第26話 目が怖いよ……?

「これとこれ、どっちがいい?」


 水着選びは、理沙が僕のことを考えてくれたのか、ある程度候補を絞ってくれてその中から選ぶことになった。

 とは言えども、どんどん持ってきて体に当ててみて「どう?」って聞かれるのは、それはそれで気まずい。

 だって、どうしても理沙がそれを身に付けてるところを想像しないと、似合うかどうかなんてわからないんだから。


「えっと、僕は左手のほう……かな?」

「はいはーい。……ふふーん。なんとなく、ひろくんの好みが分かってきちゃったかも」


 何度か選択を繰り返していると、彼女は含んだ笑みを浮かべて言った。


「そ、そうかな?」


 ドキッとして戸惑っていると、「ちょっと待ってて」と言って、理沙はまた商品を選びに行く。


 しばらくして彼女が一着の水着を手にして戻ってきた。


「私の予想なら、たぶんこれが今までで一番だと思うけど、どうかな?」


 そう言って見せてきたのは、鮮やかな青色に同色の大きめの模様が入った、セパレートの水着だった。とはいえ、ビキニほどではなく、少しへそが出る程度で、胸元と腰回りにひらひらとしたフリルが付いていた。

 確かに、彼女が着ている姿を想像すると、良く似合うだろうなって思った。


「うん……良いと思う……」


 しっかり直視するのも恥ずかしくて、うつむき加減で僕は答えた。

 でも、そんなに簡単に好みとかバレるものなのかな……?


「だよねー。じゃ、これにしよっか」

「うん」


 僕はようやく水着選びが終わったことにホッとする。


「あ、ひろくん『やっと終わったー』って顔してるよ?」

「そ、そんなことないって……!」


 慌てて否定すると、彼女は笑う。


「あはは。明日が楽しみだね」

「そうだね。……今日はもうこれで帰る?」

「んー、せっかく来たからもっと一緒にいたいなーって思うけど、夏休み遊ぶためにお小遣いは節約したいし……」

「それじゃ、帰りに理沙の家に寄って帰ろうか?」

「うん、そうしよっか」


 ◆


「ねえねえ、見たいでしょ? 水着姿……」


 理沙の部屋に着くと、出してくれた冷たいジュースを飲んで身体を冷やしたあと、僕を覗き込むようにして言った。

 そりゃ見たいけど、からかわれてるようにも思って、僕は答えに困る。

 『イエス』も『ノー』も、正直言えなかった。


「えっと、理沙は見せたいの……?」


 僕は仕方なく、答えをはぐらかすように質問で返した。


「――え? あっ、そ、そんな訳じゃない……けど……」


 そう聞かれるとは思っていなかったのか、理沙は固まってしまった。

 僕はそんな彼女に言う。


「……それは明日の楽しみに取っておこうかなって」

「うん……わかった。……ごめんね、急に変なこと言って」

「ううん、理沙が言うように僕も男だし、正直すごく見たいけど……」


 謝る彼女に申し訳ない気持ちになって、僕は素直に言った。


「えー、やっぱり見たいんじゃない。謝って損したー」


 そう言いながら、理沙は床に置いてあったクッションを僕にぶつけてきた。


「ごめんごめん」

「あはは。じゃ、ご希望にお応えして、着替えてあげるよー」

「ええ……⁉︎」

「別に減るものじゃないからねー」


 理沙はそう言って、買った水着の袋を手に、さっさと部屋を出ていってしまった。

 洗面室かどこかで着替えるつもりなんだろうか……?


 しばらくして部屋がノックされる。


「おまたせー」


 そう言って、ドアの隙間から理沙が顔だけを覗かせる。

 恥ずかしいのか、少し照れたような表情で、しばらくしてから全身を見せた。


 ……バスタオルで隠されていたけれど。

 ただ、なんていうかこれは……。

 バスタオルで水着は隠されてるけど、それ以外は素肌そのまま。

 太ももがほとんど見えていて、もしかしてこれは水着よりも……。


「ごめん……。水着より今のほうがヤバい気がする……」

「そ、そう……なの?」


 彼女は慌てて自分の格好を見下ろしながら、もじもじとしていた。

 ……うん、その仕草がむしろヤバい。

 僕は理性がどこかに飛んでいきそうになるのを必死に取り戻す。


「わ、わざとじゃないよね……? 我慢できなくなりそうなんだけど……」

「ええっ! それじゃあ……」


 真っ赤になった理沙は、このままじゃまずいと思ったのか、バスタオルをストンと落とした。


 ……あ、やっぱりこっちの方が。

 あまりしっかり見るのもどうかと思うけど、目が釘付けになって言葉に詰まる。

 特に普段見ることがないようなところに。


 しばらく無言で見つめていると、目を泳がせながら彼女がポツリと呟いた。


「えっと……ひろくん、目が怖いよ……?」

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