第48話 ガサ入れ探偵、茨田紗綾!!

 この社会は思ったよりも明るく、また思うよりも暗いのかもしれない。何度も元気づける窓からの日射し、いつも近くで笑う友達、美人ナースの妖艶な介護、あと左にいるクソジジイの禿頭。なんか左右から日光に挟まれてるんだよな、暑すぎる。

 

 「なんじゃ、訝しむな!」


 とりあえず良いことがあれば、充実もあれば、平和もあれば、その明かりの分だけの影もある。そんな気がするんだ。

 例えば――――完治してるのに退院しない、隣りの美少女とか。それを病室の前で張り付いて見ている爺さん、オッサン、青年、あとドクター。


 「茨田、あれはなんなんだ?」

 「そんなの……あたしが聞きたいわ!! あっち行けよ! カス共!!」


 なんとも迫力ある激昂が扉の男らにぶつかって群れのほとんどが吹っ飛ばされた。ひとりは向こうの部屋の窓を割って落ちてったぞ。すげぇ。

 そんな命の危機すらある茨田の嫌悪を差し向けられたのに、扉の男らは――――


 「今、カスって言ってくれた!」


 と嬉しそうにニヤついて床を這いつくばっていた。

 そのうちの数人かはついでにと、ナースのスカートを下から覗き込んで、同じく覗かれたのに後悔のされ、そのあまりに「ちょっと精神を病んだので、入院の延長を希望します」と宣言されたオババナースに、蹴られまくった。

 またついでに茨田にニヤついて床でモジモジししかけていた奴らもぶっ飛ばされた。あれじゃホントにアイツらの入院期間が延びるじゃねえか。


 「ああ、もうウンザリよ!」

 「ホントだよ」

 「絶対もう治ってるのに、なんであたしは退院できないの? ねぇ!!」

 「そうだ! 俺が茨田を独占してたのに!」

 「は? ふざけてんの? あんたも突き落すわよ?」

 「ふんぎぃいい!!!(満面笑みの枕吸引)」

 「きっっも!?」

 「ふんぎぃいいいいいい!!!(満面笑みの枕吸引Ⅱ)」


 これは嫉妬か、それとも性癖か。

 どちらにしろ最近の俺の日課は、扉の男たちがぶっ飛ばされた後に茨田に罵られて絶頂することです。こうでもしねえと入院生活やってらんねえ!!


 「あ、湶が! やべっ、やり過ぎた」

 「馬鹿なの?」

 「ふんぎぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!(湶絶頂)」

 「……なんかもうこの病院、狂ってる」


病院「ふんぎぃいいいいいいいいいいい!!」


 「はぁ……」


 もはや魔法使いとなった茨田は小さく溜息をついた。心底、この現状に呆れたようだ。

 謎に入院させられ、毎日男から眼差しを浴びせられ、キレても喜ばれてむしろ人が増えるという。

 本当にここは病院なのか? いや、罵られ委員会の代表としては至って正常だと思うが、逆に異常だというのならここが病院なのは変わりないだろう。


 「ああ、なんかもう許せない。なんで毎日、毎日、毎日!!!」

 「ふ、ふんぎぃ?」


 俺の抱きしめていた枕が溶けた。茨田の怒りだ。煮え滾るその熱で枕がドロドロに。

 あ、舐めてもちゃんと枕の味がする! 不味い!!


 「こうなったら暴いてやる。この病院の陰謀を」


 タジタジタジ。茨田はその憎しみの炎で決意を固め、メイクをして、スマホを持って、部屋を出ていった。真実を掴みに行った。

 そして俺はその一部始終を目の当たりにして――――


 「それは不味い!!!」


 舐め回していた枕を投げ捨て、茨田の後を追った。


 

 茨田は探偵の恰好、チャーミングなチェック柄を装って、ライブ配信を始めた――恐らく近くのドン〇キホーテで購入したであろうか――視聴者の数はおよそ五千人、土曜日の昼前とはいえ、かなりの人数を集めていた。


 

