手招き

『手招き』

学校の近くにある公園の隅っこにある『水溜り』に僕は興味を惹かれた。

それは何故だろう?自分でもよく分からなかったけど、どうしても近づきたかった。

しかしその時だった "おい、行くな!"そんな声がどこからか聞こえてきた。そして、それと同時に目の前が真っ暗になった。

目を覚ましたのは自分の部屋のベッドの上だった。

時計を確認すると深夜2時を少し過ぎた頃。どうやらあれは夢だったらしい。

あの後僕は疲れて帰宅したのだと思う。でもどうしてだろうか?凄くリアルな感覚が残っていたのだけど……

そんな時、ふと思った事がある。

『水溜まりからの手』という話である。その話には続きがあって、"その手を掴んでしまうとその人も水の中へと引きずり込まれてしまう"みたいな内容であったはず……

(ん?まてよ……)

何かがおかしい。

"水"というキーワードに僕は違和感を覚えた。

"水"というと真っ先に思い浮かぶものと言えば?

そう、"水鉄砲"だ。

そういえば最近買ったんだっけ?

僕は部屋から飛び出し階段を降りていく。

すると台所から水の音が聞こえてくる。

その音を確かめたあと 僕は洗面台に向かうと 鏡の前には女の子が映っていた。

女の子……そう女の子……女の子が僕の事をジッと見つめていたのだ。

するとその子は口を開きこう言ってきた。

「ねぇ……わたしとあそぼ……」

そう言って女の子はニコッと笑ってきたので 僕はつい反射的にこう言ってしまった。

「はい!」……。

すると、今度は僕の後ろの方から男の子の声がしてきた。

「お兄ちゃん、早く起きないと朝ごはん抜きだよ~」

そう、弟はいつものように僕を起こしに来てくれていたのだ。

僕は

「わかったよ、起きるから」

そう弟に告げる。

すると、またもや僕の後ろから声がする。

「え?なんで、遊ぼうよ。」

その言葉を聞き振り返る そこには誰も居ない。

あるのは、先程まで僕が見ていた『女の子』の姿だった。

……僕は

「ごめんね、今日は遊ぶ気分じゃないんだ。」

と、言い放ち 急いで階段を上っていく 僕は自分の部屋に閉じこもり鍵をかける。

「あぁ怖かった……」と思わず口から洩れる。

しばらく扉にもたれ掛かっていると急に眠気に襲われ僕は眠りについてしまった……。

……それからどれくらい経ったのか?目が覚めると外は暗くなっていた。

時間はもうすぐ夜7時になろうとしていた。

そう、もう夕食の時間なのだ。

流石に空腹に耐えられなくなり階段を下る。

「おぉ、起きたか」

リビングでは父が待っていた。

「ごめんなさい、今ご飯作りますね」

そう言いキッチンに向かい、冷蔵庫の中から食材を取り出していると、父は

「いや、作らなくていい」と、言ってきた。

「え?」

僕は父の方を向きながら聞き返す。

すると

「お前にお客様がきてるぞ」と、言われ玄関に行くとそこに居たのは

「お母さん……」

僕の母だった。「久しぶり、元気にしてた?あ、これお土産、良かったら皆で食べましょう?」

久しぶりに会った母は何処か楽しげで嬉しそうにしていた。

そして、家に入るなりいきなり僕を抱き締めてきた。

「ちょ、ちょっと、お母さん?」

と、困惑しながらも母の抱擁に応える。

しばらくして満足したのか

「ごめん、ごめん」

と言い僕から離れると

「いや~、やっぱり息子って可愛いわよね」

と言ってきた。

「そうだな」

と、父が相槌を打つ。……?

なんかおかしくないか?

そこで、僕はハッとして

「え?父さん、いつから?」

と、聞くと

「最初から」

と答えられた。

僕が唖然としていると、母は笑い出し

「あなたってば、ずっと前から私に連絡してきていたのよ?でも私が中々行けなかっただけなの。だからお父さんにあなたのことを任せていたんだけど……それに、お店の方だって本当は休ませるつもりだったのよ?でも、どうしても行くと言って聞かなかったのよ、あの子……」

母は、弟の方を見ながら言った。

僕は「そっか」と言うしかなかったのだが、何故だろう……心が温かくなっていくような気がした。

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