第44話 オタクに優しいギャルは実在する!!!(しない)

 「宇宙で光る星ってたくさんあるけど本当はもっと沢山あってなのに宇宙は真っ暗なんだ。不思議だよな」

 「う、うん? そうかもしれないけどさ」

 「なんだよ、苦笑いして」

 「君は誰??」


 宇宙と同じくらい広く、それよりも暗いような黒の空間。浮かぶ白い円盤の足場に平凡そうな男子生徒がぎっしりと。ちゃんとみんな学生服、ってことはここって学校? いや、違うか。

 うん、意味が分からない。だからとりあえず俺は隣りにいたやつと世間話をしていた。


 「俺たちは星の子。名前なんてどうでもいいだろ」

 「ええ……」

 「もぐもぐ、あ、見つけた。おーい!」


 あ、大野だ。人混みをかき分けて、半ば大きな体で男らを弾きながら、こっちに手を振ってやってきた。


 「その人は友達?」

 「いや、星の子」

 「なんだいそれ? 変わってるね」

 「ええ……」

 「それよりも何食べてるんだ、それ?」


 眩く光る大きな煎餅をパリパリと。この変な空間に食べ物なんてあったのか、さすが大野、よく見つけてきたな。


 「理も食べるかい?」

 「それ美味しいのか?」

 「うーん、なんか子供の頃に食べた揚げたティッシュの味かな」

 「じゃあいいや」

 「そうかい、あ、君は食べる?」

 「いいよ、僕は……」

 

 「ちょっと! あたしの話聞いてんの!!」

 

 高いところ、同じ様な丸い足場で茨田がむすっと。張り裂けるほどの怒号が響く。

 ふぅ、ちょっとドキッとした。たぶんこれは一目惚れに違いない。怒ってる茨田の顔がいつもよりも真っ赤だ、周りが暗いせいか? よく光って見える。


 「茨田ー! ここはどこなんだよ?」

 「だから今説明してたんだけど! ちゃんと聞いててよ!」

 「もぐもぐ」

 「あと、そこ! 何勝手に足場食ってんの!」

 「光る煎餅だよ」

 「あそこ欠けてるの、バレてないと思ってんの!」


 あっちの隅の方の形が歪になってる。あそこから取ってきたのか。大野は茨田に睨まれながらもそっぽ向いて足場煎餅を食べ続けた。


 「ま、まぁいいわ。話を戻すわ! いい、あたしがあんたらを集めたのは他でもないわ――――オタクに優しいギャルなんていない、それを証明するためよ!!」


 茨田は”決まった!”と自慢げな表情で俺たちを見下ろしていた。

 なるほど、周りに体育会系の男子生徒がいないのはオタクを集めていたからなのか。でもさすがに茨田の今の発言と、そしてこの異空間に対して、大概は驚きのあまり青ざめているようだ――――あ、逆に鼻息荒くしている洗練されたオタクもちらほらいる。


 「はぁはぁ……どうやって虐めてくれるんだろ」

 「星の子君もそっち系なんだね。意外だったよ」

 「はぁはぁ……」

 「理もだったよ」

 「俺たちは星の子。はぁはぁ――――ハァ!?」


 「み、見え?」

 「!!」


 茨田がスカートを押さえた。俺たちが情に耽っている間に一人のオタクが群れを外れて足場ギリギリ、茨田の真下ギリギリまで行って、四つん這いになって、そのスカートのなかを覗こうとしていた――――あの野郎、許せん!!

 俺たちはアイツを始末しようとすぐに走り出した。


 「裏切者め、ぶっころしてやる!!」

 「茨田のスカートの中は見るものじゃなくて見せてもらうものだろうが!」

 「うわ、どこまで変態なの……」

 「待てお前ら! 上から来るぞ! 気をつけろ!」

 「上から? 上にあるのは茨田の芳しきお姿だけ――――なんだ、あれは!」


 何かが降ってきた。立ってはられないほどの衝撃と共に辺りは砂煙に包まれた。

 それは俺たちの向かう先、ちょうどあの裏切者がほくそ笑んでいたところ――――!?


