落ちこぼれ、互いを語る。

「おいおいおいおい食いすぎじゃないか? それ俺の分も入ってたんだぞ?! 鍋いっぱいのお粥!」  

 

「そう言われても、なんかお腹すいちゃって」  


 鍋の中は既に空っぽだった。俺はまだ茶碗一杯しか食べてないのに。獣人だから多めに作ったのに。


「獣人が沢山食うのは知ってるがここまでなんて聞いてないぞ。ずっと眠ってたんじゃないのか? 普通はゆっくりと食うものだぞ!」


「美味しくてつい、ご馳走さま」


「ありがたいけどありがたくない。さっきまでメソメソしてなかったか!?」


「ようつべもツブヤイターもあるって聞いたらなんとかなるかもって思っちゃって」


「えっと、もう一度確認するぞ? 君は異変前の世界で住んでいて、ギフトも何もなかったと。それがある日突然ダンジョンが出現して気を失い、目が覚めたら馬の獣人になっていたと」  


「大体そんな感じ。だからここがニューヨークなんて信じられない。アニメや漫画の世界にいる気分。外見たら何あれ? 謎の建物があるし色んな生物がいるし。なんかどっかでドンパチやってる音がするし」


「おいおいドンパチやってたのは前の世界でも同じだろ。ビルからビルへ車で突っ込んだり核の争奪戦したり、ミサイルを利用して車で潜水艦破壊したり」


「ワイルドス○ードはフィクションだよ!?」


「うそぉ!? じゃあミッション○ンポッシブルもマッドマ○クスも?」


「そうだよ?!」


「マジか……異変前の記録映画として保管されてるんだぞ……」


「えぇ……って、何世紀も経ってるのに映画が残ってるの?」


「世界中でダンジョンが出現したとき、同時に色んな物が飲み込まれていったんだ。場合によってはそのまま保存されてるから結構見つかるんだよ。異変前の物がね。未発見の映画作品は見つけたら高く売れる。特に一番の売れ筋はマーベ○映画あれは色んな作品が同一世界線だから一つでも抜けてるとストーリーがわからなくなってね、皆必死さ。アベンジャ○ズがみつかったときなんかもう凄かったんだから。超巨大スクリーンを特設して街中皆でみたさ」


「良いなぁそれ、映画以外もあるんでしょ?」


「ああ、あるよ? グッズとか、機械とか、家とか、美術品とかはコレクターが好むからな。俺のイヤホン、スピーカー、ウォークマンはあのS○NY製だぞ? イヤホンは壊れたけど……直せる?」


 壊れたイヤホンを取り出す。異変前の人なら行けるかな?


「無理」


 シュンです。


「音楽にはこだわってるんだ」


「こだわってるよすっげーこだわってる。音楽活動してるからね歌い手ってやつ。【エクリプス・スター】って。いま流れてるのだって俺の曲だぜ?」


「自分の歌を流してるの!? 」


「ドン引きするな! いいだろ俺の曲! 700万回再生されてるんだぞ!」


「うっそ超有名人!? 私なんて1000もいかなくて辞めたのに」


「じゃあ同業者かな? なんて名前で活動してたの?」 


「……アリアワンダー」


「アリアワンダー。良いなだねぇ〜わかるよ〜俺も最初はそうだった。でも続けた。めげずにね。2年後には100万は超えたね」


「2年で865人………」


「…………」


 あれほどショットガントークをかましてたのに一瞬にして静かになった。彼女の耳はぺたっとなってて本気で落ち込んでいる。一桁まで覚えてるって事は一人も増えなかった時期も結構あった事になる。


「……あー、話題を替えよう。このあと病院行くぞ。君の知ってる病院とは限らないけどね。俺の知り合いがやってるんだが、その格好じゃなんだ、着替えよう」 


 腹は満足してないがこのまま家にいても良い雰囲気にはならなさそうだ。クローゼットから服を何着か取り出す。えっと、どれなら良いかな。これで良いや。


 パーカーの付いた服、ズボンにベルトを彼女の前に投げる。明らかな男性用の服を見て驚いた顔でこっちを見てくる。


「しょうがないだろ。獣人の服なんて一着も持ってない。今君が着ているやつだって君を見つけた場所で転がってたやつ何だから……あ」


「転がってたって、じゃあ私は最初は何も……」


 信じられないといった表情でどんどん顔が真っ赤になっていく。


「へ、変態!」


「いで! ベルトを投げるな! 痛いだろう!」


「死ね!」


「茶碗もだ! ……おいまて鍋はやめろ、洒落にならないからまて、見つけた時点で全裸だったんだからしょうがなかっただろ! 変なカプセルに入ってたんだぞ! どうあがいても目に入る! 不可ごふぁ!!!」


 顔面に鍋がクリーンヒットする。そのまま一メートル程飛ばされて机に倒れその衝撃でテレビが倒れてくる。そこにまだ宙を舞っていた鍋が追撃をかましてきた。


「うそ………」


 そこまでやるつもりはなかったことだけは手で口を抑えている仕草でわかった。








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