第6話 ゲーム
「あはは、ちょっと恥ずかしくなってきたから、そろそろ勉強に戻ろっか」
「そうだね。よろしくお願いします」
休憩はそのくらいにして、中間テストの勉強に戻ることにした。
しばらくは照れたような雰囲気があったけど、そのうち彼女も勉強を教えるのに集中してきたのか、いつもの真面目な雰囲気に戻っていた。
「じゃ、今日はこのくらいにしよっか。たぶん、範囲だいたいは終わったと思うから、あとは自分で勉強すれば大丈夫だと思うよ」
「ありがとう。助かったよ」
「どういたしまして」
僕が礼を言いながら頭を下げる。
それに合わせて森本さんもぺこりと頭を下げると、高めで括った髪がふわっと跳ねた。
時間は4時ごろだった。3時間くらい勉強していたことになる。
「他の教科は大丈夫?」
心配そうに彼女が聞いてきたので、僕は答えた。
「うん、他の教科は結構自信あるんだ。数Bがちょっと不安だけど。勉強しててわからないところあったら教えてよ」
「良いよ。いつでも連絡してね」
そう言いながら、彼女はちらりと時計を見た。
「このあとどうするの? 時間あるならちょっとゲームしていく?」
少しそわそわしたような様子で森本さんが聞いてきた。
今日はもう予定がなかった僕は、それに頷いた。
「うん、森本さんが良いなら。でもあんまり長居すると迷惑だろうから、少しだけ」
「どうせ誰もいないから気にしなくていいよ。……それじゃ、準備するね」
そう言って部屋にあるテレビに繋いでいた家庭用ゲーム機からコントローラを引っ張り出して、ディスクをセットする。
ゲームが起動すると、「はい」とコントローラを渡された。
「とりあえずゲーセンでやってたゲームで良いよね?」
「うん。よろしく」
「それじゃ、しばらく私がやってみせるから、自分で操作してるつもりでどこに置くかとか考えながら見ててね」
「わかった」
そう言うと、森本さんは1人用のエンドレスモードでゲームを始めた。
最初はゆっくり落ちるブロックだが、消すラインが増えていくに従って、どんどんと速くなっていく。
それを器用に左右に落としていくのを見ていると、あることに気づく。
それは、落ちていくブロックをほとんど見ていないと言うこと。見ているのは次のブロックで、落ち始める前にどこに置くかを先に決めているように見えた。
操作する手は、先に決めていた通りに動かしているだけだ。
もちろん、時々ミスをすることもあって、その時はうまくリカバリーするのも手慣れた証だった。
ある程度僕に見せてくれたところで、彼女は一度ゲームを終わらせた。
「それじゃ、別々にやってみよっか。……最初だからあんまり速く落ちないように設定しておくから」
「うん」
答えて僕もゲームを始める。
画面左右別々に、先ほどのエンドレスモードを2人でする形だ。
やっぱり見るのとやるのでは大違いで、最初ゆっくりだった時はうまく置けていたブロックも、速くなってくるとだんだん考えるのが間に合わなくてうまく置けなくなってくる。
徐々に慣れてはきたが、彼女のようにいつまででも続けられると言うことはなく、速くなると徐々にミスが増えて最後には埋まってしまう。
そういったことを繰り返しているうちに、気づくとあっという間に1時間が経っていた。
「そろそろ今日は終わる? だんだん目が疲れてくるでしょ」
そう言いながら、彼女はまだ一度もゲームオーバーにならずに軽々と続けていた。
「やっぱり凄いね」
「岩永君はすぐ上手になると思うよ。卓球のボール見る方がずっと速くて難しいから」
「そうかな……?」
さらっと言う彼女の言葉には、確かに一理ある気もした。
このゲームは先に考えることができるけど、卓球だとそうはいかない。それに、身体全身を使って動かないといけない。
ゲームなら左右とボタンの操作だけ。
そういうことを彼女は言っているのだろう。
「うん。私がこのくらいできるんだから。慣れたら余裕だよ、きっと」
彼女にそう言われると、少し自信が湧いてきたような気がした。
まだまだ下手だけれども。
◆
「それじゃ、今日はありがとう」
「ううん、こちらこそ。楽しかったよ。勉強もがんばって」
「うん、それじゃ」
「ばいばい」
玄関先で彼女にお礼を言って別れる。
まだ薄暗くなり始めたくらいで、完全に暗くなるまでには家に着くだろう。
帰り道、今日のことを思い出しては顔がにやけてしまう自分に気づいて、少し恥ずかしくなった。
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