第5話 恋に気づき恋を失う

あの夏の日から

母の口から凌太の話を聞く日が来るなんて

夢の様だった

「っで、どうしたの?」


私が聞くと

母は嬉しそうな顔で


「結婚するってよ」


微笑んだ

私は耳を疑った


凌太が結婚?


誰と?


知るはずもなかった

だって

高3の冬から

全く

彼と関わってないから・・・


凌太

顔・・・良いからな

大学でもモテたろうし

社会人になってからだって

出会いはあるわけで


私の知らないところで

私の知らない人と沢山出会って

沢山恋して

良い人と出会って

結婚するなんて・・・


凌太のくせに生意気だ!


私の心には

何だかわからない

喪失感のようなものがこみ上げてきた


あからさまに落ち込んだ


それを見て母は一言


「菜々美・・・まだ好きだったの?」


チャラッと言われた


「は?」


私は母を睨むように見る


「何よ

あんたたち付き合ったたでしょ?

お母さんにはお見通しよ」


付き合ってなんかない

仲が良かっただけ

凌太が優しかっただけ

だから

私に合わせてくれていただけ


「違うよ

凌太は・・・ただの幼馴染だし」


そう言うと

泣きそうになった


何でだろう?


それを察してか?

母は背を向けて

食器を片し始める


「そう・・・付き合ってたって思ってた」


少し残念さをこぼす様に母は呟いた

私の頬に涙がこぼれた


なぜだろう?

失恋した気分になった


凌太が

幼馴染が

結婚決まって嬉しいはずなのに


どうしてこんなに悔しい気持ちになってるの?


自分の気持ちが

今更だけど

理解できないでいた




その日から

私は眠れなくなってしまった


目をつむると

凌太の優しい笑顔が浮かび

胸が苦しくなる

この気持ちは何?恋?


”私、凌太が好きだ”


でも

いつからなんだ?

これは突然

母から凌太の結婚を聞かされて

何かに焦りを感じてしまっているだけかもしれない


よくある事よね

友達の結婚式に列席して

憧れや

羨ましいという気持ちから

一瞬だけ

結婚願望が芽生えるようなやつだよね

きっと

ただ

違うのは、相手は女友達や会社の同僚の結婚ではなく

凌太の結婚話だって事

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