」


 会計をしている修さんを待って、僕たちは先に店の外に出た。


「結局、あんまり話せなかったけど……」

「大丈夫だよ。お父さんもともと無口だし、たぶんひろくんのこと、気に入ってくれたと思うよ?」

「……だと良いんだけど」


 カキ氷が溶けてしまうということもって、食べている間あまり会話がなかったことが、僕には少し心配だった。

 会計を終えた修さんが店から出てきた。


「私は仕事があるから、ここで失礼するよ。母さん、あとは頼む。……弘くん、娘をよろしく」

「は、はい。こちらこそよろしくお願いします」


 修さんは小さく手を上げ、駐車場のほうに歩いていく。

 その背中に僕は頭を下げて見送った。


 修さんが見えなくなると、理沙は僕の腕に手を絡めて、耳元で囁いた。


「良かったー。……これでもう、お父さん公認ってことだね?」

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