落ちこぼれ、美少女を病院へ
「え? こっちから入らないの?」
「そ、俺達は裏口から」
正面玄関は色んな人達が行き交いしている。怪我人病人スーツ姿の商人。そんな人達を無視して裏に回る。人通りが一気に少なくなり狭い道が続く。そこにはスーツ姿の獣人が二人サングラスを掛けている。俺たちを見るやいなや通せんぼする。
「毛布は」
「モフモフ」
「枕は」
「気持ち硬め」
「羽毛は」
「邪道」
「本当は?」
「「羽毛派」」
「よし通れ」
二人は道を開ける。通ってドアをあける。
「一ついい忘れてた。本名は名乗るな。さっきからずっと活動名で呼んでいただろう?」
「わ、わかった」
用のある部屋へ入る。
「やあモフ爺」
「カズヒラ君。今度は面倒事を持ってきたのかい?」
ボリュームのある真っ白の髪の毛。ヒゲ。見ただけでわかるモフモフの質感。まさにモフ爺という名が似合う人。アリアを見てから面倒事という言葉を使った。こういうのを察してくれるのは本当にありがたい。
診察室に良く似た部屋。アリアは違和感を感じているようだが、そうだろう。ここは診察室じゃない。そう作られているからだ……ちょっとまった。もしかしたら前の世界と比べて違和感を感じてるだけかも。ここが普通じゃないって気づいてるのかな、自信無くなってきた。
「そう、面倒事。前日に電話した通り彼女を検査してほしいんだ。特に体をね」
「もう準備はできておる。ほれ、モモモ、案内してやれ」
モフ爺の後ろからピンク髪の小さな女の子が現れる。アリアを見ると笑顔で人懐っこく近づいてくる。
「うん! えっと」
「私の名前は…………アリアワンダーって言うの。よろしくね」
「アリアワンダー。わかった! えっとね、こっち! じゃなくてまずは着替えるからこっち!」
そう言ってアリアはモモモに手を引かれて隣の部屋に入っていく。
少ししてモフ爺が口を開く。
「どうしてすぐに私の所に来なかった」
「実はまだギルドにもあの娘の事を伝えてない」
その事実を伝えた瞬間に空気が変わる。先程の柔らかな態度は消え去り………消え……だめだモフモフ過ぎて視覚的に消えてない。
「………君が受けた依頼は何だったか」
「あのハゲジジイ、じゃなくてセント・ランドが日本の沖縄にあるダンジョンに秘宝があるから取りに行ってほしい。目印は石塔」
「何故スーパーマジッカーに依頼しない彼は上級貴族だぞ」
「してた。ただしシドにな。しかも少人数で」
「最近できた七番隊……わざと2重依頼してるね」
「あの場所には何があったんだい?」
何があったか。あの宝箱の先にあったのは研究所だった。人体実験の。その中にはアリアが入っていた。それだけじゃない。色んな膨大なデータがあり全て確認してみればアリア以外にも被検体がいたがA〜Zの被検体がいたが殆どが処分されていた。
一番不自然なのは実験施設にも関わらず誰一人研究員がいなかっこと。
調べてみればある日を堺に研究が止まっていた。S【脱走】という記録を境に。つまりこの被検体Sがあいつらをどこかに消した。争いの痕跡は一切無かったし何か持ち出した痕跡もなかった。
他にも気になる点はいくつもあるが大体はそんな感じ。
「日付は西暦でつけられていたがこっちに直すと700年。20年前だ。」
「成る程、逃げ出したSがどこにいるかわからない今彼女を人目には晒せないと」
「20年も前じゃ今の顔は分からないか」
「手がかりはある」
ポケットから壊れたスマホに似たデバイスを取り出す。
「隅に落ちていてな。僅かに血もついている。明らかに争った跡だ。事件が起きた直後の記録が残っているかもしれない。Sの詳細は消されていた」
不自然なぐらい形跡がないのはSが何ならかの形で【消せる】ギフトがあるからだ。
「協力なギフト持ちなら東京でもやっていけるが組織の規模とかを考えるとフロイドタワーがあるニューヨークが一番だ。案外近くにいる可能性はある」
「わかった。復元してみるよ」
「そいつはありがたい! 」
「その代わり」
「その代わり?」
