ギャルと体育大会編

第21話 ラブコメがついに始まった

ギラギラの太陽に蝉がギンギンと鳴き喚き、子供たちの無邪気な声が突き出る。


――――ああ、もう夏が来たのか。


いつもと同じように窓の向こうを見透し、雲一つない濃青の空に想いを馳せる。

クーラーの風がその視線の前を過ぎて行っているのに、外の暑さは身に浸みついているようで、身体が風景に汗を掻こうとする。

「おい、ぼーっとすんなよ」

隣の席からの棘のある声に俺の思考は刺され、真面目にさせた。

あんまり黄昏ていても話が進まないことに気づいた。


「えー、今から丁度100年前に日英同盟が――」


教室の静かで軽やかな涼しい空気の中で、教師の声だけが流されていく。

なお、教師は恐らくカツラだ。別にこれは触れなくてもよかったか。

時計の針は11時。もうすぐ昼休みだ――といいたいところだが、もう一度周りを見てみよう。この教室には数人しかいない。

さて、この雰囲気はもう想像できただろう。でも最後に一つ、今日は土曜日。外にはバットを振って汗を流す、野球部がいる。


――――そうだ。京都に行……ここは補修部屋だ。


ふざけたくなってしまうほどにここは補修部屋だ。中間試験の補修だ。最近の真面目なラブコメ主人公なら絶対に訪れることのないだろう、土曜日昼の補修部屋だ。

もしも彼らラブコメ主人公もこういうところに来てしまっているのなら、俺も彼らみたいに勉強ができるかもしれない、だがそれでもここは――――補修部屋だ。

「はぁ……」

前までの話を読んでくれた人ならわかるはずだ、俺に赤点などなかったと。

なのになぜか俺はここにいる。禿の話を聞かされている。まるで念仏だ。

どうしてこうなったんだ。

そう思い、思い出して三回目。

「ああ、理は赤点じゃないけど補修だ、兀山先生のとこ。授業態度が悪かったから来いってさ、頑張れよ~」

――そうはならないだろ。そうは。

でも現実は無情だ。なんだかんだ逆らえずに、来てしまった。

天音と勉強してやっと、勉強なんてしなくてもいいと思ったのにこれだ。

「……」

だがここで朗報だ。

俺が赤点でもないのに補修を受けているという事実、こうは解釈できないだろうか。


――――天音なんて最初からいなかったと。


そもそも考え直せ、人を平気で50m飛ばし、跳躍も10m、主人公と出会って二か月以内に結婚フラグを作り出す。

そんな狂人がラブコメのメインヒロインなわけがない――ん? 今誰かこの作品は元々ラブコメじゃないって言ったか?

でもそれはここまでの話だ。今、俺は神から愛されている。

――俺は再び、隣の席を覗いた。


「……さっきから何してんの?」


茨田紗綾。

金髪ロング、心を突き刺すつり目、スレンダー、美脚、学内可愛いランキング二位。一言で言えばギャル。

その茨田が俺の隣にいる。なんか半分以上苦笑いだが。

補修なんて散々だと鉛筆折って時間つぶそうとしたし、それほどに教卓にいる禿も恨んでいるけど、今じゃマジで仏に見えてきた。

「あとで賽銭投げてやろっと」

「賽銭は神社だろ。なんだよ、ずっと一人で――キモイんだけど」

キモイ、頂きました。

相変わらずの厳しい目つきと鋭利な声から放たれるギャルの一言。

そうだ、俺はラブコメの主人公だ。これでこそ、ラブコメだ。


「はぁ、意味わかんないわ……」


茨田は喜んでいる俺に蔑みの視線を浴びせた。

部活帰りのシャワーよりも気持ちいい、追撃の視線だ。

おいおい、ここは天国か?

「マジでキモイ、これだから男は。サルは」

「ウッキッキー!」

「はぁ……?」

もはや心が躍りすぎて、ロサンゼルスから飛ばされるホームランボール丁度四回目が頭に直撃したが、まったく気にならない。

ああ、やっぱり補修って最高だぜ。


「――ということで、猪木がモハメド・アリと戦うことになったのだ」


あれ、もうこんな時間か。

補修終っちゃった。

もっと茨田に罵られたかったのに。

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