第42話 美人ナースのぱんてぃが見たい
―――まえがき―――
今回、おバカ回です。ラブコメ要素皆無です。
――――
ザザザザザ、降る雨の線は針のよう、凄まじい雨が病室の窓の外――――もう梅雨だもんな、ジメジメする部屋の居心地の悪さも仕方ない。けどさぁ――――
「だから炊飯器は持たないって言ってるでしょ! パン派なの!」
「でもねぇ~そろそろショートのストックも切れるし~今バズってる炊飯器だったら~アタシがやってもバレないわョ~?」
「それ、結局お兄ちゃんがネカマしたいだけでしょ! あたしのリスナーで遊ばないでよ!」
「あら? バレちゃった? そんなに怒って~アタシったら炊飯器のボタンだけじゃなくて、紗綾の逆鱗も触っちゃったかしら?」
「は? もう撮り終えてるってこと?」
スマホを取って、浮かんで見えた6月12日。だいたい2週間くらいか、入院して。いやぁ、茨田も元気になったもんだと関心する、うん、折れた足があの怒鳴り声でまた折れそうになるくらいに、元気になったなぁ。
「残念、撮り終えてないわ。編集済みよ(ハート)」
「クソ兄貴!! 今からぶっ殺しに行ってやる! 待ってろ!」
「フフフ、望むところよ。病院送りにしてやるわ」
「!!」
「ちょっとー! 茨田さん! どこに行くんですかー! 外、雨ですよ!」
茨田が出ていった。ナースさんが追って止めに行ってる。今日も病院は忙しないもんだ。ああ、今日も寝坊できなかった。雷雨みたいな隣りの言い争いで、もう目の下は雨雲色だ。
ここ数日だいたいそんな感じで、茨田は兄でありオネエでありマネージャであるオネエと喧嘩している。やっとこっちは怪我が治ってきたのに、こんなのが毎日続いたら、精神のほうをやられそうだ
「が、しかし、俺はまたバニーに癒されるのであった。苦難も空腹と同じ最大の調味料、金髪巨乳を朝から――――」
「はぁ……みっともない」
「あ?」
気分転換にSwitchを取り出した束の間、老害の溜息がじめっと左から。呆れ、首を振り、偉そうにしてクソジジイは俺へ軽蔑の視線を向ける。
「これだから最近の若造は。ゲームばかりしよって、それだから日本を廃れたのじゃ。あーみっともないのぉ」
「は? なんだよ」
「聞こえんかぁ~? 若年認知症かぁ~?」
このジジイは。事あるごとに俺に野次を飛ばしてきて、なんなんだ。てか認知症なのはあんただろ、みっともないのも。
俺は構わず画面のバニーに顔を向けた。ああ、癒されるわ、借金しーちゃお。
「あー今日も会いに来たよー、マイハニ~」
「画面の中の女に欲情しよって、気色悪いのぅ」
「えーかっこいい? そうかなぁ? 僕もギャルちゃんのこと可愛いと思うよ~」
「その女は元々おっさんの頭の中にいた幻想じゃ、もはやおっさんに可愛いと言ってるものじゃなぁ」
「あーイデアイデアーギャルピース最高! あ、パ、パンツが!!」
「あ、ナースさん!――――」
「なに!! あれ?」
「嘘じゃ、はっはっは!」
……暇かよ、このクソジジイ。俺は自慢げにしているジジイに蔑んだ視線を送った、けどまだ自慢げだった。なんだコイツ、茨田がいないからか、余計にうるさい。
「なんだよ、別にゲームしたっていいだろ」
「いや、ダメじゃな。ゲームは損ばかりする、目も頭も悪くなるし、社会の何の役にも立たん――――ゲームは先の時代の敗北者じゃけぇ」
「とりけせよ、今の言葉!」
「損しかないわい!!」
「何もせずに寝てるだけよりは得だろ!!」
「なんじゃと!!!」
喧嘩、この前と同じように淡を吐きかけ合う――――のは医者の薬のせいで出来なくなったので、単純にゴミ投げつける。
ペットボトル、丸めたティッシュ、教科書、入れ歯、花瓶、札束、スマホ、金塊、鉛筆――――てか、なんで財力見せつけてくるんだよ、鬱陶しい!