 「探偵衣装似合ってる!」

 「かわいい!」

 「どうしたの?」 

 「カッコいい!」


 という恐らくJKのコメントに溢れている。

 なお、俺も「僕が犯人です! むぎゅううう!!」とコメントを放ったが、即追放された。後悔はしていない。


 一方で病院内、その廊下では


 「な、なに?」

 「茨田さんがなんかやってる?」


 とナースや患者がちょっとだけ騒めいていたが、茨田の探偵衣装に釘付けになって、注意などはせずにむしろ歓迎していた。

 さっきの怖いババアナースもそのうちの一人で


 「茨田ちゃん、可愛いわね」

 「そー? あ、この人、この病院のナース長。よろしく! イェーイ!」

 「フフフ、イエーイ!」


 茨田が盛り上げようとおば様と肩を組んだ。が、むしろ逆効果だったようだ。一気に視聴者数が仙人くらい落ちた。

 コメント欄は――――


 「グロ画像」

 「キツイ」

 「年齢考えろよ」


 となかなかに辛辣だった。

 民度が悪いと思うかもしれないが、そう不快に思うこともない。なぜならそのうちのほとんどは俺たちババアナースアンチのものだからだ――――よし、もっと書いてやろ。 


 「『ナースコスプレのババア』っと。日ごろの恨みだ」

 「なんですって?」

 「あ」


 スマホでポチポチやっていた男患者は軒並み成敗されました。ついでまたアカウントも追放されました。また作り直しじゃぁ。

 

 「なにやってんのこいつら……まぁいいわ、みんな聞いて! 今から説明するから!」


 配信画面、茨田は倒れた男患者の山を背景に楽しげにリスナーへ呼びかけた。

 ので、俺たちも山の隙間でスマホを覗きました。コメント欄には「なんか後ろ、怖い」と流れてますが、たぶんそれもJKのものだと妄想してニヤついてました。

 それと同時にオステルがリッツしたので、互いに山は爆散しました。うえええぇ……ゲロを吐きそう。


 「あ、ええっと、後はいいから。後は――――よし、見ての通りあたしは元気なんだけど、実は入院してることになってんの。それで……」


 茨田はコメント欄がやや荒れる中、企画内容を説明した。それにしてもなんで荒れてるのか? 俺と男患者らは折れた旗をババアに踏みつけられながら疑問に思っていた――――革命失敗!


 「つ、つまり、あたしが思うにこの病院には何か陰謀があると思ったから、探偵茨田がそれを解明するって感じ!!」


 茨田は連れ去られていく男たちを背景に苦笑いして無理を突き通した。そして俺はババアに引きずられる前に――――


 「ワトソン君、探偵には助手がいるでしょう?」


 と落ちていたそれっぽい服に着替え、胸元にあった謎の手帳を見せつけて、茨田に寝返った。全く罪悪感はない。ええ。


 「あんたそれ、警官服だし」

 「あれ? まぁでも警官も必要だろ」

 「ま、いっか」


 そうして俺は手帳をしまい、茨田と共に病院内を駆け回った。同時に「アイツはスパイだ!」ババアナースから逃げた。変装したのになんでわかったんだ。野生のスパイだーだって。


 とりあえず茨田は情報収集。やっぱり探偵だから、知る限りの扉の男のとこに行って、その締まってる病室の扉に向かって


 「茨田や! はよ開けんかいゴラァ!」


 と罵倒し、ゴロゴロと入っていった。ついでに俺は「こらーっ」と怒鳴りながら、警察手帳っぽいものを見せびらかした。ドヤ顔も添えて。

 

 「これ、探偵っていうかこれ、ガサ入れだろ」

 「細かいことはいいでしょ! ほら、吐け!」

 「おろろろろろろろろ!」

 「さっきの後遺症だ!」

 「なによ、それ!」


 そんな感じで俺はガサ入れ探偵茨田紗綾と共に容疑者を恐喝しながら情報収集した。これにはどっかのアマンダ〇ウォーラーっぽいババアナースもニッコリ。といいつつも、恐喝のつもりが何故か男たちは嬉しそうにボロボロと情報を吐いたので、しだいに混乱したババアナースは謎のダンスを始めていた。

 そうして時間は過ぎていってだんだん真相がわかりそうで――――わからなかった。夕暮れ、静かなオレンジ色の日が俺たちを照らしていた。


 「だれ! 犯人は!」


 どこからか持ってきたホワイトボードを叩きつけながら探偵茨田は感情を露わにしていた。

 これほどにまで捜査して、一向に見えてこない犯人、今も繰り返される犯行、むしろ拡大している被害――――病院の門の前、怪我も病気でもなさそうな元気な男らがゴロゴロと入っては、この606室の前に集まっている。


 「茨田……」

 「なに? なんかわかった?」

 「ああ、わかった――――事件は会議室で起こってたんじゃない。現場で起こってるんだ!」

 「現場って、私が被害者! てかある意味ここが会議室かつ現場!!」

 「さすが名探偵」


 なお、コメント欄にも探偵はいる。この企画、リスナーも探偵として推理してもらっているのだ。しかしながらその力を借りても全く犯人はわからない。そしてそもそも――――何の事件なのか、わかっていない!