 「茨田さん、話はもういいよ。簡単なことでしょ? つまりはこの気持ち悪い奴らを皆殺しにすればいいんでしょ?」


 渡里天音。

 裏切者を踏みつけ、地面に抉り込ませてやってきたのは、深淵にて全てを喰らう者だった。

 凍てつき迸る彼女の威圧に空気そのものが怯え、固まったようだ。俺たちはあの化身を目の前に立ち尽くす。


 「もぐもぐ」

 「渡里さん、いいわ、じゃあさっそくやっていこうかしら――――裏体育大会! 開幕!!」


 茨田の気合のこもった大声と共にどこにあるかもわからない鐘の音が鳴り響いた。

 裏体育大会。なんだか意味が分からないが、この悪夢から抜け出すにはどうにかここを切り抜けるしかないのか?――――天音の真っ赤な眼光――――やっぱ怖い!!


 「こ、殺される!」

 「や、やってられるかよ!」

 「早く帰せよ!」

 「何を言うか! 茨田さんの命令だぞ!」

 「そうだ! 今から弄んでくれるんだぞ!」

 「知るかよ!」

 「そうだ、俺たちは茨田さんに憧れてるけど、そんなハードなプレイは無理だ!」

 「なに? その程度憧れているというのか? ふざけるな!」

 「なんだと!!」


 目の前にある死のせいか、仲間割れ? になってしまった――――さすがについていけない。茨田はノリノリでも、俺たちは勝手に閉じこめられて、しかもデスゲームをさせられる。不満があるのは当たり前だ。


 「おい、お前らそれでも本当に茨田が好きなのか?」

 「星の子、なんだよ? 知った口して黙ってろよ!」

 「そうだ、煮干しにするぞ!」

 「違うよ。お前たちは忘れているんだよ。確かに茨田さんは鬼畜だけど、悪い人間にとことん厳しいということを」

 「なんだよ、じゃあ俺たちが悪人だっていうのか?」

 「違うって、茨田さんはそれでいて真の通ったギャル。自分にも同じ事」

 「だからなんだってんだよ! ハッキリしないな! おい、鍋持ってこい!」


 勇気を出した星の子だったが、コミュ障が炸裂して鍋に突っ込まれた。

 ああやって無残に出しを取られてまで、何が言いたかったのか。俺にもさっぱり――――いや、そういうことか!


 「待て! わかったぞ!」

 「なんだ? お前も煮られたいのか?」

 「そうじゃない。思い出せ、茨田の今までの行動を!」

 「……お前も煮られたいのか?」

 「だからそうじゃない! 俺は知っている、茨田がこんな不条理なことをするはずがない。したとしてもそこにはリターンがあるはずだ!」

 「リターン?」

 「ああ、そうだ! だから裏体育大会、その生き残った者は――――茨田に何でもしてもらうことができるはずだ!」

 「!!!」


 電撃が走った。鍋に袋麺を入れていたみんなが、俺の言葉にハッとしたのだろう。それならあり得るかもしれないと。


 「何言ってんの、そんなわけないじゃ――――」

 「そうに違いない!」

 「茨田さんは鬼畜でも悪党じゃない、きっとそうだ!」

 「そうだ、茨田さんはそういう人だ!」


――――オタクの集団は盛り上がる。茨田のギョッとした顔を全く見ずに、スープを鍋に入れてさらに煮乍ら騒いでいる。


 「しゃ! お前ら頑張るぞ!」

 「おー!!」

 「まずは飯だー!」

 「おー!!」

 「な、なんでこいつ等、あたしを忘れてご飯食べてんの?」

 

 みんな座って一息。

 ああ、ドン引きする茨田を見上げながら食べるラーメンもうまいな。大野から貰った卵入れて、チキンラーメンにちょっと近づいた。ふぅ――――!? 


 「大野、今、なんか白いのが飛んでこなかった?」

 「そう? 気のせいだと思うよ」

 「そ、そうだよな――――!!」

 

 気のせいなんかじゃない。耳のすぐ隣を掠めていった白い何かを俺はハッキリと見た。いや、俺だけじゃない、皆がその弾道を辿って映ったのは――――


 「血のスパイスを忘れてるよ?」

 

 天音だ。握り潰れるほど怒りのこもった野球ボール、天音はそれを天高く掲げ、俺たちに狙いを定めていた。まさしくそれは小鳥を捉えた鷹のようだった。



―――あとがき―――

見栄を張るのをやめて思うがままにやりました。普通に内容が難しい感じで表現も難しいところがあるのだよ。しかしノリと勢いで頑張るのだよ。

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