第53話 質問! 夜中に女子の部屋へ侵入するのは犯罪ですか?

 なんと一泊二日。海まで遥々来た俺たちは夕暮れ、宿泊先の旅館に着いた。諸々の手続きは茨田のオネエさんにやってもらい、俺たちは先に部屋へ案内された。

 旅館の仲居さんが襖を開けると――――オレンジ色の夕の灯りが魅せる和室があった。だがちょっと――――


 「お兄ちゃん、この部屋狭くない?」

 「おい、妹。言うな」

 「だって六人じゃちょっと」

 「もう一部屋ありますから案内しますね」


 妹を気遣ってか、仲居さんはすぐに隣りの部屋を紹介した。


 「全く妹はこれだから」

 「理君もそうだからね」

 「え、なにが?」


 ちなみにこの二つ目の部屋のほうがかなり広い。

 つまり部屋は二つ、対立するのは男と女。どっちが広い部屋を取るのか、天音と茨田と妹、そして俺と陽――――俺は何故か女子側に立っていた陽キャをこっちに引っ張り、その代わりに俺は女子と並んだ――――が、茨田に蹴られて陽キャと並んだ。


 「争うまでもないわ、旅館を決めたのはあたし。だからこっちは女子の部屋」

 「待て、こっちはかなり広い。だからもう一人いてもいいはずだ」

 「何言ってんの?」

 「わかった! じゃあここは女子の部屋でいい。その代わりに俺は女子という事で」

 「は?」


 どこかから「お兄ちゃんサイテー」という声と「とりあえず今は共闘、一人分の枠を確保するんだ!」という声が聞こえるが、知らないふりして俺は続け――――ようとしたが拳を素振りし始めた天音を見て止めた。


 「じゃあこっちは女子の部屋でいいよね?」

 「待って! わたしに提案があります!」

 「な、なに? 妹ちゃん?」


 妹は勢いよく手を上げ、笑顔になって言った。


 「こうしたらいいと思う!」


 廊下、オネエさんがリズミカルに歩いては「フンフン~」とその部屋の襖を開けた。


 「あら、暗いわね。電気電気……点いた――――って、なにしてんの?」


 戸惑うオネエの前にあったのは人間ピラミッド、その頂点でドヤ顔で仁王立ちしている妹ちゃんだった。あと一番下の、天音のせいで背骨が痛すぎる俺と茨田の土台になって喜びをかみしめている陽キャだった。


 「はい終わり終わりー」

 「妹ちゃん、気を付けておりてね」

 「はーい、天音さん。よいしょっと!」

 「ああ、まだ! まだ! やりたいぃ!」

 「お前は気持ち悪すぎだろ、あと天音も早く降りろ――――肩を踏むなぁ! 痛っ!」

 「あ、肩を踏んでください」

 「……踏むわけないでしょ――――で、こっちが女子部屋ね」

 「うん」


 なんかもう俺、男部屋でいいや。部屋戻ってゲームやるか。

 俺と陽キャは部屋に戻り、スマブラをした。陽キャをボコボコにしてた。



 その後は特に何かあるわけもなく、というか海で遊んでわりと疲れてたからすぐに風呂入って飯食って少ししたら寝た――――俺以外は。


 消灯、時間は二十三時。隣りの女子の声はもう三十分も聞こえていない。つまりおそらくたぶん寝静まったころだろう。

 ちゃんと陽キャもオネエも寝ているようだ。よしよし。

 

 「ふっ、この時を待っていた」


 俺は布団の中、暗闇の中、音を立てず静かに動き出す。襖の方へ――――ではなく、窓のほう。ルートは色々あるが真正面から行っても鍵がかかってるのは確かだ、それは無い。


 「よしよし、ゆっくりのらりくら――――り!?」

 「貴様、何をしている」


 窓の手前、月の明かりを浴びながら無残にキメポーズしている影が見える。あ、あれは――――


 「陽キャ!?」

 「大声を出すな!!」

 「そっちの方が大声だろ」


 にしてもどうして陽キャがここに。確かに布団で寝ていたはずじゃ――――いや、あれは藁人形。コイツ忍者かよ。


 「お前が考えそうなことはわかる。だからお前の考えそうなことはわかる」

 「何を言っているんだ? まさか、お前は女子を守るために!?」

 「そうだ。お前から女子を守るためにお前の息の根を止め、お前から女子を守るために俺は女子部屋に行く」

 「なんだと!」


 陽キャの言っている意味がよくわからないが、ニヤニヤと変態じみた顔しながら言っているところ、考えていることは俺と一緒のようだ。


 「なら俺もお前を倒すだけだ! 拳で」


 といいつつも俺はスウィッチを陽キャに見せつけ、滅茶苦茶大乱闘した。そして普通にアイツをボコボコにして勝った。


 「くそ!」

 「じゃあ、行かせてもらおう」

 「待て」

 「なんだ?」

 「二回戦だ!」


 陽キャはそう叫ぶとジェンガタワーを勢いよく立てて、座って俺を待った。半ば挑発的だろう、窓を開けようとしている俺に対して強引に止めにくるわけでもなく、じっと待っているのは。ただ、そんな挑発に乗るわけが――――ある。

 

 「ボコボコにしてやらぁ!」


 その自信をへし折ってやる。俺は迷うことなくピースを抜き、陽キャも迷うことなくピースを抜き、一瞬の滞りもなく高速にゲームは進んで――――俺は二周目で負けた。パン!パン!バァン!!だった。