 「証言は全て! 茨田に罵られたことへの思い出ばっかだった!!」

 「なんで! 覚えてないのよ!」

 「たぶんそれはババアナースが殴りすぎたから!!」

 「あー!!!」


 万事休す。夕暮れまで色々とガサを入れたが、わかったのは何も掴めなかったことと今も増える不正な患者がいることだけだった。

 やることはすべてやった。なのに、ダメだった。諦める? いや、ダメだ。ここで諦めてしまえば、被害者は増える一方だ。それに俺たちは一生、病院から出られない。そんな気もした。


 「も、もうダメだわ」

 「探偵茨田、そんなこと言わずに!」

 「無理でしょ、もう無理なの」

 「で、でも!」

 「こうなったら一か八か……」

 「探偵?」


 ガサ入れ探偵茨田紗綾は苦い顔のまま、ポケットから何かを取り出した。紅く光る長方形の板、これは――――スマホ? プライベート用のスマホだ。だけどそれで何を?


 「『茨田事件、犯人』検索っと」

 「え?」

 「あ、ウィキに乗ってるじゃん! 名推理!」

 「え?」


 茨田は目をキラキラさせてスマホをスクロールする。それでいいのか、ガサ入れ探偵。それじゃ、ただ容疑者を罵倒しただけじゃないか。何だったんだ今までのは。


 「えっと事件の犯人は……!?」

 「イバラダサーン!」


 茨田はすぐに走った。カメラを置いて、扉の男たちを踏んで、廊下を全速力で。一目散に凶悪犯のいるところへ行った。

 俺も急いでカメラを持って、床でニヤニヤしている扉の男たちを躱して、廊下はちゃんと歩いて、散歩してるお婆ちゃんにはちゃんと挨拶して、美人ナースさんがいればちょっとだけコミュニケーションをして、その一部始終が配信に映って荒れていたのに脅されて、コメント欄を参考に茨田のいるところまで廊下を走った。


 「ガサ入れ探偵!」

 「遅かったわね……てか遅すぎなんだけど!!」


 「ふふふ……」


 蛇の息が摩るような笑い声、そこにはコナン風に黒く塗られた人影が椅子に座っていた。一目でそいつが犯人だってわかった。だって黒いから。


 「私が犯人だよ」

 「やっぱりか!」

 「そうだ! 私がはんに――――」

 「ちょっと待って!」

 「なんだよ? 茨田」

 「こういうのは!」


 茨田が自信満々に指を鳴らすと、謎にBGMが――違う、名探偵がその真相を話すときのBGMだ!――それが流れるとともに、扉の男の二人とババアナース、あと美人ナースも何故か部屋に入ってきた。そして茨田は――――


 「この中に犯人がいるわ!」


 とお決まりのセリフを叫んだ。一同、ここでハッと驚く。ババアは驚きのあまり、また変なダンスを始めた!


 「そ、そうだ。私がはんに――――」

 「ちょっと待って! 今、そういうのじゃないから!」

 「犯人? 俺たちの中にいるっていうのか?」

 「デタラメ言ってんじゃねえ!」

 「根拠を言え!」

 「なんであんたもそっち側なの?」

 「ホントだからだ!」

 

 茨田の呆れた目に興奮を覚えながらも、俺は茨田の推理を窺う。

 茨田は再びスマホを取り出すと、それを見ながら頑張って文章を読んでいった。


 「事件の真相はこうよ! えっと、だいたい一週間前から不正な患者が増えてて、ソレは誰かが茨田紗綾が入院しているのを暴露して、そのせいでファンや恋した人が駆けつけてて、えっと、この漢字なんて読むの?」

 「ごめん、俺も漢字は苦手なんだよ」

 「そういえば追試一緒だったっけ」

 「てか期末の勉強してるのか?」

 「やば! してない!――――ってそうじゃなくて、えっと、この漢字は……」

 「これはワイロって読むんだよ。賄賂、悪いお金ってこと」

 「えー頭いいね、黒い人」

 「ははは、だって私が犯人だからね」

 

 なんか黒い人と仲良くやってて扉の男たちが不満げに黒い人へガンを飛ばしてる。

 な、なんか異様な空気になってきたな、仕方ない、美人ナースと心地よい会話でもしていよ――――


 「ババア、そこどけや!」

 「あ?」

 「ひぃいいいいい!」


 このババア、やると言ったらやる、凄味があるッ!? 

