第52話 水着をポロリ、それを見たら即死。【大ヒット上映中】
なんだかんだ言って海が楽しいのは最初だけで、だんだんと暑さに嫌になってくるものだと俺は知っているのです。だったら最初からパラソルの中でゲームをしていたほうが効率的でしょ? ってやっていると前回と同じく天音が不機嫌になるので、俺はただ地平線を眺めていた。地平線をゆったりと進む白い船をぼーっと。
「金ちゃん、来なかったね」
「ああ」
しみじみとした湿っぽい風に天音の少し寂しげな声が混ざる。元々海に行こうと提案したのは大野だったが、諸事情により行けなくなったらしい。
「焼肉フェスだって」
「そうか……え?」
目の前を純文学っぽい本が風に飛んで行った。アイツ、友達よりも焼肉かよ。マジか。
「?」
「どうした?」
「別に」
天音はチラっとあっちの海の方を見たが、何も特別なものはない、あるのはゴーグルを身に着けた子どもが泳いでるくらいだ。
「ねぇ、理君。どうせ暇でしょ?」
「暇っていうか、なんか頭痛が痛いから休んでるというか」
「だったら大丈夫だね。海で遊ぼうよ」
天音は嬉しそうに笑って俺の手を掴むと、海へ走り出した。握られた手の感触に、なんか少しだけ胸がドキドキした――――と思ったら天音が逆の手にボールを持っていたのに気づいて心臓がバキバキしてきた。しかも鷲掴みで持ってやがる。
生温かい水だ。小説だからリアルに表現してもいい、でも一応ライトなのでそれでもオブラートに。なんかこの海、若干濁って――――傷ついたエメラルドはむしろ守りたくなるくらいに美しいものだろう。そんな海の心地だ。
「何ぼーっとしてるの? えい!」
「ちょっ、水掛けんなよ」
「わかった! えいえい!」
「全然わかってないだろ!」
「わかんないもん!」
天音は不意を突いて俺に水をかけ、イジワルにはしゃぎだした。すっごい満面の笑みで、なんか日ごろの何かしらを感じなくもないが、前屈みになっては上に弾いて、覗いては揺れる芳しきに俺の脳はオーバーヒート。だんだんと俺は黙った。
「ん?」
「どうした、続けろ」
「わかった! えーい!!」
「うわああ、砂が口に入ったぁ! ぬえぇ……」
口の中がザラザラする。海水で口を濯いでもなんか変な感じ。
せっかくの眼福だったのに、天音の奴め、前回前々回で味わった砂の感触をまた、いいかげん砂恐怖症になりそうだ。しかし――――俺も食い下がれない。たまにはやり返す男、浦嶋理。
「天音め、やりやがったな!」
「うわっ!」
「おらおらおら!」
「ちょっ!」
「おらおらおら!」
「ちょっ! 怒ってるの?」
「おらおらおら……オラオラオラオラオラ!」
「もう許さない――――!!」
殺気。酷く研がれた気にまるで時が止まったのか、俺の身体は動かなくなった。その水飛沫乱用は硬直した。ヤバい、反撃が来る。
「!?」
「なんだ?」
突然天音が砂浜のほうを睨んだ。何かあるわけでもない気がする、双眼鏡で辺りを見回すライフセーバーくらいしか目立たないが――――いや、そんなのはどうでもいい、これはチャンスだ!
「俺は妥協しない男! 天音、喰らえ!!」
「むっ?」
俺は大きく両手を下から上へ、天音に渾身の水飛沫を浴びせようとした。というかほぼ浴びせた、水の塊はすでに宙にあがって天音の方へ飛び掛かって――――なのに天音はその刹那の間、瞬時に下へ潜って避けた!
