エンブレムフェイト〜私のバディは淫魔の王子〜

時長凜祢

名門校への招待状

 世界中の花々が咲き誇るのが最も多い時期と言われている春。

 私は、ある学園へと入学する為に、遠い田舎の辺境から、飛竜タクシーを使って、中央大陸・グランドセントルムへと向かっていた。

 学園の名前は異種族混同フォーチュン学園。ある特徴を持ち合わせている子供たちが、必ず招待される学園だ。

 招待される条件はただ一つ。自身の身体のどこかに、何かの紋章のような痣が刻まれていること。

 私が暮らしていた村の長老様曰く、生まれつき身体に刻まれている紋章のような痣は、何かしらの才覚に秀でた者に刻まれているものらしく、同じカタチの紋章のような痣は、この世に二つ程生まれ落ちるものであるとのことだ。

 なぜ、この世に二つ程同じカタチの紋章のような痣を持つ子供が生まれ落ちるのかはわからない。

 長老様も、そこまではわからないとのことらしいから、答えを得ることはできない。

 ただ、この紋章のような痣は、特別な子供……エスペシアルチルドレンのみが持ち合わせているものだから、中央王都、メディウム・ロワルスに存在する学園に通う決まりとなっている為、時が来たら、入学通知が来るだろうとのことだった。


 そして、その話を聞いた5年後……15の誕生日を迎えた一昨日に、私の元へ一通のマジックレターが届いた。

 そこに添付されていたのは、中央王都メディウム・ロワルスに存在する学園、異種族混同フォーチュン学園の校章。

 マジックレターには校章と共にロワルス王家のエンブレムシーリングが刻まれていた。

 恐る恐る自身の胸元にある紋章のような痣にそのエンブレムシーリングを近づけてみれば、そこにかかっていた術が解け、手紙を開くことができた。

 中身を見てみれば、異種族混同フォーチュン学園への招待状で、添付されていた手紙には、是非ともうちに通って欲しいとの趣旨が記されていた。

 それらを見た私は、すぐに両親と長老様にその手紙を見せて、入学する許可をもらったのだ。


 それにより、飛竜タクシーに乗る今の図が出来上がっている。

 飛竜タクシーのタクシー代はあまり安くなかったけれど、せっかく有名校から呼ばれたのだから、このチャンスを逃さないことは道理だろう。


 なんせ、フォーチュン学園に通った人は、魔術や剣技を身につけることができるから、ギルドに所属し、たくさんのお金を稼ぐことができる。

 決して貧しいと言うわけではないけど、もし、私がギルドでお金を稼ぐことができるようになったら、村のみんなや、両親に、もうちょっと豊かな生活を送らせてあげられるかもしれないのだから。

 それに、薬の調合とかも身につけることができると聞いたことがあるし、村にいる人たちの病気や怪我を、もう少しマシな形で治してあげることもできるだろう。


「お客さん。中央王都メディウム・ロワルスが見えてきましたよ。」


「本当?」


「ええ。外を見てください。」


 しっかりと勉強をしなくては……そう意気込んで入学招待状を見つめていると、飛竜タクシーのキャバルリーさんから、王都が見えてきたと教えられる。

 外を見てみるようにと促されたので、窓から視線を向けて見ると、大きなお城や、沢山の大きな建物がある、見たことない広さの国が視界に映り込んだ。


「わぁ……!!すごい!!これが王都なんだ!?」


「ええ。我らが国王ライラック=フォンス=ロワルスディア様が御治めになられている中央王都です。とても美しいでしょう?」


「はい!初めて見ました。こんなに素敵な国を!」


「フフ……中央王都出身として、とても誇らしい言葉です。」


 見たことない大きな国に、素直に驚きながらも、キラキラとしている王都に、目を輝かせていると、私が乗ってる飛竜タクシーの運転を務めているお姉さんが、嬉しそうに言葉を口にした。

