第13話 中間テスト

「あ、おいしい……」


 いただきますのあと、最初にひと口肉じゃがを口に入れた僕は思わず呟く。

 お腹が空いていたのもあるけれど、それを差し引いても美味しくできていると思った。


「ありがとう。少し味が薄めかなって思うけどどう?」

「ううん、大丈夫。うちもそんなに濃い味付けじゃないから」

「良かった〜。じゃ、私も食べよっ」


 ほっとした様子の彼女は、自分も箸を手にして食事に手を付けた。


「えっと、理沙……はどんな料理が得意なの?」


 まだ名前で呼び慣れなくて、ついたどたどしくなってしまう。

 彼女はそんなことには気にした様子もなく、答えた。


「中学の頃からほとんど私が作ってるから、だいたいなんでもできるよ。毎日同じだと飽きちゃうから」

「へー、そんなに前から。大変なんだね」

「もう慣れたよー。でも作るのは和食が多いかな。煮物とか温めたらすぐ出せるから、先に作っておけるし」


 帰る時間が不規則な両親のために作るということで、それも考えているのか。

 そんな彼女は、僕と同じ歳とはとても思えないほど大人に見えた。


「すごいなぁ。尊敬するよ」

「えっへん。だって私ひろくんの師匠だよ?」


 そういえばそういうこともあったなと、今更ながらに思い出し、笑う。


「はは、そうだったね。ゲームも勉強も、敵わないことばっかりだ」

「……きっとすぐにどれも私よりできるようになると思うよ」


 彼女はそう言いながら、目を細めて微笑んだ。


 ◆


 彼女の家での勉強を終えて、夕方家に帰ってきた僕は、帰り際のことを思い出してぼーっとしていた。


 初めてキスをしたとかのイベントがあった訳でもなく、ただ別れ際に「今日も楽しかったよ」と笑顔で言ってくれただけだ。

 それでも僕と2人でいて、楽しんでくれたことを嬉しく思う。

 僕はその余韻に浸りながら、彼女にメッセージを送った。


『今日はありがとう! テストが終わるの楽しみだね』


 すると、いつものようにすぐ返信が来る。


『どういたしまして。私も楽しみ! ホタル、約束だよ(^-^)』

『うん、ちゃんと調べておくから』

『よろしく〜』


 たぶん2週間後くらいかな。

 その日を楽しみにして、彼女のためにも約束通り中間テストに集中しようと気持ちを入れ替えた。


 ◆


「森本さんと付き合ってるんだよな?」


 中間テストも間近に迫ったこの日、休み時間にクラスメートの松本とトイレで鉢合わせになり、彼は唐突に聞いてきた。

 あれから誰も何も聞いてはこないけど、用事がない日はいつも一緒に帰っている僕たちを見て、そう思ってる友達は多いと思う。


「……うん」


 もう隠すつもりもないし、僕は素直に頷く。


「そか。良かったな。……避妊はちゃんとしろよ」

「お、おい……!」


 なんてことを言ってくるんだ。

 避妊も何も、まだキスもしてないのに、そんなことになるはずもない。


「はは、冗談冗談」

「冗談が下品だよ……」

「ま、そうなってからだと遅いからな。毎日楽しそうで羨ましいぜ」


 教室に並んで帰りながら、松本が笑う。

 そうは言うが、彼は人を妬んだりするタイプでもないし、ほんといい奴だ。

 もう少しイケメンなら間違いなくモテると思う。でもたぶん、大人になったらうまくやって、可愛い奥さんを貰うような気もする。きっとそうだ。


「でもとりあえずは中間頑張らないとな。成績落としたら塾とか入れさせられそうで」

「ああ、そうなると遊べないもんな。頑張れよ」

「うん、松本も」

「おう」


 そう言って僕たちは拳をぶつけた。


 ◆


 そうして気合いを入れて挑んだ中間テストの結果が返ってきた。

 図書室で理沙と並んで見せ合う。


 先に見せてもらった彼女の成績は相変わらずで、苦手な英語でも50番以内、それ以外の教科はどれも20番以内に入っていた。1学年300人くらいいるから、優に10%以内に入っていることになる。


「理沙はこれでいつも通り?」

「あんまり変わらないかな。ひろくんはどうだった?」


 僕の結果を見せる。


「へー、頑張ってる……」


 彼女が少し驚いたような顔をする。

 僕の成績は、なんと数学が8番、彼女に重点的に教えてもらった物理が46番、あとは……ぼちぼち。

 覚えることが多い教科は、どうしてもすぐに結果が出ないのは仕方ない。


「いつも真ん中くらいだったから、今回良かったよ」

「あ、よく見たら数学負けてる……。ちょっとショックかも」


 そういう彼女はショックを受けているって感じには見えないけど。点数だって2点しか変わらない。


「数学は今回かなり頑張ったよ。おかげで、総合もギリギリ2桁順位に滑り込んだよ」


 僕の合計の順位は98番だった。

 彼女は12番なので、比較にはならないけど、僕にしては1年の最初以来の2桁順位だ。


「うんうん。よく頑張りました。……よしよし」


 言いながら僕の頭を撫でてきた。

 普通は逆だろうと思うけど、彼女に褒めてもらうのは頑張って良かったと思う。


「次は苦手な英語をなんとかしないとなぁ」

「私も英語は苦手だから、あんまり教えてあげられないかも……」


 落ち込んだ様子で話す彼女に僕は言う。


「でも一緒に勉強したら前よりは良くなると思うよ」

「うん。また一緒に勉強しようね」

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