第17話 ゲームが下手だから笑わせた
「カーカー」
夕暮れの空にカラスが鳴いている。
俺も一緒に泣きたい。
「ああ、ちょっ!……またやっちゃった」
またしてもゲームキャラ、スティーブを時空のはざまに落下させた天音。
どうしたら何回もバグらせられるんだよ。
「じーっ」
「はぁ……はいはい」
ようやっと試験が終わった。ゲームの腕を磨く時間が増えた。
なのにまた天音が家にやってこられちゃ堪ったもんじゃない。
さっきまでは試験終了楽観現象で気にはならなかったが、こうやって改めて天音のゲームを教えるとなると辛すぎる。無駄過ぎる。
この時間を俺のゲームの鍛錬に使いたいのに。
「どうしたもんかな……」
「直らない?」
「いや……直った」
今のは新しいタイプのバグだったけど、こう何回もバグが起こって、いいかげん直し方も自分で分かるようになってきた。あとはまた運営に報告しないと、直し方も入れて。
「って俺はいつからデバッカーになったんだよ!」
「あっ――――やっちゃった。えへへ……」
可愛い子ぶって誤魔化すな。逆にムカつく。
久々に天音とゲームしているせいか、耐性が無くなってきてるのか、ストレスがヤバい。
「よし、今度こそは!」
「……」
別に天音はふざけてるわけじゃない。
わかっているが、イラつくな、前まではこんなんじゃなかったのに。
やっぱり久々だからか。だったら慣れるまで耐えるしかない。
「あっ――――!」
「……いや、違うなこれは」
これは久々だから俺のストレス耐性が下がっているからじゃない。
久々だから天音の腕が急落してるんだ。また下手に、いやさらに下手になってるんだ。
「理君?」
「……ちょっと、休憩しよう」
「え、それって――あれ?」
今、天音の冗談を喰らったら間違いなく俺は伝説のスーパーサイヤ人になってしまうだろう。落ち着くために、俺は天音を無視して部屋を出ようとした。
「いや、なんで俺が出て行かなきゃいけないんだ」
「ど、どうしたの?」
何ともない顔しているこの女。
確かに天音のおかげで試験も乗り切れたし、そこは感謝してるが、さすがにこっちも限界だ。
なんで天音のせいなのに俺が自室から逃げなきゃいけないんだ。
「そうだ。そうに決まってる」
「怖い顔し――」
「天音、もう辞めにしよう」
少し不安な顔している天音の目を真っすぐ見て、俺は言い放った。
ここで天音との因縁を絶つ。何が何でもだ。もう耐えられない。
「え、なんで?」
「この時間に意味がないからだ」
前までは俺の正体をバラされると思ってたから強く出られなかったが、今は違う。
言いたいことはハッキリ言ってやる。
「意味がないって、どういうこと。私は理君にゲームを教わって――」
「なんでそこまでしてゲーム巧くなりたいんだよ!」
怒鳴り声に床からの振動が足を伝ってくる。
天音は少しビクッとしたが、逆に怒った顔だ。
「それはゲーム配信して皆を――」
「別にそんなことする必要ないだろ、歌枠だけでいいだろ!」
話を遮り、天音に主導権を与えない。何が何でも俺は天音を追い出す。
例え天音が激怒しようとも、俺は怯まな――なんか暗い顔している。
「……歌が上手い人なんていくらでもいるから、今は歌を聞いてくれても、すぐに誰も聞いてくれなくなっちゃう。だったらゲーム配信して……」
言い過ぎたか。俺も少し感情的になりすぎた。
「だから、歌だけでいいって言ってるんだよ。ゲームやりながらで一番聞きやすいから。毎日聞いてても飽きないし」
「……ど、どういう意味? 毎日聞いててくれたの?」
あ、あれ、なんかニヤついてる。今、なんか変なこと言ったか。
ヤバい、これはまずい、建て直さないと。
「ねぇ、どういう意味?」
「こ、怖いんだろ?」
「え? な、なにが?」
咄嗟に言ったから俺も何がって感じだ。
危険な状況だ、このままじゃ天音に押し込まれる――こうなれば勢いでどうにかするしかない。
「ゲーム配信してみろよ」
「え? なんで?」
「怖いからできないんだろ」
「……自分が得意だからっていい気になってる。ずるい」
あれ、また不機嫌になってる。頬を膨らましてる。
このままじゃダメか――――いや、待てよ。
「何言ってるんだよ。天音はゲーム巧くなってるぞ」
「え?」
「だからこんなに巧くなってるのになんで、まだゲーム配信しないんだって言ってるんだよ。もう俺から教えることなんてないのに」
さすがにこれは言い過ぎてるか。
まずい、天音がなんかさっきよりも陰険な顔してる。
ちょっと皮肉混ぜたのバレたか?
殴られるかもしれない。
「……ふふん! そうなんだ。そうだったんだぁ~!」
「へ?」
「そうだよね。この臭い部屋で毎日耐えてきたし、もうプロレベルになってないとおかしいと思ってた」
臭い?
嘘だろ、臭かったのか俺の部屋。
「そうと決まったら、いち早く配信しないと!――ということで理君、もう帰るね。じゃあね!」
「お、おう」
マジかよ、臭いのかよ俺の部屋。
あとで芳香剤買っておこう。
「……って、天音帰ってる!」
いつの間に。いつの間にか天音がいなくなってる。
なんでかわからないけど、機嫌も悪くなかったし、殴られなかったし。
これは。これは!
「――やったぞ! ついに撃退したぞ!」
俺の勝ちだあああああああああああああああああああああああああああああ。
天音に勝ったあああああああああああああああああああ。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
「――あ、言い忘れてた。明日もよろしくね、それじゃ!」
背後から聞こえた天音のような声。
嘘だろ。
「嘘……だろ?」
因縁は絶てなかった男は一人だけの部屋で悲しく夕焼けを眺めていた。
カラスが飛んでいる。
そのカラスは恐らく明日もここを通るのだろう。
「下手すぎて草」
「どうしたらそこに引っかかるの?」
「歌が上手いだけの女」
「喚いてるの可愛い」
ある配信枠、そこには目にも止まらぬ速さで流れるコメントがあった。
同接は普段より3000人多く、1万人を超えた。しかも事前予告なし、いつもより2時間早い6時ごろのゲリラ配信で。
その盛り上がった状況にもかかわらず、その配信者は頭を抱えていた。
「な、なんで、なんで!?」
その配信枠の名前は「カノンアマネのパーフェクトゲーム講座」。
なお、言うまでもなくそこにあったのは意味不明なバグの数々。
しかも理がいないため、どうしようもなく積んでいた。
「バグ、えぐすぎ」
「パーフェクトバグ講座」
慌てふためくアマネの様子とカオスすぎるゲーム画面にリスナーも画面の前で腹を抱え、さらに時間帯のこともあってリスナーは若い学生が多く、情報は拡散。同接は伸び続けた。
「あー、もうどうしてこんなのことなっちゃったの!」
「草」
「草」
「草」
また、理も腹を抱えながらEnterキーを押した、リスナーの一人であったことは言うまでもない。
「タイトル詐欺で草」
「――んんんんんんんんんんんんんんんんん!!!」
最悪なことに天音がこの配信で披露したバグはかなり狂ったもので、配信終了ボタンを機能不能にする誤作動まで引き起こした。
それゆえに天音は配信を終えたくても終えられず、ゲームキャラも動かせなかったため、そのうち天音は考えることをやめた。
「って俺が走る羽目になってんじゃねえか!」
その代わりに理が走った。
ちなみに運営でもわからなかったらしく、運営から理に依頼されるという事態であった。
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