 どうやら、このキャバルリーさんの出身地だったようである。


「お姉さんは、この国出身だったんですか?」


「はい。この国で生まれ、この国で学び、この国でドラグーンキャバルリーになりました。

 実を言うと、私はエスペシアチルドレンと呼ばれる痣持ちの子供だったので、フォーチュン学園で様々なことを学んだんですよ。

 そんな中、ドラグーンキャバルリーとしての才能を開花させまして、今、こうして飛竜タクシーの騎手兼キャバルリー騎士団の団員の一人を務めさせていただいております。」


 なんと、このキャバルリーさんは、私が通うことになった学園、フォーチュン学園の卒業生でもあったらしい。

 しかも、かなり聞き覚えのある騎士団の名前まで飛び出してきた。


「キャバルリー騎士団……!聞いたことあります!確か、ドラグーンキャバルリーの職についている方たちで構成されている王家直属の飛竜騎士団でしたよね?」


「はい!よくご存知ですね。」


「私も、エスペシアチルドレンなので、フォーチュン学園に招待されたんです。

 だから、そこに通った人が、どのような職業に就いているのかとか、長老様から教えていただきまして……。」


「なるほど。この時期に、王都へと向かいたいと言ってくる子供が珍しく、もしやと思いましたが、やはりエスペシアチルドレンでしたか。

 じゃあ、私の後輩に当たるんですね。なんだか嬉しいです!」


 声音からとても嬉しそうにしていることがわかる。

 もしかしたら、学園生活について何か聞けるかもしれない。

 先に話を知っている方が、心の準備もできそうだしね。


「あの、フォーチュン学園での生活って、どんな感じだったかお聞きしても良いですか?」


「もちろんですよ!なんなら、学園までひとっ飛びしてあげます!」


「わぁ!ありがとうございます!初めての王都だから、入学式に間に合うように街中歩けるか不安だったので、助かります!」


「これも可愛い後輩の為ですからお気になさらず!

 あ、ですが、私だからよかったものの、なるべくエスペシアチルドレンのことは人に教えない方が良いですよ。

 まぁ、先に言った私が言うのもアレですが、世の中には、エスペシアチルドレンに対して良い感情を抱かない方が結構いますから。」


「え、そうなんですか?」


「はい。なんせ、エスペシアチルドレンとは、いわゆる特別秀でた才能を持ち合わせている子供……もしくは、特別秀でた才能を秘めている子供の総称ですからね。

 そのような才能を持ち合わせていない人からすると、ひたすら煩わしいだけらしいので。

 それに、エスペシアチルドレンは、人よりお金を稼ぐことができますから、貧しい人からも特別な才能を持ち合わせているからお金を稼げると思われてしまっているようで、エスペシアチルドレンだからと言う理由だけで差別をしてくるのだとか……。

 未だに私は、そのような方と会ったことありませんし、そう言った人は一部の者だけだとも聞きますが……」


「なるほど……。肝に銘じておきます。」


 そんなことを思いながら、話の話題として学園の話を聞かせて欲しいと告げると、キャバルリーのお姉さんから承諾の言葉を得ることができた。

 同時に、エスペシアチルドレンが、一部の人からはあまり良い印象を抱かれないという情報も得ることができた。

 これは頭に入れておかなくては……そう思って、肝に銘じておくと口にすれば、キャバルリーのお姉さんから満足げに笑った。


「ええ。それが一番良いかと。……さて、暗い話はここまでにして、学園での生活がどのようなものだったか知りたいと言ってましたね。

 早速話しましょう!学園行事や、日常生活、吃驚仰天の楽しい毎日の話の棚はかなりありますので!」


「ありがとうございます!あ、私、ベリス=クロンティルドって言う名前です。もし、ご迷惑でなければ、お友達になってくれませんか?」


「もちろん構いませんよ!むしろ、あなたのような可愛らしいお友達も後輩も大歓迎です!

 あ、私の名前はリオニア=セレスティーヌって言います!リオでもニアでも、好きなように呼んでください!」


「わかりました、リオさん!あ、私はリオさんより年下ですし、敬語も敬称も必要ありませんよ?」


「ん〜……じゃあ、勤務中じゃない時はベリスちゃんって呼びますね。その時は敬語も外しましょう!

 でも、今はダメです!なんせ勤務中ですので!」


「あはは。真面目な方なんですね。」


「真面目と元気が取り柄なので!さて、自己紹介も終わりましたし、本題といきましょうか!

 そうですねぇ……ベリスさんは、どのような話を聞きたいですか?」


「じゃあ、まずは学園行事について教えてください。」


「わかりました!色々あるので、退屈はさせませんよー!」


 明るい声音で、リオさんはフォーチュン学園の話を始める。

 かつて自分も通っていたあらゆる種族が通っている不思議な学園……そこが、どれだけ魅力的で賑やかな場所だったかを教えるように。

 その話を聞きながら、私はこれから先、自分も過ごすことになる学園生活に思いを馳せる。

 嫌な思い出を作らないで過ごせたら良いな……。



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