落ちこぼれ、絡まれる

「ここがニューヨークシティ。冒険者ギルドとは少し離れている割りと立地がいい場所だ。元々ある建物が多いから部屋も多くてね、店も一通りある。それでいて家賃はそこそこ。で、あそこに見えるのがフロイドタワー。昔はなんちゃらフィールドって言ったっけ? あそこにダンジョンがあるんだけど攻略されてタワーに改築された。全部人の手が入ってるから腕試しや初心者に持って来いの場所だ」


「…………」


「ダンジョンは地上に出現しやすいから海沿いに攻略済みのやつがあると拠点として便利なんだ。移動しやす、船だったら沢山人を運べるし便利だし、ダンジョン産はやたら頑丈だしね。金持ちは皆フロイドタワーの最上階に住んでるよ。俗に言うタワマン貴族ってやつだね。今日は行かないよ?」


「………」


「なぁ会話ぐらいしてくれたっていいだろう? 俺が悪かったからさ。鍋のやつはちょっとは痛かったけど気にしてないし」


 アリアは一向に目を合わせてくれない。ついてきてはくれているが、不満げなまま歩いてくる。


「ほら目を逸らさないで、どっかにぶつかっても……遅かったか」


 アリアは前方不注意で通行人にぶつかってしまった。


「ご、ごめんない」


「おい痛えじゃねえか!」


 ぶつかった相手が悪かった。巨体悪人面でウエスタンの格好をしてショットガンも背負ってる。ぶつかったにも関わらず微動だにせずアリアが倒れてしまう。周りの皆もまたやってるよと呆れた顔をしている。


「ひ……ご、ごめんない急いでたので」


「あーあ今ので骨が折れた。これは慰謝料が必要だなぁ〜」


「え、でも今ので」 


「あぁ??」  


アリアは涙目で少しずつ下がるも少しずつ詰め寄る。躓いて後ろに倒れてしまい掴まれそうになる。


「その辺でやめたらどうだタリアン」


「ああ? ってカズヒラかよ。花脊」


 俺の顔を見ては笑いながら肩に載せた手を払う。


「ああ俺だ。軽くぶつかられた程度で骨折するんだったら冒険者辞めたらどうだ? そのショットガンなんかもっと痛いぞ? 良い武器屋教えようか? きっと良い値段で買い取ってくれるぞ? その貧弱な骨の治療費にはなるんじゃないか?」   


「何だとてめぇ」  


 タリアンから笑みが消えて顔に血が走る。貧弱と罵られた事がプライドに傷をつけられたと思い激昂する。


「このタリアンが貧弱だとぉ!!」


「だってそうだろう? 俺だったら慰謝料なんか請求せずお茶に誘いたいね」


「貧弱なのはてめえだろカズヒラ! このノーギフトがよぉ!」


 タリアンは拳を突きつけてくる。しゃがんで避けて一歩前に出て腹を殴る。ついでにショルダーからショットガンの弾はを一つとる。


「おっとすまない。これは肋骨が骨折したなぁ。慰謝料はいくら? 唾でもつけとけば治るからそれで良いかい?」


「てめぇ……よっぽど死にてぇようだな」


 タリアンはここが町中なのをお構いなしにショットガンを構える。とっさに手を挙げる。


「おいおいおいおいここでそんなもん撃ったらスーパーマジッカーが来るぞ?」


 流石に捕まるのはまずいと思ったのかショットガンはしまう。その代わり懐からハンマーが一つ。


「銃を撃ったら終わりなのはお前もだろ? でもこれなら喧嘩の範囲内だ」


「ハンマーか。それなら俺だって」

   

「おいそれ俺のハンマーだぞ」


 近くの休憩中の大工から盗る。取られた人は呆れながら俺が勝つかタリアンが勝つか賭けを始めた。全員がタリアンに賭けた。


「おい! 俺に賭けるやつはいないのか! 今なら大儲けができるぞ」


「誰がお前なんかにかけるかよ! どう見たってタリアンの方が勝つだろ!」


「おいアリア! これ俺の財布! 俺にかけろ!」


「え?」


 財布を投げる。アリアは訳もわからず全額賭けた。 


「はははは! あの娘カズヒラの金を全部賭けやがった!」


「よしきたほら来いよ! 今なら俺の全財産が失われるチャンスだぞ?」


「ああ、全財産だけじゃなくそのクソみてえな命も失わせてやるよ」


 巨体で力のあるタリアン相手なら俺のほうが素早い。一回攻撃させたら頭に一発入れる。よし! かまえるぞぉ!


