第9話 告白
「ごめんね、急に呼んだりして」
放課後、日直の黒板消しを済ませてから図書室に行くと、先に来ていた森本さんは長テーブルから小声で手招きした。
僕はその向かいに座りながら返す。
「ううん、別に用事なんてないから、大丈夫」
図書室は人がまばらにいる程度で、いつもと同じような感じだった。
カウンターの中を見ると、司書の山崎先生と、図書委員の2人――今日は確か3年生が当番だったはず――が座っていた。
一瞬山崎先生と目が合ったような気がしたけれど、気のせいかな。
「ありがとう。……それで、実は……というか、岩永君にやっぱり言っておかないといけないことがあって……」
「うん、なんでも聞くけど……。でも、メッセージでも良かったんじゃ……?」
周りの邪魔にならないように小声で話をする。
相談事ならメッセージでもやり取りできるし、聞かれる心配もない。
それに、わざわざ図書室でっていうのは何か理由があるのかな。
彼女は言いにくそうにしつつも、意を決して話し始めた。
「あのね……。昨日のことだけど……山崎先生が傘忘れたって話だったけど、あれ私がお願いしたの。……忘れたことにしてって。でも、後でよく考えたら、先生にも岩永君にも悪いことしちゃったなって……。ごめんなさい……」
顔の前で手を合わせながら森本さんは僕に謝ってきた。
もともとなんとなくそんな気がしていたけれど、やっぱりそうだったのか。
「うん、別に僕がそれで困る訳じゃないし、構わないけど。……でもなんで?」
何気なく聞いた言葉に、彼女は声を詰まらせた。
いつもしっかりしているのに、こんな不安そうに目が泳いでいる森本さんを見るのは初めてだ。
しばらくして口を開く。
「……ど、どうしても、言わなきゃだめ……かな?」
そう言うと、両頬に手を当てて、森本さんは俯いた。
その様子を見て、僕は自分が聞いたことを恥じる。
落ち着いて考えると、そんなことをする理由なんてひとつしかないじゃないか。
いくら恋愛に鈍感な僕でも、そのくらいはわかった。
「ごめん。僕が聞いたのが悪かったと思う。言わなくていいから……」
僕は頭を掻きながら彼女に謝った。
それを聞いてほっとした様子で森本さんは息を吐いた。
「ありがとう。私からの話はこれだけ。呼んでごめんね」
「言ってくれてありがとう。それじゃ、もう帰る?」
「うん、言ってすっきりした。……昨日なかなか寝られなかったから」
僕も寝られなかったけど、彼女もそうだったのか。
……理由は違うかもしれないけれど。
でも、僕はまだすっきりできていない。
このままだと、今日も寝不足になりかねない。
「あの……僕からも森本さんに聞きたいことがあって。……帰りながらでいいから」
「うん、いいよ。……私が答えられることなら」
山崎先生に軽く会釈をして、森本さんと並んで図書室を出る。
廊下を歩きながら、できるだけ平静を務めてはいたけれど、ものすごく緊張して、心臓が爆発しそうになっていた。
大きく深呼吸してから、横を歩く森本さんに言った。
「森本さん。……この前ゲーセンで話をしてから、まだ少ししか経ってないんだけど」
「……うん」
「でも、森本さんと話してて、すごく楽しくて。だから、もっと話したいなって思う。だから……」
「…………」
そこまで言って、僕はもう一度深呼吸をした。
その間、彼女は僕のほうを見ながら、無言で続きを待ってくれているように感じた。
「だから……僕と付き合ってくれないかな? もし森本さんが良ければ、だけど……」
僕は生まれて初めて、女の子に告白するというミッションをクリアした。
もしかしたら覚えていないだけで幼稚園児の頃に、そういうことがなかったとは言わないけれど、それはノーカンだ。
結果がどうであれ、もやもやしたまま寝れない夜を過ごすよりはマシだ。
彼女はしばらく俯いて、答えを考えている様子に見えた。
――そして、まっすぐ僕のほうを見て口を開いた。
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