第32話 退院の日に
あれから理沙は3日入院したけど、検査でも特に異常がないってことで、無事退院できることになった。
退院の日は理央さんが来てくれるらしいから、僕は家で宿題をして過ごしていた。
すると、不意に彼女からのメッセージが届く。
『やほー。いまお母さんが退院の手続きしてるよ(・∀・)』
『よかったね』
『でね、帰ったらカキ氷連れて行ってくれるんだ。ひろくんもおいでよ!』
『僕が行ったら悪いでしょ?』
『だいじょーぶだよ、お母さんが誘えって言ってるからd(^_^o)』
理央さんの意図がいまいちわからないけど、誘われて行かないもの悪いかなって思った。
『わかった。時間とか場所教えて』
『うん、後で送るねー(*´∀`)』
◆
理沙が家に帰ってしばらくした頃に合わせて、僕は彼女の家に行く。
玄関でチャイムを鳴らすと、理央さんが顔を出した。
「こんにちは。お世話になります」
「こんにちは。もう少し準備かかるから、入って待っててくれる?」
「はい」
僕はもう何度も来ている理沙の部屋に向かう。
彼女の部屋は最初から扉が開いていて、エアコンはついていなかった。
「あ、ひろくん。暑いけど、入ってて待ってて」
理沙は病院に持って行ってた宿題や着替えを片付けているところだった。
暑いからか、額に汗が滲んでいた。
「今日も暑いね」
「うん。これだけ暑いとエアコンつけたくなるけど、このあとカキ氷食べるからね」
「それでつけてないんだ」
「それもあるし、すぐ出かけるのに勿体無いなって」
そう言いながらも、彼女は手を止めずにクロゼットに着替えを片付けていく。
特にやることもなくて、彼女のベッドに腰かけて、僕はその様子をぼーっと眺めていた。
「ひろくん……あんまり見られると恥ずかしいんだけど」
ふと彼女が声をかける。
あんまり気にしてなかったけど、彼女は下着を抱えるようにして持っていた。
「あっ、ごめん……」
僕は慌てて目を逸らす。
「あはは。まぁ水着と一緒で、ただの布だけどね。……着てるときじゃなければ」
「そうかもしれないけど……」
普段、理沙がそれを身に付けてるって想像すると、なんとも言えない気持ちになる。
そんなことを考えていると、理沙は片付けが終わったのか、僕の隣に座った。
「終わったよ。まだちょっと時間あるけど、どうする?」
「どうって……」
肩が触れるくらいすぐそばに座る理沙から、汗と入り混じった彼女の髪の匂いが鼻腔をくすぐる。
頭にも汗が滲んでいて、髪が額に張り付いていた。
僕は汗拭き用にハンドタオルを持ってきていたのを思い出して、理沙の額の汗をそれで軽く拭いた。
「ありがと。……ひろくんのそういう気が利くところも好きだよ」
はにかみながら笑う理沙が可愛くて、僕は自然に彼女に顔を寄せると、彼女はそっと目を閉じる。
「――んっ」
唇が触れると、理沙が小さな声を出した。
僕は彼女に口付けたまま、暑いのも気にせずにその細い肩を抱くと、一瞬ピクッと理沙が体を震わせたのがわかった。
キスのあと、彼女が笑う。
「ふふ。久しぶりだね」
「そりゃ、入院中はね……」
「私は別に気にしないのに。カーテンあるし」
「僕は気にするって」
「そっか。でもここじゃ大丈夫だね」
理沙はそう言うと、僕の背中に腕を回すようにして、ぐいっと身体を預けてきた。
僕も同じように彼女の背中をしっかりと抱く。
「……あのね。入院中にずっと考えてたんだけど」
抱き合いながら、彼女は僕の耳元で呟く。
「来週――」
そう言いかけたとき、階下から理央さんの声が聞こえた。
「2人とも、そろそろ行くわよー。お父さん、先に店に着いてるみたいだから」
――ん?
お父さん??
てっきり僕は理沙と理央さんとの3人で行くものだとばかり思ってたけど、そうじゃなかったのか。
「あ、はーい」
僕と抱き合ったまま、理沙は顔を上げて返事をする。
すぐに身体を離したけど、彼女の頬は赤く染まっていた。
理沙は小声で「さっきの話は、またあとでね」と、僕の耳元で囁いてベッドから立ち上がった。
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