 あと後で手を振って微笑んでくれる美人ナースとは結婚したくて堪らない。


 「よし、他の漢字も教えてもらったから続けるわ!」

 「がんばれ! 茨田ちゃん!」

 「うん、黒い人もありがとね! えっと――――つまりは誰かがお金を貰って、あたし目当ての男たちを患者として不正に入院させてて、お金まで貰ってた! みたい!」

 「その犯人がこの中にいるってことか! ガサ入れ探偵茨田!」

 「ええ、その犯人はね、えっと漢字難しいけど、さっき教えてもらったから……よし、犯人は!!」


 ドン! ドン! とここの部屋にいる人の顔が、なんかそれっぽい演出で配信の画面にされていた。生配信でそんな編集できるのか、あとで教えてもらお。

 茨田は得意気な顔で、指を天高く上げ、その鋭い推理を犯人に――――椅子に座って茨田のうちわで応援していた――――渡司賀 畔人へ、茨田担当の医者の若い男に叩きつけた!!


 「そうだ、私がはんに――――」

 「やっぱりお前がはんに!……あ、どうぞ」

 「あ、はい。そうだ! 私が犯人だ!!」


 衝撃の事実。あれだけガサ入れしたのにコイツの名前なんて全く上がらなかった。まさか渡司賀畔人が犯人だったのか! 全然疑ってもいなかった! なんてこった!


 「畔人ちゃん、なんでこんなことをしたの!」


 ババアナースが涙を浮かべながら渡司賀へ叫んだ。ババアナースも信頼していた人が犯人だなんて思わなかったんだろう。なんてこった!

 渡司賀は推理中もどこか余裕気で、自分で暴露したときも嬉しそうだったが、ババアナースの悲しそうな顔に心が戻ったのか、小さな声で動機を語った。


 「僕は茨田紗綾のファンだった」

 「!?」

 「だから茨田さんが傷だらけで病院に来た時、ものすごく心配したんだ。なんでこんなことにって。それで調べたんだよ、ウィキとか嘘っぽい本とか、人伝いとか探偵雇って。そしたら加害者家族が茨田さんと話してるのを目撃して、わかったんだ」


 俺は思った。恐らく回想がここら辺に浮かんでいるかもしれないが、何かのバグなのか、俺が見えてるそのほとんどが日常的に茨田を扉の前で見てニヤついている変態の画だった。というか仕事サボって怒らてる画まであるのだが。

 で、日常的にそうしてるから、茨田と加害者が話してるところを、また扉の前で見てただけのようだ。


 「いやぁ、この街は治安がいい。よく美人ナースのお尻追ってる僕だからそう思ってたんだけど、茨田さんをああする人がいる。そう思うと、もう外の世界なんて信じれなくて、怖くなって、だから僕が茨田さんを守ろうって無理やり療養期間を伸ばしたんだ」


 白状する犯人の表情はものすごく罪悪感を感じてる――――よりかはなんかちょっとニヤついてるのだが。あ、茨田がすっごい睨んでるからか。


 「最初はそうだった。ホントにそうだったんだ! 茨田さんを助けるため! でも入院してたら茨田さんの動画も配信もなくなって、でも僕は会えるんだけどね」


 ドヤ顔半笑い。なんだその、茨田をひとり占めしてましたみたいな。俺の方がひとり占めしてただろ。次第に患者が集まってもきてたけどさ!


 「やっぱりダメだって良心が痛んだんだ。茨田さんを僕だけが独占するなんて、だから暴露したんだ! ウィキに書いたんだ! 茨田はこの病院にいるって!!」

 「何やってんだお前!」

 「なんであんたが起こるの?」

 「いや、そうしなきゃ、事件が大々的になんなくって、もうちょっとだけ俺も茨田の隣のベッドで……」

 「は? きっも!」

 「ふんぎゃああああああああ!!(枕吸引――――と思ったらババアナースのお腹だった! 吐き気が猛烈! ババアナースのニッコリざまあ見ろって笑顔)」

 「なにやってんの?」


 ああ、俺思うんだ。だいたいこういう探偵ものって犯人が白状してくれるから楽だなって。いやだって、犯人がだんまり決めたら裁判になるまで決まらないし、最悪最高裁まで行ったりってめんどいよな。

