第24話 余韻
僕たちは山頂の公園を歩く。
ここは遊歩道がぐるっと周回していて、散歩するのにちょうど良かった。
車でも上がって来られるようになっていて、駐車場を見ると、何人か自転車で登ってきたみたいで、自動販売機のところで休憩しているのが見えた。
「……さっきはごめん。つい」
展望台でのことを謝ると、理沙は首を振った。
「ううん、ちょっとびっくりしちゃっただけ。気にしないで」
そう言うと、周りをきょろきょろと見てから、少し距離を縮めてきた。
そんな彼女に僕から話しかける。
「……でね、これは少し前に父さんに聞いたことなんだけど」
「うん」
「付き合い始めてすぐは嬉しくて、ちょっと自分と合わないなってところとか、嫌なところがあっても気にならないんだって。で、時間が経ってくると、そう言うのがだんだん気になるって」
「……そうだね」
「だから、そのくらい長く一緒にいても、そういうのがないんだったら、もう大丈夫だって」
理沙はしばらく考えてから、口を開いた。
「……それわかるけど、私は時間だけじゃない、って思うよ。たぶん、どれだけいろんなことを経験したかってことかなって。……例えば、一緒に住んだりしないと、わからないことだっていっぱいあると思うし」
「確かに……」
彼女の言うことも、もっともだと思った。
こうして時々会うだけじゃ、わからないことっていっぱいあると思う。自分でも気づいてなかったけど、イビキが酷いとか。
「ま、今はあんまり細かいこと気にしなくて良いと思う。だってこれだけ楽しいんだから、楽しまないと損だよー」
そう言って笑う彼女が眩しく見える。
「……ごめん。暗くなるようなこと言って」
「あはは。ひろくんが真面目なんだよ。……私は、時間が経っても今と同じだって信じてるし」
「それ、ずっと僕がゲームで負け続けるってこと?」
「えー、それはそれかな。私に勝ったらなんでも聞いてあげるってのは継続で良いよ。……楽しみにしておくから」
◆
「あー楽しかった」
あのあと、もう1軒古本屋に寄って、僕たちは帰りの電車に揺られていた。
「楽しんでもらえて良かったよ。時々こんな感じで本を買ってるんだ」
「うん。今日も幾つも初めてのことがあったから。……逆にひろくんにとっての初めてって何かあった?」
聞かれて考えてみるけど、ちょっと思いつかない。いつもの散歩コースみたいなものだったから。
「特にはないかな……?」
その答えが不満だったのか、理沙はちょっと口を尖らせた。
「えー、じゃあひろくんって、女の子と市内をデートしたことあったの?」
「あ、ううん。それはないけど……」
「じゃあ、私とが初めて?」
「そうだけど……」
僕の答えに満足した様子で頷く。
「……この調子だと、私の高校の思い出って、ほとんどひろくんが出てくることになるよ?」
「それだったら、僕もそうなるんじゃない?」
「だねー。……私、これまで楽しくなかったってわけじゃないけど、あんまり目標もなかったし、毎日似た感じだった。でも、最近楽しすぎて、自分が自分じゃなくなっちゃいそう」
理沙はそう言って、電車に座ったまま、足をバタバタさせた。
言ってることには僕も思いっきり同意できる。毎日こんなに楽しくて良いのかなって。
「僕も理沙と行ってみたいところいっぱいあるし、きっと楽しいって思うよ。できたら、高校のその先もずっと」
「うん。楽しみにしとく。まずは夏休みだね。……その前に期末テストあるけど」
「うわー、嫌なの思い出させないでよ」
「あははー。一緒にするとテスト勉強だって楽しいから大丈夫!」
確かにそうだ。
早く夏休みが来てほしいって思ったりもするけれど、この何気ない日常が楽しくて、いつまでも高校時代が続けば良いのになぁって思う。
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