第43話 そして、お見舞い

――――病室の窓に雨上がりの夕暮れ、湿った風が耳によくぶつかる。何度も何度もあの子の両親が頭を下げているのはきっと、あたしのせいだろう。こっちを見てはまた謝られる――――あたし、今、どんな顔をしてる?

 

 本気で考えられないから、すぐ隣に反射している窓の像に自分を確認することはできなかった――――



 とりあえずここは病室のはずだ。そして俺の病状は良くなっていたはずだ。なのにどうしてだ、どうしてこんなに疲れる?


 「ほら、次だよ! 日が暮れちゃうよ!」


 学校の制服姿、変わらず元気な天音はSwitch握りしめてベッドのすぐ隣に椅子を置いては、俺に急かす――――早く、FPSを教えろと。


 「日、暮れないかなー。早く」

 「それ……どういう意味?」

 「よ、よし、腕が鳴るなー!」


 天音の殺人じみた眼光に俺は逆らえない。身体がすっかり怯えてやがります。ここは病院のはずなのに心臓握られるようで、どうやらベッドと棺は直結しているようだ。

 

 「おー今日もやってるんだね。もぐもぐ」

 「大野、た、たすけてくれー」

 「まぁ、マクドの期間限定バーガーでも食べて頑張りなよ」

 「マックな」


 両手に紙袋抱える大野もやってきて、無理やり俺の口にブツを突っ込んで黙らされた。ジューシーな肉厚ビーフと、ごろっとしたポテトの食感が楽しめるフィリングがやみつきになる、食べ応え抜群の一品じゃないか。


 「シンプル過ぎる病院食ばっかりで飽きてたからある意味助かった、さすが大野。でも突然口に――――ごっぼぼ!!」

 「そうかい、じゃあこっちも行っとくかい?」

 「ごっは! ごっは! だから口に突っ込むな!」

 「いやだって、手とか骨折してるんじゃないのかい?」

 「金ちゃん、理君の怪我は先週くらいでほとんど治ってるよ」

 「なんだ、意外と早かったんだね」

 「一時は死にかけたんだけどな……」


 熟女の即死パンチィが直撃して、あの後、刀持ったデカい人が豆くれなきゃホントに死んでた。 


 「茨田さんの方も元気みたいだね。ハンバーガー食べる?」

 「……」


 元気ハツラツな大野に俺と同じハンバーガー三連発を恐れたのか、茨田はすぐにそっぽを向いた。しかしそれでは――――


 「そんなこと言わずに卵もビーフもあるよ? あ、チキンは無いよ。食べたから」

 「いらない」

 「そんなこと言わずに」


 ジリジリと攻寄る大野。茨田は逃げ場なく、窓際のベッド。そんなに食わせたいのか。


 「エッグorチキン? チキンじゃなかった、ビーフだ」

 「いや、いらないって」

 「エッグorチキン? チキンじゃないよ!!」

 「え、大野君!?」


 あ、大野が窓から飛び降りた。丁寧に紙袋は茨田に預けて。うん、何やってんだアイツ?


 「あー! またバグ! なんでいつもこうなるの!!」


 バキバキ、バキバキ。天音の不満がその握力に。Switchが悲鳴を上げてる。


 「天音、またやったのかよ。貸してくれ」

 「なんか異空間に行っちゃったんだけど……」


 異空間っていうか。真っ白な、なんか見ちゃいけないエリアに行っちゃってるんだが。歯茎と帽子のコメディアンみたいのが出てきて必死に掴みかかってきてるんだが。まぁ、とりあえず発砲しとくか。


 「なんか毎日バグってる気がするんだけど、大丈夫なの? そのゲーム?」

 「茨田さんもそう思いますか? 私も変だと思ってたんですよ」

 「運営から見たらお前が変なんだけどな」

 「ええ?」


 純情な少女みたいにちょっと惚けてるところ、ほんとうに純粋に気付いていないところが怖い。あと、このバグ治らないから運営に電話か。


 「茨田ー! 林檎持ってきたポヨー!!」

 

 廊下を走って、現れたのは陽キャか。今日も懲りずにやってきたのか、相変わらずのアホみたいにうるさい。騒がないと死ぬ生き物なのか?


 「何見てるポヨ? この複雑骨折野郎?」

 「それ悪口なのか?」

 「そんなことよりも、茨田、林檎ポヨ! 林檎ポ――――!?」

 

 陽キャが真っ赤で新鮮な林檎を差し出そうとした瞬間、茨田はおもむろにハンバーガーに齧り付いた。


 「どうしたの?」

 

 小馬鹿に、見下すような視線を陽キャにぶつけながら茨田はハンバーガーを勢いよく食べる。

 せっかく林檎持ってきてくれたのに関係なく突きつける――――帰ってくれない?――――わざわざ食べる気もなかったハンバーガーを食べてまで。

 悪魔なのか、いや、にしてはちょっと艶めかしすぎてもいる。だから――――


 「茨田、茨田!!! うおおおおおおおおお!」

 「……はぁ、意味なかったわ」

 

 むしろ陽キャのテンションはより上がっていた。わかる、俺もわかるぞ、ああやって木端微塵にやられるのが堪らないんだよな。

 茨田は呆れて溜息をついているが、そんなところも堪らず――――


 「茨田!」

 「茨田!!」

 「うおおおおおおおおおおおおおお!」


 「なんなの、これ?」

 「あー! SwitchなのにPSの画面になった! またバグった!!」

 

 吠え叫ぶ男二人と困惑する茨田と混沌とする天音。たが俺たちは叫ぶのをやめない!!