「ちょっ、ちょっと、何してるんですか二人とも! ダメですよ、喧嘩しちゃ」
「ナースさん! 止めないでください! コイツは生かしちゃ置けない!」
「生かしちゃ置けないのは、このヘタレの方じゃ、のうナースちゃん!」
「誰がヘタレだって? こっちはチャンネル登録者数、、ごにょにょにょの、なんだよ! そうでしょ、美人ナースさん!」
「日本語も話せないとは最近の若者は馬鹿バッタじゃわい! 麗しきナースちゃん!」
「噛んでんじゃねえか、入れ歯野郎! 付き合ってくださいナースさん!」
「全部金歯の最高級入れ歯じゃわい!! 愛人になってくださいナースちゃん!」
「この老いぼれがああああああああああああああああ!!」
「なんじゃ敬えやああああああああああああああああ!!」
「先生、鎮静剤を!」
「……ああ、なんていい天気だ」
「……豪雨じゃよ、手術してきたほうがいいんじゃないか?」
「……なにを? 雷が煌めいて美しいですよ、お爺さん?」
「……ははは、気色悪い趣味じゃのぉ、若造は」
鎮静剤は嫌だ、鎮静剤は嫌だ。俺は奇しくも老いぼれと仲良く肩を組んだふりをして、美人ナースさんに喧嘩してないよってアピールした、喧嘩するほど仲がいい的な、窓から突き落したいほど仲がいい的な。
「いいですか、まだ二人とも怪我治ってないんですから、落ち着いてくださいね」
「ナースちゃん! それよりもご飯はまだかのぅ!」
「朝食ならもう食べましたよ?」
「昼食の方じゃよー」
なんかもういいや、疲れた。俺は再びゲームを開いた。バニーちゃんが可愛げにゆらゆらして上目遣いしてくるが、もうなんか俺は賢者モードで、ゲーム閉じてFPSを開いた。
「シュラハトはあんまり好きじゃないけど、これしかないし、やるか」
「ふ、またゲームか」
隣りからまた野次が、さすがに無視した。まだ美人ナースさんが部屋にいるのに喧嘩したら、今度こそ鎮静剤撃たれる。今、俺はそれよりも敵に銃弾を撃ちたい、それがこのジジイなら最高だけど。
野良の人たちとチーム組んでバトロワ、ほとんど最後は一人になって9位で敗北か。まぁまぁ頑張ったけど、複数戦しかないのキツイな――――ちょうど美人ナースさんが部屋を出て、一試合終わった。
「やはりゲームは確かに損をさせたな」
「別に美人ナースと話す機会なんていくらでもあるんだよ、俺には」
「なんじゃそれ、若いからか、それとも虚弱かぁ?」
「とんでもない、とんでもない……からだ」
ああ、フラッシュバックが、ああ、体育倉庫、蹴り、壁の穴――――タイイクタイカイコワイ。アマネコワイ。
「ふん、まぁいい。にしても損したな、ゲームしてなかったら、ああ、先までだってそうじゃったぞ」
「は? 今?」
「そのゲームでパンツを見て喜んでたじゃろ? でもその間にできることがあったはずじゃ」
「なんだよそれ?」
さっきからゲームのこと見下してるが、あくまでそれは長期的に勉学とかなんとかって話じゃなかったのか。そんな瞬間的な、たった今に何か損なんかするわけがない。実感なんてないし。まさかただの煽りなのか?
俺は疑念を浮かべ、ニヤニヤする、いや、どこか腹黒いようにも見えるジジイの面に、疑いがさらに深まった。
「のぅ、若造。お主は見失っておる――――ゲームよりも現実のぱんてぃ、見たくはないのか?」
「!? ま、まさか!!」
「ゲームの画面じゃなく、ちょっと横を見ていれば三度、三度もあったのにのぉ……」
ごくり――――息を呑んで先を想い返す。そう、隣りで美人ナースはクソジジイに色々と構っていた。何を話していたかは覚えてないが、それどころかすぐ横に美人ナースが立ってたりしたのもあったかなかったか忘れたくらいにFPSに集中していた――――待て、まさか三回もこっちに屈んでいたのか? ってことはそこから美人ナースの!!?
「若造、現実のぱんてぃ、見たいか?」
「いや、でもそれは犯罪だ!」
「犯罪とはその苦痛とは相手方にバレたときに起こるものじゃ。つまり、バレなきゃ何もなかったのと同じ、あっちにとってはのぉ」
「ジ、ジジイ!!」
これが人生を八十年近く生き抜いてきた老人のメンタリティ。なんてことだ、もはや常識や善良なんてあったもんじゃない。でも、それでも、生き抜いてこれている。そうか、そうなのか?
「聞こう、ぱんてぃ、見たいか?」
「み、み、み――――」
「見たいよなぁ?!」
「み、たい」
「おぉぉん??」
「ぱんてぃが見たい!」
「見たいか?!」
「見たい!!!」
「見たいか!!!」
「見たいに決まってんだろおおおおおおおおおおお!!!」
今まで生きてきた中で一番の叫びを俺は上げた。そうだ、俺は、美人ナースのぱんてぃが見たいんだ。だれだってそうなんだ!! もう迷わない!
「若造、これを持て」
「デジタルカメラ?」
「あとはわかるじゃろ?」
「や、やるんだな!? 今、ここで!」
「ああ、ぱんてぃのためだ、ここで決めるんじゃ!!」
俺は最新型の高級デジタルカメラを貰うと、クソジジイと手を組んだ。全ては美人ナースのぱんてぃと男の夢のため。そうだ、俺たちが忘れた夢、ここにはそれがあるんだ!!
