第20話 没.1

「これで16kill!」

「ヤバ!?」

「今日のsima調子良すぎだろ!」

コメント欄が盛り上がってきた。

でもまだそんなもんじゃないぞ。俺の実力は。

「ダブルキル!」

「まじかよ!」

四人チームのバトルロワイヤルFPS。

残っているチームの数は3つ。俺のチームを抜けば2つ。

エリアも狭まってきて大体どこらへんにいるか予測できる。

「おい!」

「奇襲だ!」

「一人やられたぞ」

予想が外れた。隠れずに一気に攻めてくるとは。

しかしそんな適当な作戦が通用しない。このsimaの前では。

ヘッドショットで一人、手榴弾を投げて一人、そこから出てきたのをスナイプ。

「トリプルキルだ!」

「でも仲間は一人だけだ」

「しかも相手チームは四人全員残ってるぞ」

あっちのほうに見えているやつら。確かに四人。

さすがに不利だ。ここは作戦を立てたいが、生憎こっちは野良。もう一人の仲間とは他人同士で連絡も取れない。

しかし俺のプレイスキルがわかって、ついて来てはくれる。

「さすが俺」

「調子乗るな!」

「そういうところが嫌い!」

なんかアンチが騒いでいるので、あとで処理しておこう。

いや、アンチも虜にしてやろうか。

今の俺なら四人くらいイージーだと見せつけてやる。

「うわ、特攻かよ!」

「馬鹿じゃないのか?」

安全地帯で固まっている敵四人。奴らも俺たちには気づいている。

だから奴らは何の障害物も無いところをただ突っ走る俺に銃口を向けだした。

「やっぱり最近のsimaはダメだな」

そう思っただろ。

それでいい。これはハードな作戦だ、正攻法じゃない。

俺が今倒そうとしているのは奴ら四人だけではなく、お前らアンチもだ。

魅せてやろう、この巧みなゲームセンスを。simaの復活を。

「なんだあの動きは!」

「ほとんど銃弾を避けてる」

「相手は四人だぞ!」

見たことのない走り方だろう。これなら銃弾はほぼ当たらない。

俺も上手く説明できないが―フレームでどうたらこうたらして躱す―いわゆる半分バグ技だからな。

やっぱりこのゲームでも、あのバグは使えた。

「おい、敵一人キルされたぞ!」

「マジかよ!?」

「またもう一人!」

「味方のキルだ!」

俺はあくまで囮。

敵が俺を狙って出した頭をもう一人の味方が狙う。

やはり味方も作戦の意図がわかっていたみたいだ。さすがだぜ、そのスナイプ力。

「あと二人!」

障害物に隠れてしまったな。

でもそれは追い詰められてるからだ。

ならもう勝てる。

「手榴弾!」

「敵が出てきた!」

左右に一人ずつ障害物から飛び出し同時に俺へ狙いを澄ます。この一瞬、俺は左の敵へ照準を合わせる。

「!」

轟く銃声―それはたった一つだけ、敵の頭を貫いた。

奴らが攻撃する前に俺は攻撃している。

その後に爆音が右から広がる。

「まじか」

なぜ右からの銃弾が来なかったか。手榴弾はその位置を譲らなかったからだ。

奴はもう一つの手榴弾を避けるのに時間を使った。ここに間が生まれる。

そうなれば俺はもう一人に銃口を向けるだけの時間はある。一騎打ちだ。

「いや、いらないか」

その間を裂く一つの鋭い弾丸。それは敵のものではない―仲間の弾丸はすかさず、俺を狙うその喉を射抜いた。

「おおおおおおおおおおおおおおおおおお!」

ファンファーレとともに派手な文字「You Win!」が画面の中央。

俺たちはチームを優勝させた。

「おめでとう!」

「さすがsima」

「久々の優勝!」

・・・

などコメント欄が歓声に包まれる。

ようやく戻ってこれた。この瞬間に。

「やっぱり上手すぎ」

こんなもんじゃないぞ。まだまだカッコいいプレイを見せてやるよ。

俺はコントローラーを握りしめた。

「!?」

軋む音があっちから。嘘だろ。

「またゲームやってるの? 勉強の時間よ~」

なんか入ってきた。義母がなんか入ってきた。

しかもなんだその恰好は。この前の家庭教師の服じゃないか。

「どうした?」

「親フラ?」

「彼女?」

やばいやばい。

俺はパニックになって配信を切った。というかパソコンの電源を消した。

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