第33話 初対面

 僕らは理央さんの車に乗せてもらって、近くのショッピングモールにやってきた。

 そう、プールに行く前日に、理沙と水着を買いに来た所だ。

 そのモールのレストラン街にある、ファミレスと喫茶店の間くらいの店に向かう。


「あ、お父さん!」


 通路にあるソファに座っていた男性を見つけて、理沙が声をかけた。


「来たか。……ということは彼が?」

「うん……。このまえ話した、岩永くん。中間テストの前くらいからかな。つ、付き合ってるのは……」


 少し恥ずかしそうに、理沙は父親に僕のことを紹介した。

 やっぱり病院ですれ違った男性が理沙の父親だったみたいだ。

 僕はその男性が険しい顔をしているのに緊張して、ひと口唾を飲み込んでから自己紹介を始める。


「はじめまして。岩永弘と言います。理沙さんとお付き合いさせていただいています。……この前は僕の不注意で理沙さんに怪我をさせてしまい、申し訳ありませんでした」


 周りの目はちょっと気になるけれど、僕はしっかりと深く頭を下げた。

 5つ数えたくらいか。理沙と両親の視線を感じるなか、僕は顔を上げた。


「はじめまして、岩永君。私は理沙の父の修という。……娘の様子でなんとなくわかってたが、こうして会えて安心したよ。さ、細かい話は後にして、行こうか」

「はい」


 修さんはそれだけ言うと、店に向かって歩き出す。

 それに僕たちも付いて歩いた。


 理沙が僕に小さな声で耳打ちしてきた。


「……ひろくん、よかったね。今日の父さん、機嫌が良いみたい」

「そうなんだ……」


 険しそうな顔に見えるけれど、理沙から見れば、あれでも機嫌が良いらしい。


「いらっしゃいませ。4名様でしょうか?」

「ああ」

「ではご案内いたします」


 店に着くと、昼食どきではないからか席は空いていた。

 6人掛けの広めのテーブルに案内され、僕と理沙は横に並んで座った。僕の前に修さん。理沙の前に理央さんと言う具合だ。

 修さんと正面で緊張するけれど、仕方ない。


「……好きなものを頼んでくれていい」

「はい、ありがとうございます」


 メニューを渡されて、理沙と2人でじっくりと見る。

 そういえば理沙は家族であまり外食をした経験がないって言ってたな。

 今日は退院祝いとかになるんだろうか。


「ひろくん、決まった?」

「うん。僕は宇治金時にする」

「へー、渋いね。私は練乳いちごかなぁ……」


 その様子を見ていた修さんが、店員を呼んだ。


「はい、ご注文をお伺いしますね」

「弘くんからどうぞ」


 修さんに促され、僕は店員の女の子に注文を伝える。


「僕は宇治金時でお願いします」

「私は練乳いちご!」

「はい、宇治金時と練乳いちごですね。次どうぞ」

「私はみぞれで」

「それじゃ、私はこのフルーツパフェで」


 最後に理央さんが笑いながらも、1人だけカキ氷じゃなくてパフェを注文した。


「うわ、お母さんずるい!」

「だってお父さん好きなものって言ってたでしょ?」

「そうだけど……。カキ氷食べに行くって言ってたんだから、ふつうその中から選ぶでしょ?」

「それは先入観ねぇ。……まぁ、注文変えても良いけどどうする?」


 理沙は抗議するものの、理央さんの言うことも間違えてはいなかった。

 最初から『カキ氷しか食べてはいけない』とは一言も言っていなかったし。


「うぅ……そのままで良い」


 理沙は言い包められて素直に引き下がった。


「では注文を確認しますね。宇治金時、練乳いちご、みぞれのカキ氷がそれぞれ1つ。それとフルーツパフェがおひとつですね?」

「はい。間違いないです」

「ありがとうございます。それではしばらくお待ちくださいね」


 店員の女の子は笑顔で確認したあと、厨房にオーダーを入れに戻った。


「……それで弘くん。うちの娘が迷惑をかけてたりしないか? こう見えてワガママな所があるからな」


 注文を待っている間、修さんは僕にそう聞いてきた。


「あ、いえ。勉強を教えてもらったりして、すごく助かってます。おかげで成績も上がりましたし、毎日楽しいです」

「そうか。娘の成績が下がったらすぐ別れろって言うところだが、逆に上がってるようだし、私からは何も言うことはないよ」

「お父さん……」


 理沙が小さく呟くが、修さんは続ける。


「まぁ、娘には話してはないが、私もお母さんとは高校の同級生だったんだ。一緒に勉強して、幸い私は医学部に受かったが、母さんはうまくいかなくて看護師になったんだ」

「そうなんですね……」


 僕は修さんの話を頷きながら聞いていたけど、理沙は軽く笑いながら言った。


「私、お母さんからその話聞いてたよーだ。お母さんの方が成績良かったのに、センター試験のとき体調崩したって」

「なんだ、知ってたのか。……まぁそう言うわけで、学業を疎かにはするなよ。あと、ちゃんと避妊はしろ」

「――――!」


 修さんの忠告に、場が凍りついて、理沙は顔を真っ赤にして言葉を詰まらせる。


 ――ちょうどそのとき、その場の緊張を解き放つように、店員の女の子の声が響いた。


「お待たせしましたー。えっと、練乳いちごのかたー?」

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