 「うおおおおおおおおおおおおおお!」

 「うるさいポヨ」

 「止めるのかよ」

 「理君ー! またバグったんだけどー!」

 「え? なんでSwitchでこのゲームできるの? ゑ?」


 「おーい! またローソンで増量やってたから買って来たよ! ほら!」

 「ごば!?」


 いつの間にか現れた大野にまた口を塞がれた。ポテトの櫛みたいなのが、また美味しいけど、今はそれどころじゃない。このバグ、ちょっと悪用したい!!


 「金ちゃん、窓から飛び降りたのに大丈夫だったの?」

 「そんなこともあろうと例の豆を沢山もらっておいたから」

 「例の豆?――――」

 「おい、大野、お前か? お前がハンバーガー持ってきたのかポヨ?」

 「そうだよ」

 「そうか、お前も茨田を。いいだろう、だったら俺は――――ボヨ!!?」

 「チキンでも食べて落ち着きなよ」


 なんか大野、とりあえず口が空いてたら食べ物を突っ込む習慣ができてないか。しばらく会わない間に一体どんな修行をしてたんだ。


 「なんじゃ? 今日は人が多いのう?」

 「あ、おじいさん。チキンあげるよ」

 「ごぼっ!?」


 あ、なんかソニーから通知来たんだけど。Switchなのにソニーから通知で忠告された。いや、物理だけじゃなくネットワークとかまで破壊する天音怖すぎだろ。


 「てかまたバグったの? 渡里さん、超能力者なの?」

 「そ、そんなことないですよ。ふふん!!」

 「褒めてない」

 

 自慢げにする天音に俺と茨田は反射的に言った。てか茨田がいつの間にか、ベッドに腰掛けて近くまできて、Switchを覗いてきてる。すぐ隣に顔がある、ありすぎて――――肩がぶつかって、ええ?


 「茨田さん! ちょっと近くないですか!」

 「だって、画面見たいし~?」

 「画面だったらこっちにもありますよ!」

 「いや、それ理のやつじゃん。見たいのはこの画面だから」


 茨田は俺によさりかかりそうなくらい接近して、なんかニヤつきながらも自慢げ?に、天音を見つめている。

 対して天音はなんか、顔を真っ赤にして頬を膨らまして、あれは怒ってるのか? ただ殺気はない――――なら大丈夫、いっか!! 俺はイチャイチャするぞ!


 「林檎ボンバー!!!」

 「ぐっは!?」

 「茨田とイチャイチャする奴、許すまじポヨ」


 みぞおち、固い林檎、痛すぎる。容赦なく陽キャが林檎投げつけてきやがった。砕け散った林檎が俺と茨田を突き放した。


 「陽キャぁ?」

 「かかってこいポヨ、陰――――ギャアアアアアアアアアアアアア!! 目がああああああああああ!!」

 「林檎の破片が目に入って痛かったです」


 天音の目潰しが炸裂。陽キャの爛れた刻印が採取できる場所はここです。あながち死にゲーなのは街がちゃいないか。

 てかいつの間にか画面にapplestoreが現れてる。なんかもう治せる気がしないぞ。


 「はいはいー! みなさん、お静かにー!」

 

 美人ナースさんの美声にやっと部屋は静かになった。大概うるさかったのは、今、無くなった目でできた穴を口と間違われて、大野にチキンを入れられてる陽キャだったろう。


 「茨田さん! 最近、ずっと隣りにいるからってあんまり理君で遊ばないで!」

 「なに? どうしたの? 渡里さんが何か困るわけ?」

 「別にそうじゃないですけど……遊ばないでほしい」


 余裕ありげに天音に出る茨田と、どこか自信なさげな天音。けれども引き下がる気はないようだ、茨田の強気な視線から天音は目を逸らさない。

 

 「そこまで心配なの? 理のことそんなに信じられないの?」

 「違う、理君は――――」


 「美人ナースさん! 連絡先くださーい!!」

 「ああいう人だから……」

 「なんかもう、呆れたわ」


 「俺も連絡先欲しいポヨー!!」

 「お前もかよ!」


 理は天音よりも茨田、茨田よりも美人ナース。そんな人間だったろうか。天音と茨田は馬鹿馬鹿しい理の姿に呆れ果て、言い争うのをやめた――――だが、その夜中。


 「ねぇ、真夜中に布団で二人きり。どう、どんな気持ち? 理?」

 

 無防備にそして誘惑的に。その布団の中で理にもたれかかる茨田は、普段の棘ある感じではなく、一人の純粋な少女のまま頬を赤らめていた。

 理はその光景に、すぐそこにある茨田の魅惑に――――驚きすぎて、夢だと思って目を閉じた――――けど、やっぱり本当なのか? 目を開けた――――また目を閉じた――――繰り返すこと10回あまり――――理は真っ暗な空間にポツリと一人、立っていた。


 「……え?」


 パタン、灯りがつく。そしてわかる。映し出された光景は――――暗い空間、数十の男子高校生が周りに、それを高い玉座の上で見下ろす茨田紗綾の姿だった。


 「裏体育大会、始めるわ」



―――あとがき―――

いや、ここら辺はもう好き勝手やるので。まともな人間なら意味不明だとわかるくらいに好き勝手やります。

真面目にやりすぎると更新するのが難しくなるとわかった。そもそももともとぶっ飛んでるんだよ。

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