 「くそ!」

 「じゃあ、行かせてもらおう!」

 「待て」

 「なんだ?」

 「三回戦だ!」


 俺はそう叫ぶと再びスウィッチを見せつけ、遊び対戦でオセロで対決しようと提案した。俺は満を持して座って待ち、じーっと窓を開けようとする陽キャを待った――――が


 「馬鹿め! 乗るわけねえだろ!」


 陽キャは俺の挑発をガン無視して、窓をスラッと開け、跨いで屋根の瓦を踏もうとした――――そうはさせるか! 俺はすぐさまオネエさんを叩き起こした。

 オネエさんはバキッと目を開くとすぐに陽キャを見て、察したようだ。布団から飛び上がった。


 「待ちなさーい!」

 「オネエさん、あいつ女子の部屋に行くつもりよ!」

 「そんなの許せないわ!」


 俺とオネエさんは陽キャに飛び掛かった。女子の部屋に行くだなんて犯罪行為を許していいわけがない――――と見せかけて、オネエが陽キャを抑え込んでいる間に、というか抱きついている? 間に俺は臭い窓から外に出て芳しい窓から女子部屋に入った。


 「最終的に勝てばよかろうなのだ!」

 「あっそ」

 「なにぃ!」


 待ち構えていたのか。部屋に入ったらすぐ、茨田、妹、天音がじとーって目をして俺の前に立っていた。

 

 「寝てたはずじゃ!」

 「あんなにうるさかったら起きるに決まってるでしょ」

 「お兄ちゃんサイテー」

 「理君、もう一回死んでみる?」


 なるほど。夜這いは日本じゃ犯罪だったのか。

 やっぱり自分は無知なんだなと自覚しつつ、反省しつつ、俺は迫りくる阿修羅天音に懇願する。

 

 「待っ――――」

 「さよなら」


 俺は天音に無茶苦茶GAMESET!された。初見殺しは悪い風習だと俺は思うのです。


 「もう覗きは止めよう」


 ブラジル通り過ぎてちょうど地球一周、ちょうど旅館に落ちてから俺は猛省した。というか次は死ぬと思った。

 落ち着いて俺は自分の部屋、男部屋に戻ろうと襖を開けた――――


 「だらしねぇな」

 「お、助け!」

 「歪みねぇな」

 「ああああああ――――!」


 すぐに閉めた。なんか陽キャとオネエさんが白熱していた気がしたが、見なかったことにしたい。というかしよう。この世には知らないほうがいいこともあるんだ。忘れよう、忘れよう、うん、うん。


 「ヨヨヨヨヨヨシ! ロビーで寝よう」 


 スイスイ、滑る床は少し肌寒い廊下は夏というのにまるで冬のようだ。だから俺はまるで氷の床を飛び跳ねながらクルっと回ってロビーまでゴロゴロと転がり着いた。


 「いてぇ!!」


 ついでに足をちょっと痛めた。これは危険だ。この廊下、怪我しますって看板置いておくか。


 「ふぅ~」


 ロビーのソファに座り、黄色いシャンデリアを眺めながら「疲れてんな」と自覚する。殴られ、泳ぎ、殴られ、殴られ。ほとんどが不条理な気もするが、これも宿命なのだろうかとどこかに訴えた。


 「まぁどうにもならないけども」


 とはいえ、大変なことばかりだ。こんなんなら部屋に籠ってゲームしてた方がよかったか。今だって夜更かしで好きなゲームできるのに。


 「やっぱりゲーマーには旅行は合わない……まぁでも――――」

 「こんばんわ」

 「ん?」


 涼しく静かな風、そんな声だった。どこか悶々としていた気持ちを簡単に消し去り、まっさらな心地よさに変えたそれは、全く予感もなかった出会いだった。


 「奇遇だね、浦嶋君」

 「霞京子、さん?」

 「霞でいいよ」


 優しく笑う浴衣姿の美少女は、いつもの霞京子とは違う、ひとりの可愛らしい女の子だった。全然雰囲気が違うから目を疑った。でもあまりに彼女の香る声は心地がいい、氷の結晶が水に溶けていくように、俺の心も溶けている。


 「てか違う、眠いんだ。これ」

 「あっ、待っ――――」


 慌てて俺に近づく彼女を最後に映して俺はしんみりと瞼の裏の暗闇に染まった。子守歌ってわけじゃないのにすごい眠気がぁ……



 「ハッ!? 夢か!」



 朝日が眩しい。布団から起きると和室に一人、内装的に間違いなく旅館の中だけどなんで一人? 確か俺は? あれ、どこで寝たんだっけ? 男部屋は――――う゛! 思い出したくない! ガチムチパン――――悪夢だ!


 「あ、いた」

 「あ」

 

 襖をあけたのは天音。なんで天音がここに?――――う゛! ブラジル通り過ぎて――――悪夢か! いや、前もブラジルに悪夢か?

 あ、茨田も来た。茨田はいい夢しかないな。


 「勝手に空き部屋に入るとかヤバいやつじゃん」

 「そうなのか」

 「理君、そんなに男部屋嫌だったの?」

 「え?」

 「だって昨日……」

 「嫌だ」

 「理君、顔青いよ? 大丈――――」

 「嫌だああああああああああああああああああああああああああ!!」


 走馬灯ではないが、男部屋の地獄絵図を思い出して俺は発狂した。発狂して廊下を爆走した。あれは夢じゃなかったのか! うわああああああああああああああああああ!!

 もしも気持ち悪い記憶があって、しばらくそれが消えないのなら、きっとそれは悪夢じゃない――――最悪だ。



――あとがき――

やべえ、夏休み終るじゃん。やべぇ。まだ海しか行っていないじゃん。まぁいっか。

次回は天音回やります。ラブコメ頑張るぞい。(`・ω・´)

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