「なんて反射神経だ!」
「ふふん。今度こそ理君を――――あれ!!!?」
「あっ……」
水から上がった彼女の胸にはあったはずの布が無くなっていた。自慢げにしていたのも束の間、天音は胸を隠して水にしゃがんだが――――
「見た?」
「ミテェナィデスゥ」
「見てるじゃん!」
「いや、見てないって!」
天音は水の中から一発、拳を俺の顔面目掛けようとした。さすがに即死級、俺は本能から両手を前に防御の姿勢を取り、せめて脳だけでも残るようにと寸分の確立に掛けた――――が、なにやら俺の右の中指になにやら紐が、そして何かぶら下がって……
「終った」
「そうだね!!!」
拳は水の中で渦巻いて、何かを宿し、まさしく俺を塵にしようという気迫に変わった。
弁明? 殺意すごすぎて口が開きません。でもわざとじゃないんですけどね――――さて、夏休みは天国にバカンスに行こうか。ああ。
海の質量。その全てに俺は吹き飛ばされ、無事に今回も天音に敗北した。俺の血と骨は塩水に溶かされた、半ば無理やり。
「ってあれ?」
普通に海の上に俺は立っている。なんだ、夢か。その割には自分の意志に逆らって今だに両手が守りの姿勢を取って戻らないのだが、ガッチガチになって動かないのだが。
「……プクプクプク」
「なんだ、この泡?」
目の前の水面、泡が浮かんでいる。
ってまぁどうでもいいか。そういえば天音と遊んでいたはずなんだけど、どこに行ったんだろ?――――あれ、泡の水面から何か。来る!
「うわっ!!」
メデューサ? その気迫に思わず腰を抜かしてやや溺れそうになりつつも、よくその姿を見て見ると、何の変哲もない天音だった。
「なんだ、天音か」
「……」
すごい渋い顔してるが、天音だ。何かもっと恐ろしいものかと。
「怖がらせるなよ、天音」
「……(フツフツ)」
尖った目つきで俺を睨んでくるが、天音だ。なんだ怒ってるだけか。
「なんで怒ってるんだ? 天音」
「……(ギチギチギチ)」
怒りの熱で水蒸気が上がっているが、天音だ。とてつもなく怒っているが、間違いなく天音――――あれ、胸を腕で隠してる。水着が無い。
「天音、水着どうしたんだ?」
「許さない……」
「っえ?」
「もう許さない」
「なんで怒ってんだよ!」
「!!!」
なにやらよくわからない容貌。俺はとりあえず命の危機を感じ、とりあえずその場を逃げようと、大きく手を広げた。バタフライである。
何故か俺はバタフライで海を泳ぎ、藻掻き、後ろから追いかけてくる戦艦から逃げまわった。
「でも俺はただのゲームオタク。無理だわ!」
観念しよう。というか足が攣りそうだし、体力もそこが尽きたし、降参するしかない。俺は水の上に止まり、怪獣戦艦天音一号がこちらに迫るのを待った。
「ん?」
はずなのだが、何か気味の悪い波が肌にぶつかった。周りには誰もいない、だから海の波以外に変なものがあるわけが――――あれ? なんか三角形の灰色が水面を動いている。これってもしかして、
「シャー!!」
「素敵な歯! サメだぁあああ!」
飛び掛かってきた、問答無用に自然界が俺に牙を剥いてきた。なんで、さっきまで俺は浜辺にいたはず、そんなに泳いでしまったのか。さすが大人気ゲーム実況者、泳ぎも達者!! でも最後はサメに喰われるエンド――――巨大な口に視界は覆い隠された。
「どけええええええええ!!」
「シャアアアアアア!!」
がその猛者たる声と共にサメは蹴り飛ばされた。即死、サメは海の上にふわりと浮かんで静かに漂った。
何が起こったのか、全く分からないがとりあえず助かったのか。一体だれが俺を助けて――――目があったのは紅い目、怪獣天音一号だった。そうか、どっちにしてもダメだったんだっけ。
「終わりじゃあああ!!」
「うわああああああああああああ!」
――――二度目か何度目か。浜辺には一つの水着が漂着した。「可愛らしい」とイケメンオネエは微笑み、「誰のだろう」と中学少女は首を傾げた。
そればかりなら平和な夏の日だったろう。もう一つ、そこへ漂着した。「あら?」とイケメンオネエは苦笑い、「なにこれ?」と中学少女はまた首を傾げた。
あったのは――――謎の水死体。そこにいた目撃者はこれは見たことない生き物だと、「UMA」だと言っていたそうだ。
「サメじゃない?」
「サメはこっちに落ちてるよ」
「あら」
――あとがき――
ラッキースケベをするとゴールド・E・レクイエムする系ヒロイン。
次回は旅館行きます。そこでもまた奇妙なイベントがあるようだ。
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