第22話 市内へ
「あ、見て見て。これこの前、私が貸した本と同じセンセイの本!」
日曜日、僕は理沙と電車で待ち合わせて、市内に出かけた。俗に言うデート……になるのかな。
彼女の希望で、今日は僕のルーティーンの古本屋コースを案内することにしていた。
1軒目の小さな古本屋で、気になる本がないかと物色していたときに、その本を見つけてきた彼女が僕に見せた。
「へー、表紙は写真なんだね。珍しい」
その本はライトノベルなのに実写映画化したらしくて、表紙がその女の子の写真だった。
「うん、映画化前はイラストだったけど、中身は同じかな。私もまだ読んでないけど、買おうかどうしようかな……」
「僕は迷ったらだいたい買ってるよ。値段は?」
「100円」
「それは買うでしょ」
「だよねー」
上下巻揃ってたその本を、理沙は手に持ったまま次の本を物色し始める。
この古本屋では結局3冊の本を買って次に向かう。
買った本をリュックに入れて、僕のすぐ前を歩く彼女のポニーテールが、一歩ごと左右にゆらゆらと揺れる。
僕はそれを見ていると、なんだかムズムズしてきて、つい手を伸ばしてその房に触れた。
「わ、急にどうしたの?」
その感触にびっくりしたのか、彼女が振り返ると、触れた髪は僕の手から逃げる。
「あ……ごめん。なんか髪が気になって、つい……」
僕は慌てて取り繕う。
その様子を見た理沙は、にんまりとした笑みを浮かべる。
「ふーん、猫じゃらしに手が出るみたいな感じかな?」
そう言いながら、僕の方に後頭部を向けて、わざとその髪を目の前で揺らせた。
誘うような仕草が可愛くて、今度はその房をぎゅっと掴んでみる。
「にゃっ⁉︎」
一瞬ビクッとした理沙だけど、嫌じゃなかったみたいで、少し俯いたまま触らせてくれた。
「理沙の髪って、触っててなんか気持ちいい」
「そうなの? 自分じゃわからないけど、なんかもぞもぞするかな……」
ゆっくり歩きながら、しばらく彼女の髪を触ってたけど、いつまでもって訳にいかなくて、僕は手を遠ざけた。
それを感じ取った理沙は、僕の横に並ぶと、さっきまで髪を触ってた僕の手を握る。
「あはは。なんか髪触られてるの気持ちいいかも」
照れ笑いしながらそう話す彼女が可愛くて、僕もその手に少し力を入れた。
◆
午前中に2軒の古本屋に寄った僕たちは、駅前のデパートの上階にあるレストランで、昼食を食べていた。
頼んだのはミックスサンドと、メロンクリームソーダ。彼女は飲み物の代わりにフルーツパフェを。
「こんなところも全然来たことないから、新鮮」
サンドウィッチを頬張りながら理沙が言う。
「外食とかしないの?」
「うん、全然。小さい時は覚えてないけどね」
「まぁ僕もそんなに来ることはないけど。お小遣いは殆ど本代に消えちゃうし」
いっぱいお小遣いを貰ってる訳じゃないし、こうしてデートの時はともかく、1人で外食するってことは僕もない。
「だよね。私はお小遣いそこそこ貰ってると思うけど、本買うのとゲーセンで少し使うくらいだから、残りは貯金してるよ」
「……僕、小遣いが残ったことなんてないよ」
僕は苦笑いする。
前借りしたりまではないけど。
でもこうして遊びに行ったりすることを考えると、これからは少し節約しないとな、って思う。
「今日は大丈夫なの? 急に誘ってごめんね」
「うん、まだ今月は大丈夫。あと、お年玉の貯金が少しはあるから、いざって時には使うよ」
「もし厳しいなら私が貸してあげるよ。……出世払いで」
「……それは遠慮しておくよ。後が怖い」
「あはは」
本気なのかよくわからないけれど、どんなに親しくてもお金の貸し借りはするなって、両親からきつく言われてた。
「……で、昼からはどんな感じでエスコートしてくれるのかな?」
パフェに手をつけた理沙は、わざとらしく上目遣いで僕に聞く。
「うーんと、この近くの小さい商店街にアニメショップと本屋があるんだ。そこに寄ったあと、ゲーセンに行こうかなって」
「うん、わかった。……じゃ、ゲームで私に勝てたらなんでも1つ言うことを聞いてあげる。私が勝ったら1つお願い聞いてね」
その提案に僕は苦笑いをする。
「それ、最初から結果わかってるよね。まぁいいけど……」
「奇跡があるかもしれないよ?」
そう言って彼女は楽しそうに笑う。
その笑顔を見ていると、勝ち負けなんて関係なくお願いを聞いてあげたくなるのは、僕が好きになってしまったせいかなって思った。
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