第3話 急転
刻まれた痛みは、鮮明に
しばらく他愛のない話をして、レイナが工場を後にする。原付に乗る前、夕日に揺れる金色の髪のポニーテールが綺麗で、見とれてしまった。オレンジのメットを被るレイナに軽く手を振ると、彼女も軽く振り替えして、俺は家へと入る。
元々じいちゃんの後を継ぐつもりだったが、今日のレイナとの会話で再確認した。父さんは
慣らし運転に限っては、自らの敷地内で15歳以上なら操縦しても良いことになっている。整備で預けられたドームガードの
リビングにじいちゃんと父さんが二人で腰掛けているのをみて、俺も廊下からリビングへと入っていく。
「レイナ、51番ドームに進学するらしいよ。俺は卒業したら家を継ぐかな」
俺の言葉に、父さんが飲んでいたお茶でむせる。
「おいおい、急だなまた」
父さんの言葉に向かい側に座っていたじいちゃんが答える。
「急もなにもずいぶん前からそのつもりだったろう。見てりゃわかる」
そして少しうなり声をあげてからじいちゃんは続けた。
「だが、大学は行け。今はいいが、いつ田舎の工場に仕事が来なくなるかなんぞわかったもんじゃない。俺は肌感覚でやってきたが、学があって新技術に対応できればもっと良い物が作れるかもしれんしな」
わかった。と返事して俺は自室へと向かう。しばらくして家族で夕飯を食べ、風呂に入り、課題を終わらせてその日は寝た。
夜の十二時を回ったころだ。眠りについていたはずなのに目が覚めて、ぼんやりと天井を見つめた。数秒後、轟音ではっきりと目を覚ます。爆発音だ。
工場の屋根が部屋から見える。燃えている。続いてもう一度。もし事故がおきて竜機が爆発しても壊れないようにできているはずだ。それを破壊する威力の爆発にもかかわらず、道を挟んで向かい側にあるこの家に破片が飛んできていない。魔獣ではなく、竜機からの攻撃。レーザー兵器で破壊された壁を思い返す。
階段を降りると、母さんが部屋から出てきたところだった。何か叫んでいたが、もう一度轟音が響いて聞こえない。靴を履いて、俺は外へ出た。工場には穴が空いていて、奥の竜機と、レイナの剣が見えた。それが見えて、俺は走り出していた。
工場の穴からじいちゃんと父さんが中にいるのが見えた。竜機へ向かうじいちゃんを父さんが引き留めているようだった。しかし、次の瞬間壁が崩落して二人を飲み込む。そして、背後からの熱。レーザーが二人がいた場所を射貫く。溶けた地面が真っ直ぐに道路から工場内の竜機へと伸びていた。
その光景を見て、俺は混乱していたと思う。走って走って、竜機の整備台の階段を駆け上がる。竜機をどこかへやればいいのだと考えていたり、剣を守らなければとも思っていた。レーザー兵器なんて持っている相手に勝てるわけがないと冷静でありながら、なんでこんなことをするんだと怒りも感じていた。そして、二人の死体さえ遺らないという事実に、恐怖に震えた。
竜機の背中の中央、
ドーム内には避難警報が鳴り響いていた。ここが、こいつが標的なんだ。ドームから外へと向かわなければと思い、レーザーが発射されてきた方向を思い出す。外だ。
竜機の脚を前へと動かす。工場から外へと踏み出すと、搬入口へと向き直る。そちらには緩やかな丘があるだけで、遮蔽物はほとんどない。斜め左前へ、斜め右前へと機体を左右に動かしながらと丘の上へと向かう。二発ほど背後にレーザーが着弾したが、敵が目視で見える位置にまで登りきる。
黄金の
『おいおい、さっさと逃げりゃいいモノを、馬鹿がいたらしいな』
巨人は巨大なレーザーカノンを右肩からおろして、その場に捨てる。その黄金の機体は腰の鞘から剣を引き抜く。
『何故こんなことをする!』
俺が叫ぶと、外部出力された声を聞いて相手が笑う。
『ガキの声? あの工場のガキか。察しが悪いな、邪魔だから以外の理由なぞあるものか』
金の巨体が駆ける。こちらも両手で剣を構えるが、相手の方が速い。何も持っていない左手でこちらの剣を両手ごと押し上げて体勢を低くし、右手の剣をなぎ払う。
胸を切り裂かれた竜機を大きく後ろへと下がらせる。切り口から
『おいおい、いっちょまえに避けるなよなぁ、このクロウ様の攻撃をよ?』
その名前を聞いて思い出す。あの車の男。父さんが話していたこの竜機の買い手の名前。
『クロウ・アリデッド! 買うつもりだったんなら買った後に好きにすれば良いだろ』
『おやおや、察しがいいのか悪いのか。俺が買う段階っていうのは完成ってことだろ? それじゃ遅いだろうが!』
言い終わるのが早いか、巨人が走り出す。上段から大振りの一撃。こちらは下からの切り上げで剣の腹を打つ。しかし、今度は巨人が自ら剣から手を離していた。右脚でこちらの機体を蹴り飛ばし、転ばす。
『さよならだ、坊主、剣がまともなら勝ててたかもなぁ』
宙に飛ばされていた敵の剣にはワイヤーのようなものがつながっていた。転んだこちらの機体の上から右手で剣を回収した巨人が串刺しにしようとしていた。その瞬間が長く引き延ばされる。一秒にも満たないはずの時間。機体の中で誰かの声がした。
『我を呼べ。知っているはずだ』
「テュフォンゼクス、
俺の言葉により、俺の乗っていた竜機――テュフォンゼクスは
目の前に爆発が起こる。その爆発に巨人は後ろへ飛び退く。
『しつこいヤツだ。しつこいよお前、次で仕留める』
こちらが立ち上がると、強い風が爆発の煙を取り除いて視界を回復させる。が、遅い。
『
音がしたときにには遅かった。竜機を、そして俺自身を貫いて遥か上空、ドームの外からの雷が大地までを貫いていた。痛みを感じることもなく、崩落する地面と落下の感覚だけがある。そして、地面の下へと落ちる俺をあの巨人が見下していた。
その光景が暗いながらも眼に鮮やかに残っている。そうだった。一時的な記憶の混濁に忘れていたという事実すら、俺の怒りを絶望を増す。
ただ一つの救いは、右手に残った剣。ヤツが馬鹿にしたレイナの剣。この剣で復讐を果たすまでは、死ぬわけにはいかない。
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