第2話 友達

『今日は急にごめんm(_ _)m』


 僕は帰って家族で晩御飯を食べたあと、お風呂の順番を待つ間、森本さんにメッセージを送ってみた。戸惑わせたお詫びのつもりで。


 返って来ないかもしれないな、と思いながらどきどきして携帯を見ていると、送って10秒もしないうちに返信があって逆に驚いた。


『ううん、ぜんぜん! ちょっとびっくりしたけど(@_@)』


 たまたま携帯を見ていたのかな?

 せっかくすぐに返してくれたので、続けて送ってみることにする。


『週に何回くらい行ってるの?』

『えと、2回くらい? 晩御飯作らないとだから、そんなに長居できないんだけど(><)』


 またすぐさま返信がある。


『そうなんだ。じゃ、行く日メッセージお願い。僕は帰宅部だから図書委員の日じゃなければいつでもOK』

『わかった! 送るね!』


 手慣れた返信に、思ってた彼女のイメージとは少し違ってた。

 でも僕も女子とメッセージのやり取りするなんて初めてだ。彼女がいる友だちはいつもこんな気分でやり取りしてたのかな、と思うと恨めしく思った。


『他にも得意なゲームはあるの?』

『パズルゲームはだいたい得意だよ! 岩永くんは?』

『家だとRPGとかやってることが多いかなぁ。アクションとかは苦手で』

『へー、そうなんだ。また見せてね』

『いいよ! でも、メッセージ打つの速いね笑』


 話が盛り上がってきたところで、気になっていたことを聞いてみたけど、そのメッセージを送ってから、彼女からの返信はなかなか来なかった。

 もしかして失敗したのかな……?

 と思って、もやもやしながらしばらく画面を眺めていると、1通のメッセージが届いた。


『ごめんね(T_T) 友達とこうして話すのって初めてだったから、はしゃぎすぎちゃったかな……? 迷惑だった?』


 そのメッセージを見て、森本さんも自分と同じような気持ちで携帯に向かっていたのだと知った。

 慌てて返信する。


『そんなことないよ、僕も経験ないから楽しくて。もっと森本さんと話がしたいって思ってる』

『よかった! お母さん帰ってきたからごめん。またね!』

『うん、また学校で』


 そのメッセージを送ったあと、森本さんからの返信はなかった。

 初めて女子とメッセージをやり取りした僕は、手が震えているのに気づく。


「やばい……かもしれない……」


 その夜は興奮してなかなか寝付けなかった。


 ◆


 翌日、登校の時や昼休みなど、ふとした何気ない時に周りをきょろきょろしている自分に気づく。

 昨日まで殆ど接点もなく、意識もしていなかったのに、ふとしたきっかけでなぜか彼女を探してしまうのが不思議だった。


 昼休み、学食に行った時だった。

 トレーを持って空き席を探していると、視界の端にいる彼女に気づく。


「あ……」


 そちらの方に目を遣ると、友達と一緒に食事をしていた森本さんも僕に気付いたのか、こっそりと小さく手を振るのが見える。

 気恥ずかしい思いをしながらも、トレーを持っていて手を振り返す訳にもいかず、少しだけ笑顔を見せて返答した。

 そして僕は男友達のいる空きテーブルに座る。


「岩永、なんかいい事でもあったのか?」


 向かいにで先に食べていた、中学の頃からの友達の松本が僕の顔を見て言った。


「え? そ、そうかな? いつもと変わらないと思うけど……」


 突然そんなことを言われて、僕は慌てて返答する。


「いいや、あるね。お前がそんな顔してるのは新しいゲーム買ってもらったとか、そんな時くらいだ」


 松本の眼力に驚く。

 彼は気も効くし友達も多い。こんな細かいところに気づくところが彼の良さなのかも、と思った。


「まぁ、あったと言えばあったかな……。まだ言えないけど」

「ふーん……さっき1組の森本さんが岩永に手振ってたろ?」

「……え⁉︎」


 見られてたことに驚いて、声が裏返ってしまった。

 もしかして、最初の問いはそれを見ていたからだったのかもと気づくが今更だった。


「はーん、その顔はアレだな。……ま、頑張れよ」


 何かを察したように松本はにやっと笑う。


「な、なんでもないから……」


 ――僕はそう返すのが精一杯だった。

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