第7話 放課後

『今日はありがとう!』


 僕は帰ってすぐに森本さんにお礼のメッセージを送った。

 すると、相変わらず早い返信が返ってきた。


『どういたしまして。私も楽しかったよー(^-^)』

『中間テスト頑張るよ。それじゃ、またね』

『うん、がんばって!』


 その日は帰ってからすぐに家族と晩御飯だったから、それ以上のメッセージのやり取りはしなかった。

 あまり送ると、彼女の勉強にも影響が出てしまいそうで。


 ◆


 それから数日は森本さんと顔を合わすことはなく、それまでと同じような日々だった。

 僕からメッセージを送ることはなくて、彼女からも送られてはこなかった。


 ――水曜日。


「あ、今日の図書委員、森本さんとだ……」


 放課後の図書委員の当番に僕が当たっていたのは知っていたけれど、当番表を見ると森本さんも当番になっていることに気づいた。


 僕はそわそわしながら図書室に向かった。


「岩永君、今日はよろしくね」


 図書室に着くと、司書の山崎先生が声をかけてくる。

 山崎先生はまだ20代半ばくらいの若い女の先生で、数年前からこの高校で司書教諭として働いている。

 本が好きでチャーミングな先生ということもあって、図書委員からだけでなく、生徒からの人気も高かった。


「はい、よろしくお願いします」


 先生に挨拶して、僕は早速日中に貸し借りされた記録の整理を始めた。

 その作業を始めて程なく、森本さんも図書室に来た。


「山崎先生、こんにちは。今日もよろしくお願いします。……あと、岩永君もよろしくね」

「森本さん、よろしく」


 森本さんは、山崎先生のおまけのように僕にも挨拶をしてくれた。

 彼女はいつもの学校の時と同じ、ロングヘアを揺らしていた。


 そのまま僕の横の椅子に座ると、僕がさっきまでしていた作業の残りに手をつけ始めた。


「……ふぅ。今日は結構多かったね」

「そうだね。いつもの倍くらいあったんじゃないかな」


 作業を終えた森本さんが僕に声をかけてくれたので、素直に答えた。


「でも逆に今は全然人がいないね」

「なんでだろ?」


 確かに今日の図書室には全然人がいない。

 不思議に思っていると、山崎先生が言った。


「このあと雨の予報ですし、降る前に帰りたいのではないかと思いますよ。こんな日に当番でごめんなさいね」


 完全に忘れていたけど、確かに今晩は雨になる予報だった。

 天気予報を確認するとあと1時間ほどで雨が降り始めることになっていた。


「あ、しまった。自転車で来ちゃった。バスで来ればよかったな。……傘も持ってないし」


 僕は失敗したことに気づく。

 普段は駅から高校まで自転車で通っているけど、雨の日だけは駅から高校の近くに行くバスに乗ることにしていた。

 でも、朝自転車で来てしまったし、当然傘も持ってきていなかった。


「岩永君、傘ないの? 私バスで来たから駅まで一緒に帰る?」

「え、いいの? それじゃお願いしようかな……」

「いいよー。……周りの目が気にならないのなら」

「あ……」


 女子と2人で、しかも相合傘で帰るとか、友達に見られたら恥ずかしすぎる。


 話を聞いていた山崎先生が提案してきた。


「傘がないなら、私の車に載せてる傘で良いなら貸してあげるけど?」

「先生、良いんですか?」

「もちろん」


 助け舟に感謝するとともに、ほっと安堵した。

 そのまましばらくは無言で、図書委員の仕事として、僕は本棚の整理をするために席を立った。


 しばらくしてカウンターに戻ると、申し訳なさそうな顔の山崎先生がいた。


「……岩永君、ごめんなさいね。さっき傘貸すって言ったけど、今日車に載せ忘れてたみたい。やっぱり森本さんにお願いしてもらえる? 私からも言っておくから」

「ないなら仕方ないですよね。わかりました」


 僕は少し考えたけど、友達に見られることよりもびしょ濡れになる方が嫌だなと思い、諦めることにした。

 ……まぁ、とはいえ森本さんと帰りたいと思う気持ちもあって、見られる恥ずかしさと天秤にかけられたような状態でもあったけれど。


 そうして少しわくわくしながら図書委員の残りの時間を過ごした。

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