「トールメリーの毛を持ってきてはくれんかのぉ。あ、連れてきても良いんじゃぞ?」
「うわぁ………嫌な要求。沢山持ってきたら少しは分けてくれる?」
「OK!」
毛の話になった瞬間変態の目になった。そうだった、こいつは優秀な医者だけど往来のモフモフ好きだった。
「検査終わったよー!!!!!」
モモモが元気にドアを開ける。後ろからアリアも追いかけるように入ってくる。
「えっとね! 結果はね! 面白いの! 魂と体が違ったりね! なのにね! 物凄く相性が良いの! あとね! ギフトがね! おかしいの! 常に発動してるのになーんの効果もない! 条件不明! あとね! 魔力がちょーーーー多い! エネルギー系のギフトだったらかめはめ波できるよ!」
キラキラした目でアリアを見ながら手を広げてオーバーリアクションで結果を語る。
「えっと、とてつもなく気になる情報だけど、健康状態はどうだったんだ? 病気とか、そういうの」
「健康診断? えっとね〜? あれ〜? 忘れちゃった〜」
指で頭を抑えながら疑問符を浮かべる。こんなやつだけどくっそ優秀なんだよなぁ………
「健康体だな」
「健康体だね」
「健康体なの?」
診断結果を見るも今の数値の基準がわからないため不安かなぁと思っていたが不安よりも不思議が勝っていてなんとなぁく受け入れている感じのアリア。
モモモは異常しか興味無い為彼女が結果を忘れたならば健康な証拠だ。
「所で彼女を匿うっとまでは行かなくても目立たないように生活しなければいけないけど大丈夫なの?」
「そこら辺は大丈夫。ダンジョンは潜るから人とはあまり合わないさ」
「じゃなくて生活費。獣人は結構掛かるよ? 君この前イヤホン買って貯金飛んだって言ってなかっかたかい?」
「イヤホンってコードが切れてたやつ?」
「もう壊したのか? 君は相変わらず長持ちしないなぁ」
「しょうがないだろ! シールドの効かない矢だったんだぞ! 」
「そもそもイヤホンしながら攻略するほうが変だからね」
「音楽がないと気分が乗らない。気分が乗らないと調子が上がらない。ルーティーンみたいなもんだ!」
「それにしてもギフトが不明か……何か、予測みたいなのはないのか?」
「無かった! ギフトを使った反応はあるけど全ての計測器になんの変化もなかった!」
「じゃあわかんないな。とりあえず既存の能力じゃないってことだけだ。魂と体が違うのはまあ……転生したってことでしょ」
「え? 転生? それだと」
「モモモ君。冷蔵庫のアイス食べて良いよ」
「やったー! 言ってくる〜!」
モモモはどこか行く。あの場所についてはアリアには伝えていない。流石に人体実験されてましたなんてショッキングなこと今はいえない。
アリアはどこか納得しているようだ。ただ、ギフトの事は良くわからない。人体実験の産物なのか、元々その体が持っていたのか。
「ギフトがわからないんじゃ事実上のノーギフト。生きるのは大変だよ。何か技術職につかないと差別されるからね。眼の前にもいるから参考にしたらどうだい?」
「おいおい、魔力が多いんじゃそれだけで戦い方が変わる。魔道具の出力がまるで違うぞ! 俺みたいにいちいち補給する必要もないし。まあいい、とりあえず方針は決まった。まずは金稼ぎだ。働かざる者食うべからず。ダンジョンに潜るぞ」
「へ? いきなり?」
「明日から。というかハゲジジイの依頼未達成のせいで今月の家賃も払えない。いや賭けに勝ったから払えるか」
「君、人を拾う器の人間じゃないよ」
「………拝啓、お母さんへ。私は獣人になってしまいましたが今も生きています。明日からいきなり戦いに身を投じるかもしれません。もちろん武の心へもありませんし武器の使い方も習ったことがありません……………………………いやぁぁぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」
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