第10話 彼氏彼女
「……こんな私でも良ければ」
そう言って彼女は笑顔を見せる。
どう考えても僕に比べたら、頭も良いしゲームも上手いし、顔も可愛い彼女のほうが釣り合いが取れていない気がする。
逆に本当にいいのだろうかと心配になった。
「ありがとう。……でも森本さんの方がなんでもできるし、逆に僕なんかで良いの?」
そう言うと、眉間に皺を寄せて答えた。
「そんなことないよ。私には才能とかなくて、ただ時間かけてできるようになっただけだもん」
その言葉が胸に刺さる。
僕はサボってばかりでこれまで真面目に勉強してこなかったし、卓球だって強い相手から逃げるように辞めてしまった。
「僕なんて遊んでばかりだったから。……これから頑張るよ」
「うん、私が教えてあげるから。一緒に頑張ろ!」
嬉しそうにそう言って、彼女は僕の手をぎゅっと握った。
それにしても、2人とも自己評価が低いのには笑ってしまう。
そう考えていると彼女が不思議そうに顔を覗き込む。
「……? どうしたの?」
「いや、森本さんも僕も、自分の評価が低いなって。森本さんはすごく頑張ってるんだから、もっと自信持ったらいいと思うんだけど」
素直に思っていることを伝える。
「うーん、でも自信満々でも困るよね? 私はあんまりそういうの苦手だから……」
確かにたまに見かける、大したことができないのに自信だけは過剰に持っている人。
そういうのは苦手だった。何事もバランスか。
「そうだね。……それじゃ、帰ろっか」
廊下で足を止めて話をしていたけど、自転車置き場の方に向けて歩き出そうとした。
でも森本さんは手を離してくれない。
「えっと……森本さん?」
「あ、えと……ごめん。行こっか」
慌てた様子で彼女も歩き出す。
僕の手を握ったまま。
つまり、2人手を繋いで歩いていることになる。これは見られたら恥ずかしい。
横の彼女の顔をちらっと見ると、やっぱり恥ずかしいのか少し俯いて頬を染めていた。
そんな彼女の手は柔らかく、温かかった。
◆
それからは微妙に気まずくて、あまり会話をせずに電車の中でバイバイと言って別れ、家に帰った。
僕は鞄を部屋の床に置くと、そのままベッドにダイブした。
繋いでいた手の感触が残っていて、まだ胸がドキドキする。
頬を染める森本さんの顔を思い出すと、それだけで胸がいっぱいになる。
可愛くて、その場で抱きしめたくなったけれど、さすがにまだ早すぎると思う。
そう、これはゴールじゃなくて、ここから始まるのだと思うと、わくわくする。
結局、今晩もこんな気持ちだと寝られないんじゃないかと思ってしまった。
――ピロリン。
携帯が鳴る。
秒で画面を開いて確認すると、やっぱり森本さんからだった。
『私も帰ったよー。今日はありがとう。これからよろしくね♡』
そのメッセージを見て、思いっきり顔がにやけてしまうのが自分でも分かる。
すぐに返事を打つ。
『こちらこそありがとう! さっきの森本さんが可愛くて、思い出してたとこ』
面と向かっては絶対言えないようなことを、ついメッセージでは送ってしまう。
『褒め言葉だと受け取っておくよ! 私、岩永君が好きだったからすごく嬉しい(//ω//)』
彼女も同じなのだろうか。どんな顔でメッセージを打っているのかを想像してしまう。
さっきのように赤面して書いているのかな。
『僕も。でもいつごろから?』
もう聞いても良いかなと、気になっていたことを聞いてみる。
『実はずっと前から。あのね、中学のときうちの卓球部の女子で隣の中学にカッコいい同級生がいるって話があって』
『ええー』
『それが岩永君なんだけど。私も気になって調べちゃったりして。引退して、もう会うこともないかなって思ってたら同じ高校で』
『そうだったんだ。ちょっと恥ずかしい』
『私2年から図書委員になったのも、岩永君が1年から図書委員してたからなんだよ。でも自分から声なんてかけられなくて(>_<)』
そんなことがあったなんて、全く知らなかった。
だからゲーセンで連絡先を交換したあと、あんなに積極的だったのか。
『全然知らなかったよ。でも僕は森本さんのことあんまり知らなくて。もっと教えてほしい』
それは純粋にそう思っていた。
彼女の中学校時代のこととか、全然知らないことばっかりだ。
『うん、それじゃ今週もまたうちに来てよ! 勉強もしないとだけど、いっぱい話もしたいから』
『わかった。何時ごろがいい?』
『朝からでいいよ! 昼は私作るから』
『へー、楽しみにしてる』
『料理は自信あるから楽しみにしててね』
また2人っきりで週末森本さんと会えることになって、僕の胸は高鳴った。
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