第4話 中一の夏

凌太は中学1年の夏

母から衝撃的なほどに叱られて

家が・・・と、言うか

うちの母の存在がトラウマになった


母が留守だと言っても

玄関前までしか来ないほど

衝撃だったのだと思う

母も大人気ない人で

街で凌太に偶然会うと

視線だけで凌太を八つ裂きに出来るんじゃないかと言うほどに

睨みつけたりしていた

そういうのが

かなり長い期間続いた


【中一の夏休み】


凌太を家に呼んで

宿題をしていた

それまでは

小さな頃から凌太は家に遊びに来ていた

家は共働きで

気兼ねなく過ごせたから子供だけで好き放題

お菓子食べて

ゲームしてたけど

どこか真面目な凌太はいつも

決めたところまで宿題を終わらせてからしか遊ばなかった


それに関してはうるさかったから

私は早く

その日の宿題を終わらせて

ゲームがしたかったから

急いでいた

だけど

あまりに蝉が煩いから

途中で糸が切れた


「休憩」


私がそう言って

両手を開いて寝転ぶと

凌太はニコリと笑って


「終わらせようよ」


真面目に言うから

私は凌太のシャツを引っ張って

横に転がした


頭を打った凌太は


「痛いよ!」


と少し怒るような表情で

起き上がり

膝を抱えて顔を隠した


”泣いてるの?”


やりすぎたかも・・・と反省して

私は顔を覗き込みながら


「凌太・・・ごめんね

痛い?」


と聞くと

凌太は顔を上げて

私の両腕を掴み

勢いよく押し倒した


そして

私の上に乗るような格好で


「泣く分けないだろ!このくらいで」


そう言って舌を出しておどけた


一瞬、ムカッとしたけど


近かった

息がかかるくらいに近かった


その時、気が付いた事

奇麗な肌

目が大い

まつげが長い

女の子みたい


だけど

押さえつけられて上から見られると

少し男らしくも見えた

凌太の彼女は

この顔を見ているのか・・・と新しい発見をしたようだった


「凌太・・・キスした?」


徐な質問に

凌太の白い頬が一気に赤くなる

そして

急いで私から離れる


「ねぇねぇ

あの子とキスした?」


その頃

凌太には

初めての彼女がいた

彼女は塾が一緒で、他校の子だった

凌太に一目惚れしたらしくて

ろくに話もしたこともないくせに告白した

凌太は迷った

でも

あまりに彼女が一生懸命で

泣きそうな顔だったから

きっと

”情”

のようなもので付き合い始めた


タイプじゃない

きっと

凌太のタイプの女の子じゃなかった


タイプなんて聞いたことないけど


凌太はモテるから

あんな真面目そうな子じゃなくても

選べたと思う・・・


私は正直

気に入っていなかった


「するわけないだろ!まだ知り合って間もないのに・・・」


凌太は照れている

それは

彼女といつかキスをすることを想像してか?

私から聞かれてなのか?

どちらにしても

可愛い奴だ

あの子に凌太のファーストキスを捧げるのはもったいなく思った

そんな事になるくらいなら

奪いたくなった


「じゃ、しようか?」


私は凌太の可愛さがもっと欲しくなって

でも

恥ずかしさが勝って

凌太をからかうようにそう言った


「は?」


案の定

困った顔

そして

少し怒ってる?

いや

取り乱している?


「だから・・・練習

本番に備えて

キスしていいよ」


すると

凌太はムッとした顔で


「菜々美、からかってるの?」


凌太があまりに真剣に聞くから

可愛くて

もう少しからかおうとしたら

凌太はまた

私をその場に押し倒した


「するよ」


そう言って

私の顔に近付いてきたから

私は急に怖くなった


「いやっ!!」


と声を出してしまった

どうしてだろう?

誘ったのは私なのに

嫌なわけではなかったのに

本当に

してみたかったのに・・・

恥ずかしさと

その後の事を考えると

声が出ていた


その時


”バタン!!!!!”


大きな音がして

入り口を見ると

母が鬼の形相で凌太を睨み

のっしのっしとこちらに来て

凌太のシャツの首を掴み

投げる様に入口へ転がした


母に言葉は無かった


凌太は宿題をそのまま置いて

靴も履かないで逃げ帰った


夏が来ると思いだす

そして笑える

あの時の凌太の顔

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