第14話 電車

「おまたせ」

「うん、ひろくん乗って来なかったらどうしようかと思ってたよ〜」


 あらかじめ示し合せていた電車に乗り込むと、先に乗っていた理沙を見つけて僕はその横に座った。

 田舎の路線なので、この夕方の時間の電車でもたった2両しかなくて、すぐに彼女を見つけることができた。


「え、乗る前にメッセージ入れてたよね?」

「そうだけど、ドッキリとかだと私どうしようかなって」


 そう言って彼女が笑う。

 理沙の家では私服も見ていたけど、外行きの服を見るのは初めてだった。

 白系統のシャツに、ゆったりしたベージュのフレアスカート姿で、いつも見慣れた高校のセーラー服とは当然、雰囲気が違う。


「僕がそんなことすると思う……?」

「思わないよ。でも楽しみすぎて、逆に少し不安になったのも本当」

「あ、それ僕も分かるかも。毎日楽しいもん」

「ふふ、良かった。私だけじゃなくて」


 共感できて嬉しかったのか、彼女は僕に少し体重を預けてきた。

 括ったポニーテールがふわっと揺れ、僕の首筋に触れる。


「そういえば、今日は眼鏡が違うんだ?」

「うん、外行きのはこれだよ」


 そう言う彼女の眼鏡は、学校や彼女の家で見る黒縁の丸い眼鏡と違って、青いハーフリムの物だった。


「へー、こっちの方が可愛い……と思うよ」

「ありがとう。私もこれがお気に入り。でも学校だと目立ちたくなかったから……」

「そうなんだ。別に良いと思うけどなぁ」

「んー、ひろくんがこっちのが良いなら、毎日こっちにするけど……?」


 少し考えてみたけど、僕だけが彼女のこういう姿を知っている方が良いなと思った。


「いや、やっぱり学校だといつもの方が良いかな。こういう時だけの方が特別感あって良いなって」

「うん、それじゃデートの時だけにするよー」


 デート……。

 そういえば、家に行ったり一緒に帰ったりすることを除けば、2人でちゃんとデートをするのはこれが初めてだ。

 そう思うと急にそわそわしてきてしまう。

 そんな僕の変化に気付いたのか、彼女が笑う。


「あ、なんか緊張してるー」

「えー。だって初めてだし……」

「ううん、私も緊張してるよ? ほら……」


 そう言うと、彼女は僕の手を取って、自分の首にそっと押し当てた。


「……どう? すっごくどきどきしてるでしょ?」


 その行為で僕の心拍数はうなぎ登りなんだけど、それと変わらないくらい、彼女の心拍数も早かった。

 よく見ると、顔全体もうっすら朱がさしていて火照っている感じがした。


「うん。理沙っていつも落ち着いてると思ってたけど、緊張するんだね」

「そりゃ……ね。……好きな人と初めてのデートだもん」


 少し俯いて恥ずかしそうにポツリと言った彼女がとても可愛い。

 なんだか、一緒に居る時間の分だけ、なぜかどんどん彼女が好きになってしまっている気がした。


「ぼ、僕も、好きな女の子とデートなんて……生まれて初めてだから」


 はっとした彼女が、僕の顔をじっと見る。

 あれ、なんか変なこと言ったかな……?

 そう思っていると、さっき掴まれた僕の手を握る力が、少し強くなったのを感じた。


「ひろくん……初めてだね。好きって言ってくれたの」


 言われて初めて気付いた。

 確かにはっきりとその言葉を口にしたことはなかった気がする。


「そう……かも。ごめん」

「ううん、良いの。……でも本当にひろくん、私のこと好きでいてくれてるのかなぁって」


 電車での待ち合わせもそうだけど、彼女は僕が思っているより心配性なのかな。

 心配させたままで悪い気がして、周りに人がいないのを確認してから耳元で呟いた。


「大丈夫、心配しないで。ちゃんと理沙のこと好きだし、こうして一緒にいる間に前より好きになってる気がする」

「……う、うん。嬉しい……けど、そんなはっきり言われると……ちょっと恥ずかしいよ」


 今度は真っ赤になって俯いてしまった。

 なんだこの可愛さは……!


「かわいい……」


 つい、ぽつりと呟いてしまった。

 それが耳に入ったのか、理沙はもっと顔を伏せてしまう。


「うぅ……そんな言われると、もっと好きになっちゃうじゃない……」


 そして、彼女は僕にぐいっと身体を寄せ、肩に頭を乗せた。

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