第18話 夏休みの計画

「それでね、この前買った本なんだけどね、すごく面白かったよ」


 理沙と高校の食堂で向かい合って定食を食べていると、彼女が少し前に買ったという小説について話し始めた。

 2人でホタルを見に行ってからは、学校でも周りの目を気にせず、昼も一緒に食べるようにした。

 それから10日経つけれど、変に冷やかされることもなくて、自分たちが周りの目を気にしすぎていただけだってことがわかった。


「へー、どんな内容なの?」

「えっとね、バーチャルリアリティって言うのかな。意識だけゲームの中に入って戦う、みたいな話なんだけど。オチがよく出来てて」

「VR物は最近結構あるよね」

「うん。でもその小説って、まだパソコンとかこんなに普及する前に書かれたみたいで、それ聞いてびっくりしたよ」


 彼女は興奮気味に話す。

 よほど面白かったんだなと伝わってきた。


「そうなんだ。……今度貸してもらってもいい?」

「うん、ひろくんならそう言うと思って、持ってきてるから。帰りに渡すね」

「ありがとう。あ、でも僕今日は図書委員だよ」


 帰りもいつも電車まで一緒に帰っているけど、どちらかが図書委員の役が当たっている日は時間がずれてしまう。

 たまたま今日がその日だった。


「それじゃ、ひろくん終わるまで図書室で自習して待つから」

「わかった。今日は雨だしバスだね」


 つい先日、僕らの住んでいる地方も梅雨に入って、それからはっきりしない天気が続いていた。

 天気予報が当てにならなくて、微妙な日はバスで通学するようにしていた。


「うん。……でね、そろそろ夏休みの予定考えたいなって。せっかくの高2の夏休みだから、楽しみたくて」


 来年になると受験生ということもあって、夏休みといえども補習だらけでゆっくりと遊ぶのは難しい。

 だから今年遊んでおきたい、ということなんだろう。


「どこか行きたいところとかあるの?」


 僕が聞くと、彼女は笑いながら答えた。


「行きたいところだらけだよ。遊園地も行きたいし、花火大会も。あとは、久しぶりに市内に行きたいな」


 市内というのは、僕たちの住む県の県庁所在地にあるアーケードとかのことだ。

 住んでいるのが田舎だから、滅多にそんなところまで行くことがなくて、たまに電車で遊びに行ったりしていた。


「遊園地はちょっと遠いけど、僕も行きたいな。……父さんに頼んでみるかなぁ。あとは僕たちだけでも行けるね」

「そうだね。勉強もしなきゃだから、時々は一緒に勉強する?」

「うん。1人でいるとサボっちゃうから、その方がいい」

「あはは、ひろくんがサボらないように見張ってないとだね」

「先生、お手柔らかにお願いします」


 おどけた感じに笑い合う。


 さて、最大の課題はどうやって遊園地に行くかだな。

 僕たちの県には遊園地がないから車で行くしかなくて、父さんにお願いするにしても、その前に彼女のことを紹介しないといけない。

 自然な感じで紹介できたら良いんだけど。


「この週末、僕の家で勉強する? たぶん父さんが家にいるとは思うけど……」

「えっと、うん。……良いよ?」


 僕の考えを読み取ったのか、少し緊張気味に彼女は答えた。

 遊びに行くときよりも、勉強する体で来てもらった方が印象もいいだろうと思った。


「それじゃ、掃除しておくよ」

「別にそのままでもいいよ? いつものひろくんの部屋見たいし」


 彼女はそう言うけれど、今の僕の部屋は正直、人を招待できるような状態じゃない。

 それに見られると困るものもたくさんある。だって男子の部屋なんだから。


「それは僕の尊厳がまずいから勘弁してよ」

「あはは、わかったよ。私の部屋も、初めてひろくん来る前に綺麗に片付けたしね」


 そろそろ昼休みも終わりが近い。

 僕は「また放課後で」と彼女と別れて、自分の教室に戻った。

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