第51話 四捨五入したらギリギリ! 女だらけのバレー大会!!
わいわいと賑やかな色々はそこら中から、上は熱ある太陽と広がる水色に前は海がゆらゆらと揺れている。風はじんわり湿っぽく、たまに砂を運んでは肌にくっ付いてイライラさせられるが、それも綺麗な女子大生から来たのなら大歓迎、ただ――――switchのスクリーンが砂まみれだ。何も見えない。
「うん?――――うわ! 砂で見えないところから攻撃するとか反則だろうが!」
パラソルとシートの影の中、俺が画面に向かってそう怒鳴ると砂野郎は怖気て消し飛んで行った。だったら最初からやってくるなよと熱を扇いで画面へ見入ると、また風が吹いて今度は目の中に入った。それはまるで支柱に転がる蟲のよう、怒り狂った俺は”この世から砂を絶滅させよう”と貯金の三分の一を砂漠化を止める団体に募金した。
「よし、これで海は緑色に――――」
「なるわけないよ、馬鹿なの?」
天音は頬を膨らましたまま俺をじーっと半ば睨んで俺に小声で言った。なんだ、天音は砂大好きなのか? だから前回俺を埋めたのか?
「ねぇ理君、せっかく海に来たのにゲーム三昧って、ありえないよ?」
「別にいいだろ。てかむしろ海でゲームなんて逆に新鮮だろ」
「何が新鮮なの?(プクーッ)」
「なんかまた膨れた。俺がゲームやるのがそんなに気に入らないのかよ」
「違う! 私は――――」
「はいはい! 喧嘩しないで天音もこっちね! ほら!! これで人数揃った!」
天音が何かを言おうとした瞬間、その背後から茨田がやってきて、天音の腰回りを抱きしめたままあっちで遊んでいた妹と陽キャの方へ連れていった。引きずられている天音は、なんかしょげている猫みたいだった。
「って、なんでお前が妹と遊んでんだ! 訴えるぞ!」
「なんでだ!」
妹を誑かす野郎は何人たりとも許さん。俺はSwitchを置いて奴を殴りに行った。
――――ビーチバレー。海に来たらとりあえずやる遊び、ナンバーワン。その理由は知らない、別に体育館でやればよくないか? って思いつつも少しだけ俺はやんわりとしていた。
「天音、パーカー脱ぎなよ! ほらほら!」
「脱がない! ちょっ!」
イジワルなのか、茨田は天音のパーカーを脱がせようとその身体をベタベタ触ったり、擽っている。というか戯れていた。茨田はニヤニヤして楽しそうに、天音は恥じらって必死に守っているが笑って――――俺と陽キャはずっとレシーブの姿勢のままになっていた。別に理由はないが、前のめりになっているように見えるがこれはバレーのバレーだからであって、
「くっ、天音しぶとすぎでしょ。こうなったら! 妹ちゃん!」
「あっ! わかった!」
「え、なんで妹ちゃん!?」
「わーい!」
妹参戦。なんかもうバレーボールとかどうでもよくなってきた。このまま見ていよう、水着のままお互いに抱き合っている女子の様子を。この安寧たる平和に勤しもう。
「はぁはぁ……負けた」
「天音さん、やっぱ強いね。岩みたいだった」
「わかったら、もう止めてね!!」
あー。溜息が二つ。茨田は息つきながら悔しそうにしているが、そうじゃない、こっちとしては勝敗なんてどうでもよく、とりあえずずっと――――
「まぁバレーボールだってさ」
落ち込む俺の肩を、すぐ切り替えた陽キャが叩いてそう一言。ああ、バレーボールか。まだ俺はレシーブしてぇえな。
「ってなんでお前いるんだよ」
「今更だろそれ――――」
「よし! あたしが投げればいい感じ? おらー!!」
「おい、浦嶋、飛んできたぞ」
「え?」
特別ではない。精々平均的な女子高校生のスマッシュだった――――にしてはどうしてか、俺の足は酷く怖気ついている。
「いや、速くね?」
その一投はすかさず夢を見ていた俺の頬をぶん殴り、宙に浮いてはまた後ろから俺の頬をぶん殴り、また浮いては女子の方へ、そしてまた茨田が俺をぶん殴り、後ろからぶん殴られ、ぶん殴り――――半ばデンプシーロールだった。でも茨田にそうやって弄ばれるのは――――悪くない。
「おらおら! しねぇ! クソ浦嶋陰キャ郎!」
「お前のいらねえんだよ!!」
俺は右から来た茨田のボールをそのまま受け流し、それは陽キャの顔面にぶつかった。
なかなかの威力だろう、鼻血がダラダラと出ている。
「陽キャ、ざまぁ!」
「ざ、ざ、ざまぁ? お前、これは茨田のボールだ。ご褒美なんだよ!」
「そ、そうだった!」
受けても後ろから殴られ、受け流しても奴は得をする。とっくに俺はポジションにおいて完敗していたというのか!
「こ、これがバレーボールか」
「気付くのが遅かったな!」
「……あいつ等相変わらずきもいな。え、天音?」
「私がやる」
天音はその禍々しきままにパーカーを脱ぎ捨て、茨田からボールを貰った。
言い争う俺と陽キャ。その天空に何か暗黒が現れ、見る見る肥大し、俺たちを覆い尽くした。
さらに見えたのは真っ赤な眼光と心臓を射抜いて止める殺気。そして狙い澄まして空にボールはあがった。
「なるほど」
納得したのはすでに嵐が過ぎ去ってから。天音の強力な一撃は俺の頭を割った後に、精密に反射して陽キャの頭も砕いた。いわゆるダブルキルである。さすがだぜ。
「お兄ちゃん、大丈夫?(つんつん)」
「イモウト、そのツンツンするのをヤメナサイ」
「うん、わかった。浮気はダメだよ?」
「浮気じゃないです」
バレーボールはコンタクトスポーツだと身に染みて理解した俺は静かにパラソルの影の下、妹に看病されながら浜辺で遊ぶ天音と茨田を見ていた。
あんなに恥ずかしがっていた割にはもうパーカーなんか捨てて、目一杯遊んでる。白色の普通の水着、引き締まったお腹。
「てか全然変じゃないだろ」
芳しい女子大生の水着の間、俺は天音の姿を覗いてそう実感した。これじゃ殴られ損だとも。
――あとがき――
何の変哲もない平和な回。
正直、とりあえず主人公をぶっ飛ばせば完結すると癖になっている節がある。オチが足りないから牛乳飲んどこう。
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