「このハンマーでなぁ」


 そう言うとタリアンのハンマーは十倍以上にもデカくなった。そして振り上げと俺目線から太陽が見えなくなりその範囲と威力を簡単に想像させる。


「うそだろ……」


 絶望した顔でハンマーを持った腕を下ろす。

 戦意喪失する素振りを見せるとタリアンは笑いながらそのハンマーを振り下ろす。俺は全力で横に跳びながら腕時計のボタンを押してシールドを展開する。

  

 勝敗は決した。を振り下ろしたハンマーが地面に激突した直後に発砲音と共にタリアンの足に激痛が走る。


「はい俺の勝ち」


 予想外の攻撃に意識を向けられたタリアンにハンマーを振り下ろして気絶させる。

 

 決着がついたにも関わらず周りはシーンとする。暫くして賭けを始めた大工が俺を指差す。


「こいつ銃を使いやがったぞ!」


「そうだ反則だ!」


「卑怯だぞ!」


 大ブーイング。それだけじゃない、発砲音を聞きつけた警備隊が駆けつけてくる。 


「今の音はなんだ! 誰が発砲した!」


「カズヒラだ! タリアンに喧嘩で勝てないからって銃で撃ったんだ!」


 警備隊が俺の方を見たのでとぼけた顔で手をあげる。


「はて、俺は銃を使ったな、いや持ってた記憶なんて無いが」


 警備隊が俺を捕らえて体を調べる。言う通り銃は無かった。 


 実は既に銃はアリアの足元に投げておいた。アリアはそれを見るなり手にとって隠す。


「それに転がってる薬莢を見てみろ。ショットガンのやつ出し潰れてる。さっき通行人にぶつかってたしタリアンが落としたやつがたまたまハンマーに潰されて暴発したんだろう?」


 それを聞いた警備隊が確認すると確かにタリアンのショルダーにある弾が一つなく転がっているのも同じやつだった。 


「捕えるなら俺じゃなくて安全管理不足のタリアンにしてくれ。俺もこいつもただの喧嘩だったんだから」


 タリアンはギフトを使ったが気絶した拍子に解除されているためハンマーは元に戻っていた。


「だからこれは事故で喧嘩の勝者は俺だ」


「………そのようだな。お前ら、タリアンを連れてけ」


 俺は解放された。


「さて、君たち? 勝ちは勝ちだ。俺に賭けた者は〜?」


 アリアただ一人。大儲けした。ついでにハンマーを貸してもらった大工にいくらか握らせておいた。


 その場から離れるとアリアも急いでついてくる。けれど騒ぎを起こしたことに罪悪感を持っているのか俯いている。


「……ごめんなさい」


「そんなことで謝ってたらここでは生きていけないぞ」 

 

「わかった……ありがとう。助けてくれて」


「どういたしまして。後で食事にでも行こうか。君がいなければこんなには儲からなかったからね」


「………うん」


 少しは元気になったがそれでも怖いのか離れて歩いてたさっきと違って裾を掴んでいる。


「今度はちゃんと前を向いて」  


「うん」


 アリアが前を向いた瞬間にシールドを眼の前で展開して驚かせる。


「うわ!?」

      

「これ良いでしょ。結構便利な魔法具でこれ一つで救われた命がいくつもある。だから皆お守りとしてこれをつけてるんだ。タリアンみたいな奴は格好悪くてださいってつけてないけどな。やるからつけとけ」


 そういって腕時計を外してアリアの手首につける。


「ありがとう。でもカズヒラはいいの?」


「どうってことは無い。ノーギフトだから道具だよりでね、しょっちゅう壊すんだ」


 笑いながら言う。アリアはボタンを押してシールドを小さく展開させる。


「……綺麗」


 紫色に光る空中の時計盤。それが楽しいからそのままにしながら歩く。


「魔力切れになると使えなくなるぞ」


 そく解除した。それでも腕時計をチラチラ見るようでとても気に入ったようだ。


「そろそろ病院だ」


 ビルが建ち並びファンタジーな世界が交じる中異彩を放つ建物。ほかより高いビルってだけでも目立つのにその壁一面が綿みたいな物ですっごいモフモフしていたのだ。デカデカと文字一つビルの1階分費やした看板。その名も【モフ病院】





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る