 渡司賀は全てを白状し、罪悪感のあまり蹲って涙を流した。完全にお通夜ムードだ。それっぽいBGMも配信で流されてるし、コメント欄も――「誰が犯人とかをウィキ書いた?」――あれ? そういえば。 


 「ワトソン、どうかしたの?」

 「今更ワトソンって、まぁいいや。ウィキに事件の真相書いたのは誰なんだって?」

 「おい、お前犯人だろ! なんか知ってるでしょ!」

 「……」

 「何も答えないな、茨田。こう言ってみてくれ」


 茨田の耳に小声で伝える。

 ちょっとだけ唇があたって殴られたが、俺は一向に構わん。ちょっとだけ鼻血が流れたが、美人ナースさんに治してもらえ――――ババアナースが尖ったティッシュをぶっ刺してきた。痛い! クソ!


 「えっと、犯人なのにそんなのも知らないの? だっさ~」

 「ふふふふふふふふふふ!!! 知ってるさ! 知ってるとも!」

 「う、うわぁ……」


 犯人も茨田ファンだってことだ。渡司賀は茨田の渾身の罵りに、悶絶し、興奮し、鼻血を吹き出した。これこそ助手、ワタソン・オサムの名推理。

 茨田がドン引きするところまで含めて、これは堪らん――あ、鼻血がまた――やめろ! クソババア!! 痛い!


 「ウィキに全ての真相を書いたのも僕だ!! お金を払えば病院に入れてやるって書いたのも僕だ!! どうだ!」

 「なんて凶悪犯なんだ!!」

 「はっはっはっは!」


 渡司賀の狂った笑い声が部屋を包む。しかしそれはすぐに――――サイレンの音で掻き消された。警察がすぐに駆けつけて渡司賀を押さえた。

 渡司賀は謎にテンションが高くなってずっと笑ったまま、警察に連行されていった。そして奴は最後にこう叫び、問いかけた。


 「あのウィキには続きがある! それは私と茨田が結婚するってことだ! ファンはいつだってアンチになる! だから覚えておけ!! はっはっは!!」


 パトカーの中。手錠に繋がられ、夜の街の明りを浴びながら、人間の闇を俺は叩きつけられ――――あれ? 渡司賀が隣りにいる。 あれ、なんでパトカーの中にいるの? 俺? 


 「え、ちょっ!」

 「諦めろ、お前もこっち側だったんだよ。ワトソン君」

 「え? いや、俺は何もやって――――」

 「はっはっはっは!!」


 この世には茨田のような正義の味方、日常を明るくしてくれる存在がある。ただその一方でその存在に焦がれ、闇に染まってしまう者もいる。

 俺はその真実をパトカーに流されながら叩きつけられた――――え?



 留置所。なんとも言えない冷たい空気が、けれどもどこか晴れ渡るような軽やかさまで感じた。きっとそれは心地の良い風だ――――茨田は俺のところへ来て、窓越しに座った。


 「あたしさ、色んなことあったけどこのままやっていこうと思うんだ」

 「そうなのか」

 「うん、確かにいい事ばっかじゃないけど、あたしは自分を必要とする人を信じていたいし、やっぱりそれがあたしだと思うから」

 「茨田らしいな」


 茨田はどこか肩の荷が下りたような、いつもの尖った印象ではない、優しい笑みを見せた。

 俺としてはどこか物足りない。ツンツンしてくれた方が興奮するから。でも――――その表情は本当に綺麗だった。


 「でさ、なんでそんなことしたの?」

 「そんなこと?」

 「うん、なんで警察手帳盗んだ?」

 「いや、流れだから!!!」


 その場の勢いで決め過ぎるのは辞めよう。取り返しのつかないことだってあるのだから。

 俺は若さ故のエンテレケイアを見直した。というか、なんで捕まったのかをまだ理解できなかった。


――あとがき――

茨田紗綾編、これにて完結。最終的に九割が茶番となってしまったが、いづれちゃんと茨田をラブコメヒロインとして描写していきたいと思ってます。

とはいいつつも、なかなかそういう展開に行かない感じになっちゃったけどね。


主人公とイチャイチャする。なんてことできなかったので、キャラの持つ可愛さを中心に最後らへんはやってみました。あとコスプレとか。


あと、重い展開を入れても見たんだけど、もうこれはやらないと思う。そういうのはいらない、この物語には。


ということで次は夏休み編だああああああああああああああああああ! ノシ。

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