第16話 ゲームが巧いから人を驚かせた

正直、何をしていてもつまらなかった。

小学五年生の僕は繰り返される日々に飽き飽きしていた。

登校、昼休みのドッジボール、下校してすぐに塾。

子供ながら人生って退屈だなって車の窓の外を眺めて悟っていた。


回って行くだけの日々に亀裂が入り、その隙間に赤い夕暮れができた。

鬼ごっこして、サッカーして友達と遊べるようになった。

でも楽しくなかった。

やっとの思いで自由な時間が増やしてくれたのに楽しめないのも苦痛だった。

そんなとき、ゲームの好きの友達が動画を見せてくれた。

「けーえーあい?」

「KAIだよ! ほら見てよ!」

「――へぁ!?」


KAIに出会ってから僕は変わった。

鮮やかに対戦相手を倒した瞬間、流れた称賛のコメント、KAIの歓喜の叫び。

たまたま開いた画面に僕の心はピタリと止まった。

こんなにもゲームは人を惹きつけるのかって。


それからKAIの配信を毎日見て、何回も驚かされて楽しくて、僕もKAIみたいにゲームができたらってゲームの練習していた。

そのおかげでもうあいつ等に負けることは無くなって、俺に勝てる奴はいなくなった。

そしてネット対戦ばかりしてまた鍛えて、ゲーム配信したかったけどまだ弱すぎて見せられたもんじゃないってできなかった。


そうして時は経って中学三年夏の終わり、ネットにも俺に勝てる奴はほぼいなくなっていた。

これでようやく配信ができるぞと、チャンネルを作ってゲーム実況を始めた。

最初はあまりリスナーはいなかったけど、三年経った今では登録者は90万人。

俺のゲームの腕は確かだった。それがこの結果を生んだんだ。

でもまだ満足してない。

今の俺なんてまだKAIの足元にも及ばない、もっと上手くなりたいんだ。



確か俺は高校一年生のはず。

四月に入学してから六月中盤の今、雨降る朝にたびたび傘がぶつかる。

というか横腹にぶつかってきてる。

「あ、ごめん」

「わざとだろ」

わざわざしゃがんでまで、そんなに俺を甚振りたいのか。

もう俺は奴隷じゃないぞ。

「理、天音ちゃんが可愛そうだよ。うまい棒食べなよ」

大野、ふやけてんじゃねえか。

それに明太味は嫌いなんだよ。

「じゃあ私がもらうね」

「やめろ、勘違いを生むぞ」

「え?」

これも小説の創造性だ。

って最悪な勘違いだな、それ。

「まったく、わかったよ。僕が温めていたチョコバットならどう?」

「いらねえよ! なんで温めるんだよ!」

「少し溶かした方が美味しいからだよ」

臭いチョコバット近づけてくるな。

そこには需要なんかないんだよ。

「――って」

天音、傘で横腹つんつんすな。

「学校着いたよ」

「わかったから突くなって」

スキップしながら校舎に入っていく天音に俺は疑問を抱く。

何がそんなに楽しいんだって。

「理、」

「なんだよ?」

「ルマンドならどう?」

「いら……もらっとくわ」

うまい棒もチョコバットも誤解を生むが、ルマンドなら大丈夫だった。

そうして俺はルマンド男子になった。


今日も座って四回目のチャイムが鳴り終わった。

内容は数学、古典、理科、英語。

今までなら内容なんて説明できなかった。

理解できなかったし、そもそも寝ていたし。

こんなに真面目になってしまったのも誰かのせいだ。

俺は後ろの席の奴を睨んだ。

「――?」

天音は何もわかってなさそうに首を傾げた。

ああ、ありえんなー。

少しでもしゃがもうとすると後ろから頭叩いてきてるのに。

ああ、アリエンナー。

「じっと見て、どうしたの?」

「なんでもない」

いつも一緒にいる飽きて顔を見なくなる。

なんてことはないようだ、むしろ回数が増えてる。

「ん……なに?」

「面白い顔だからか」

「え?」

間抜けな顔、アホ毛が出てる。

やっぱりそうだ、そうに違いない。

むしろそれ以外に何があるって言うんだ。

「あれ?」

天音がいない。

どこに行った?

「どうしたんだい?」

「いや、天音が消えたんだよ」

「普通に女子と出ていったよ。用でもあったのかい?」

「別にそういうわけじゃないけど」

瞬きする間に消えるとは。

やっぱり人間じゃないのか。

「温玉唐揚げ丼、買ってきたけど食べるかい?」

「もらうわ」

ん?

今は午後0時の33分。

四時限目が終わって3分。

温玉からあげ丼は食堂にあった。

「あれ? バグってる?」

「重いと時間が遅れるらしいからね」

ちょっと何言ってるかわかんない。

まぁいいか。


そして五限、六限が過ぎ、ついに帰りのホームルームが終わった。

起きているとこんなに長いのかと、いつも欠伸が出る。

「ようやく帰れる」

って帰っても天音とゲームか。

この欠伸は溜息に変換された。

「まぁ頑張るか」

「……」

天音が机に視線を落としてじっとしている。

いつもなら「早く帰るよ!」って元気なのに。

深刻な顔しているな。

「どうした?」

「…………なんでもない。ふわぁ~」

天音は大きく欠伸し、いつもの元気な顔に戻った。

なんでもないなら大丈夫か。

「ほらほら、今日も頑張るよー!」

満面の笑み。元気な声。

カノンアマネとそっくりだ。

やっぱり天音はカノンなんだよな。

「信じられない」

「大声で叫んだの誰だっけ?」

「ははーん?」

さっきからある違和感。

それを辿るように俺はニコニコする天音と帰路を歩いた。

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