――――ピン、ポーン
「あら? どうかされましたか?」
「いや、ごっほ! ごっほ! ちょっと咳が出てしまってな」
美人ナースさんがいつもと変わらず微笑んで入ってきた。ジジイに近づき、まるで天使のような純粋、そして大人たる誠実な対応をしていく。
ジジイの方は必死に咳き込んで病だと偽っている。ここ外科なのに、本当にボケているのか――――ニヤリ。ジジイがこちらに合図を送った。同時に美人ナースさんがジジイの横に、俺とジジイのベッドの間に入ってきた。
「パンツ!」
「どうかされましたか?」
「なんでもないです」
「……鎮静剤打ちます?」
「ゲームデアツクナッタダケデス」
作戦がうまく行って興奮してしまった。Switchしてるフリして誤魔化しきれ、きれ、きれてるようだ。美人ナースの心配の眼差しはジジイのほうへ向き返った。
「ナースちゃん、ひょっとしたらこれは恋の病かもしれないですなぁ」
「あはは……元気なんですね」
「ナースちゃんのおかげですじゃよ、愛人募集中じゃよ」
苦笑いするナースにウィンクでアピールするクソジジイがカメラの四角に入っている。画質がいいから気持ち悪い瞼の皴まで良く見えてこっちはホントに病気になりそうだ。
だから縁の外に要らないものは捨てて、いいところばかりにズームしていく。どっかの偉い人が言っていた――――”美人ナースのぱんてぃこそが万能薬”だと。
「でももうちょっと屈んでくれないと見えない!」
「どうかされましたか?」
「パンツ!!」
俺は叫びながら天井を激写した。とても綺麗な真っ白な天井でした。美人ナースさんの注射器が視界の端に見えるけど、カメラをズームすれば、あら不思議、注射器が近づいてきた。
「はぁぁあ?? は! ごっほ、ごっほ!!」
「だいじょうぶですか?」
とても汚らわしく頭光らせるジジイの俺への反吐がやっと咳に変わった。てかあんな大声でハッキリ言ったんだからすぐわかるだろ。もうちょっとで麻酔送りだったぞ。
「ごっほ、ごっほ! ごほごほ! ごごごごほっほっほ!」
ジジイはさらに咳き込んで演じる。曲がった腰をさらに曲げて、自分の頭をベッドにつくかつかないくらいにまで、腰が折れる寸前まで演じている。もはやほんとうに危険じゃないのかってくらいに。
いや、だからこそか。だからこそ、美人ナースさんもさらに屈んでいる――――もうちょっとで夢の秘宝が見える! 見えそうだ!!
「ジジイ!!」
「ごっほっごっごっほほほっごっほお!!」
「お、おじいさん!!」
外の雨が強くなって、それに従うようにジジイの咳も熱が入っていく。
「ごっほっほほっごっほほほ!!」
「もうちょっとだジジイ!! あと少し!」
「ごっほごっほっほっほ!! ごっほっほ!!」
見え、見え、フレームに色が瞬きしている。チラチラともうちょっと、あとちょっと!
「ジジイ!! 頑張れ!!」
「ごっほっごがっほごほほほっごっほっほ!!」
「血が、先生! おじいさんが吐血してます!!」
「ゴッホっほほっほホッホッホいっほっほい!!」
もはや咳でナースを屈ませるそれは、強い呪い、その咳は何かの呪文だった!!
降りしきる雨はさらに強く、曇空はさらに黒く激しく!!
「ジジイ!!」
「ごぼはああああああああああああああああああああああ!!!」
行ける! 行けるぞ! 染まる、フレームが染まる。その色に――――――――そのシャッターは雷の光悦のようだった。雷神ですらもその財宝を欲しがっていたようだ。
神も欲しがる物が美人ナースのぱんてぃならばきっとこれは合法でしょう。光在る間に俺はそう察し、なんの罪悪感もないままに、過ぎ去り映る一枚を待った……
「…………ジジイ」
「ごばっ!! やったんじゃろ?」
「ジジイ!!」
「ついにやったんじゃろ!」
「ジジイ!!!」
「おおぉう!!?」
「はいはい~お爺さん、吐血は大丈夫かしらぁ~?」
――――夢と夢の間には今日も熟れ果てた女医が立つ。カメラに映ったのはそう、真っ赤なソレだった。きっとそれは画面が真っ赤なだけだと信じたい。
「ごばぁっ!!」
「あら~理ちゃんも吐血してますわねぇ~」
因果応報ならばまだよかったでしょう。その隙間に突然現れる熟女の広告のようなものが無ければ――――理、失血死。
―――あとがき―――
想像したらわかるので直接書かなかったけれど、想像した人が熟女フェチじゃなければ即死の一枚でしょう。
にしてもいいかげんラブコメしたいので話を進めたい。夏休み編とかやりたい。でもその前に奇妙な話も入れたい。ハイ、問題作。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます