23.染み入る悪意 —静かな毒—


「オッサン、おやすみなさーい」

「はいはい、おやすみ」

 可愛らしいパジャマに着替えた弟が、半分閉じかけた目で挨拶する。

 今日とて、なんでもない平穏な日が過ぎてゆく。

 周辺の状況の確認を終え、魚釣りを行ってサプリメントを集めることのできた我々は、13号基地に再び戻っていた。

 13号基地は、それなりに広く、複数人が休むための設備があるため、寝心地が良いのだ。

 我々二人は客用の寝室で、ロクスリーは管理人部屋の寝室で休むのが常である。

 ふよんとマルベリーが弟の方に向かう。

「マルベリー、スワロと一緒に寝る?」

 弟がそう尋ねると、返事をするようにマルベリーがふわふわっと弟の周りを二周した。

「オッサン、マルベリー、おれと一緒に寝るっていってるー」

「なにー? またかい? しょうがないなあ。いいけれどさあ」

 とロクスリーは少し不機嫌だ。

「レディ・マルベリーは、おれのことすきだもんな。うん、いいぞ」

 弟は急に器の大きい、いい男のようなことを言う。

「ロクスリーのおっさんより、おれのがかっこいいんだな。しかたないなっ!」

 とこんな時だけ弟は、ドヤ顔だ。

「じゃ、おやすみなさーい。あにさま、さきに寝るね」

「ああ。おやすみ。私もすぐに寝室にいく」

 はーい、と、弟が「行こう」と金魚のマルベリーを誘い、一緒にいってしまうのを、私は見送った。

 ロクスリーが意外と悔しそうな顔をしている。

「なんで、あの子あんなにモテるんだろうねえ」

(私もそう思った)

 ロクスリーのしみじみした言葉に、私は思わず同意する。

 弟本人は、『じぶんはあまりモテるタイプじゃねえ。強面だし』とそこそこコンプレックスがあるようなことを、よく言っていたように思えるが、実際、私が知る限り、彼は、女性、それも少女からモテている。自分が無自覚なだけで、少女の熱い視線をしょっちゅう浴びている彼だった。

「その辺に気づかないのが、悪い男なんだよなあ。あー、やだやだ。娘の親としては、絶対近づけちゃダメだよ、あんな男」

 と、そんなロクスリーも、目を引く黒地に薔薇などの花を散らしまくった柄物の寝巻きに、寝酒にウイスキーをロックで傾けており、なんとも悪い男の風情だ。

 服の趣味は少しどうかと思うが、似合ってはいて、どうも突っ込みにくい。

 と、不意にマルベリーがするりと戻ってきて、ロクスリーの手元をつついた。

「んん? どうしたの? 大丈夫だよ、マルベリー。ただのウヰスキーじゃないか」

 つんつん、とロクスリーの指をつつき、彼女はふるりと周囲を回る。

「ああ、そうね。なんだい、キミは心配症だなあ。大丈夫だって」

 そういうと、マルベリーは安心したのか、また弟の後を追って客室の方に戻っていく。

「どうしたのだ?」

「わたしがウヰスキーなんか飲んでるから、心配になったんだろうね」

「何故?」

「そうだなあ」

 と、ロクスリーは、直接的な返答を避けてニヤリとした。

「キミ達もそうだと思うけど、わたしもまあまあ舌がバカなんでね、何か混ぜられても気づかないからだよ」

「混ぜ物?」

「わたしは全然、トラウマにもなってないのに、あの子ったら繊細だな」

 ロクスリーは苦笑し、カランと音を立ててグラスを目の前で揺らす。

「ドレイク。悪意っていうのは、この液体に一滴ずつ混ぜられた毒のようなもの。何度も飲むうちに、静かに効果が及ぶようなものだよ。染み入るような悪意。……それが我々黒騎士には何よりの毒なのさ。だからね、こうしたものには悪意が紛れやすい」

 じゃあ、とロクスリーは、キザに酒を嗜むとふるりと手をふった。

「おやすみね」


 *


「染み入るような悪意」

 寝室でベッドに入る頃には、弟はもうすやすや寝てしまっていた。スワロとマルベリーに囲まれている弟は、平和そのものだ。

 そんな彼には無縁そうな、ロクスリーの言葉。

「染み入るような、悪意、か」

 窓から入るのは月の光だった。

 下層ゲヘナにあるあれは本物の月という天体でなく、それを再現したものだが、青く冷たい光はどこか私すら不安にさせていた。

 その中で私は。

 また夢を見る。


 ***


 途切れ途切れの息が聞こえる。

 冷たい体温の上に、黒い悪意がじっとりと染み込むような感覚。

「ッつ、き、さま」

 何者か、目の前に立つ男に、その男は憎悪を込めて視線を向ける。そのほかの体が動かなかったのだ。

 相手の顔は見えない。笑っているのか、それとも。

「君は知りすぎたんだ」

 冷たくその声は告げた。

 ぽつぽつ降り出す雨の中、その声は言った。

「君には消えてもらわなければね」

 雨粒が、冷たい体にじわじわと染み透っていく感じがした。

 

 染み込むような悪意。

 私はその言葉を思い出していた。

 悪意、とは、我々にも身近なものだ。

 汚泥とは、悪意に染まったナノマシン。そして、悪意とはかつて、単純に相手を攻撃するように敵として作られたもの。子供向けのゲームの敵性存在のようなもの。それに染まって感染性を持った黒物質ナノマシンが汚泥だ。

 だからこそ、黒騎士の誰もに、に悪意を受け入れる素地がある。プロテクトされた殻を破れば、我々は何にでもなる黒物質ブラック・マテリアルの塊。古い悪意のプログラムを受け入れてしまう柔軟性は、我々の強さのもとだ。

 それは静かな毒の如く、我々に染み渡る。

 叛乱を起こした黒騎士たちは、そんな悪意を飲み込んでしまったのだろうけれど、叛乱を起こさなかった私や弟にも、しみとおる何かはあったように思う。

 たとえば、私を静かに蝕んでいたのが嫉妬という感情だった。弟をなんの根拠もなく愛されていると決めつけて、勝手に嫉妬した私は、その感情に身を灼かれていた部分があったであろう。

 だとしたら、ロクスリーにも、それはあったのだろうか。

 あのサーキット・サーティーンを追い詰めたのはなんだったのだろう。

 

 悪意の忍び寄る寝苦しい夜、私は彼の記憶を再びたどる。


 ***


「ようやく捕まえたぜ」

 身柄を預かっていた弟ネザアスの謹慎も解け、朝顔がしおれ、土に還り、季節が巡るころだ。

 サーキットは庭の手入れもせずに、頻繁に外出しているらしかった。弟は合間を見て、彼の詰めていた施設を訪ねているようだったが、なかなか本人と出会えていなかったようだ。

 この日はようやく彼を捕まえることができ、弟は安堵のため息をついていた。

「やあ、ネザアス、どうしたの?」

「どうしたのって? 最近、アンタが捕まらねえからよ、何してんのかなって」

 弟はそっけなさを装ってはいたが、明らかに心配していた。

 サーキット・サーティーンが繊細そうな見た目と違い、意外と豪快で大雑把な性格だというのは、今のロクスリーを見れば一目瞭然であるわけだが、彼は任された施設をなおざりにするような男でない。それなのに、この有り様はどうだろう。

 世話をするものもいなくなったせいなのか、整っていた庭の手入れが滞り、雑草が生え、植え込みは凸凹になり、あちらこちら、静かに荒れ始めているのをみれば、弟が心配するのも理解できるものだ。

「少し調べ物で忙しくてね。留守をしていたんだよ」

 サーキットは、赤い金魚のおもちゃを連れていた。弟はそれをちらりと見やる。

「調べ物なあ」

 弟はうなるとため息をつく。

「しかし、事なかれ主義なアンタにしては、随分と厄介なことに手を出したもんだな」

「何がだい?」

「噂でちょっときいたんだが。あんまりあっち方面は危ねえから、やめとけよ」

 そんな弟に彼は、空中に浮かぶ金魚をそっと撫でやりながら言った。

「ご心配痛みいるよ。でもね、ネザアス。そういうわけにもいかなくてね」

「マルベリーのことか」

 弟は、近頃サーキットが金魚のペットロボットを可愛がっているのを事前に聞いていたようだ。なにかしら、マルベリーと関係があるのだろうと、彼は踏んでいたが、あえてそこに触れなかった。

「それもあるけど、それだけじゃあないよ」

 サーキットは、穏やかながらに何か決意した様子で告げた。

「ヤミィのこともだよ。彼に問題があるなら、わたしがなんとかしないといけない。一応、わたしが彼のアニサマなんでね」

「それで魔女計画の核心について調べてんのかよ?」

 あの後。

 サーキットはヤハタ・ビーティアを責めはしなかったが、彼女の研究については調べを進めていた。

 魔女計画については、追い詰められた上層アストラルの産物だろう、というのは弟もサーキットも共通の認識ではあった。

 三桁に及ぼうという数の黒騎士を作っても、徐々にその質が低下してきているのを、我々でも知っている。管理局が焦らないはずがない。

 品質低下の理由の理由については、私の知るところではないが、素材である黒騎物質ブラック・ナイトが、黒物質を高度に精製して得られるものであったことは無関係ではなさそうだった。黒物質を精製するための機械を作ったのは、ドクター・オオヤギであったが、その機械は彼の手による微調整が必要で、彼の協力が不可欠だったのだ。

 ドクター・オオヤギは、元より黒騎士の濫造には反対していた。その理由は、黒騎士の制御の問題からであった。

 オオヤギは人格者で良心的な技術者だったが、彼は黒騎士の持つ危険性にいち早く気づいていた。彼はそれに対抗するべく、アマツノに人格制御のための施策を進言して、造られたのが我々であり、我々には複数の反逆防止策がなされている。

 しかし、オオヤギが目を光らせて直々に手を入れたのは、私とネザアスだけであった。理論上、同じような反逆防止のシステムは初期ロットの五人には組み込まれているはずだった。が、サーキットがかつて言った通り、ヤミィ・トウェルフには何かしらが欠落しているようであった。

 オオヤギはそれに気づいたのかどうかわからないが、彼はヤミィが造られた時に警鐘を鳴らし、以降の黒騎士の製造に対して一貫して反対した。非協力的な態度を示したオオヤギは重要なポストから外されたが、彼の力を借りられないことは黒騎士物質の質にも小さな影響を与えたらしい。しかし、それを問題視せずに研究を進めた結果、その小さな影響は月日経たのち、大きなものとして現れたようだった。

 そのことがヤミィの更新アップデートによる強化や、弟やサーキットなどの御しやすいタイプの黒騎士の複製レプリカ作成につながったのだろう。

「弱体化した黒騎士をサポートし、白騎士の戦闘の効率をあげるための強化兵士が魔女なんだろうね。でも、ヤハタ女史の言い分も一理はあるんだ。白騎士のナノマシンは女性との相性が良くないと聞いているから、強化兵士は男子ばかりだ。女の子たちを保護しようという、彼女の気持ちもわからないでもないよ」

 そんなサーキットに弟は肩をすくめる。

「あの女は、どっちかてえと野心もあるだろ。アマツノやマガミの覚えがめでたいのは、あの女が無茶して目立ったからもあるからな」

「それもあるけれどさあ。まっすぐな女性ひとには違いないんだよ。彼女も苦労はしている。しかし、ヤハタ女史はまっすぐすぎてね、彼女に裏はないんだ」

 とサーキットはため息をつく。

「それでマガミ・レイについて調べてんのか?」

 と弟はさらりと核心について尋ねた。

 サーキットは苦笑した。

「前にも言っただろう。オオヤギさんが君たち兄弟を作っている間に、マガミくんはわたしとヤミィの制作に携わっていた。一応ドクター・ナカジマも絡んでいるけれど、彼はどっちかというと善良だし、二人に意見できる立場じゃないからね。本来、ヤミィは不完全な存在として造られたはずなんだ。計画書とできあがった彼は、人格なんかの細部が違うんだ。それがどう言う意味か」

「不完全?」

 きょとんと弟が目を瞬かせる。

「そりゃあ、ヤミィのやつ、人格はどっかぶっちぎってると思うけどよ。アイツは完璧に近い方じゃねえか? おれなんかはあからさまに不完全だと思うが」

「ふふ、そういう感じじゃないよ。彼の場合はもとから完璧さを欠落させてるはずだったんだ。欠かさせた分、それを補うものとして、もっと人間的な感情が与えられるはずだった。彼は、元のモデルが強すぎるから、あえて欠けさせて、制御しようとしたはずなんだよ。オオヤギさんほどじゃないにしろ、アマツノくんだってそれぐらいは警戒していた。しかし、欠けたヤミィに、補われたものがなかった。その補われたものは、彼の弱さにもなるはずだった。欠けたままになった彼は、危険な存在になったわけだよ。この感じ、わかるかな?」

 そう尋ねられて弟は目を瞬かせた。

「ん、うーん、そうだな。気分的にわからないでもねえ、かも」

「彼に与えられるはずだったモノはわたしの方にきている。ここの塩梅についてはアマツノくんの仕業かもしれないが、ヤミィの件についてはマガミくんの思惑も無視できない。……それで、彼をマークすることにしたんだ」

「アイツがなんか、こう、やべえ感じがするのはわかるが……」

 と弟は顎を撫でやった。

「ただ、アイツ、アマツノの信頼も半端ねえからな。アマツノのやつ、なんであんな奴に乗せられちまうんだろう」

「それには、理由があるんじゃないかな」

「理由? なんだそりゃ」

 不意にそんなことを言ったサーキットに、弟が驚いたように尋ねた。

「別に彼の外見モデルを持つからいうんじゃないのだが、わたしはね、彼らの気持ちもてんでわからんでもない気がしてきたんだ。これはまだ調査中の話で確証はないんだが」

 呆気に取られる弟に、サーキットは苦笑する。

「これに関しては、長兄のドレイクにも聞いてみたいところなんだが、同じ意見なんじゃないかな」

 サーキットは、言った。

「もう少し踏み込んだことがわかったら、キミにも説明するよ」

「それは良いけどよ。あんまり踏み込みすぎるなよ。マガミも、ヤミィと同じくらいヤベェからさ」

「キミの勘は正しそうだねえ。ありがとう。気をつけるようにするよ」

 そんな彼の周りを、金魚がふわりと舞うように泳ぐ。しかし、それは今現在のマルベリーと違って、意思をあまり感じさせないものだった。


 *


 サーキット・サーティーンが、マガミ・B・レイを調査するためにやったことは、彼にとっても危険な行動ではあった。

 サーキットは上層アストラルの、洒落たバーを訪れるようになっていた。

 そこは、高位の研究員の福利施設となっている場所だ。アマツノに近いもの達もよく通っているバーだが、実質マガミの趣味で作られており、オーナーは彼自身。

 もちろん、招かれざる客は入り口では入れない。私や弟は、入口をくぐったこともなかったと記憶している。

「やあ、アマツノさん、マガミさん。こんばんは」

「サーキット、君、最近よく来るね」

 その日は、そこにアマツノやヤハタ・ビーティアも来ていた。マガミは、彼等の後方で静かに飲んでいる。

「ええ、マガミさんやヤハタ女史に実験のデータをお渡ししたいんですが、わたしはアナログなのでデータの転送が苦手でね」

「そうだったね」

 とアマツノは無邪気に答えた。

「君はなぜか機械が苦手なんだよな」

「データ送信は弟子にやってもらっても良いのですが、機密性が高いので直接お渡しさせてもらっているんですよ。それに口頭で話もしたいし」

 と、サーキットは人好きのする笑みを浮かべる。

「お話しするのも楽しいですからね」

「はは、そうだよね。レイくん、サーキットは魔女計画の実験をしてくれているんだっけ」

 とアマツノが尋ねると、酒を飲んでいたマガミが頷く。

「そうだよ。サーキットは、この実験に一番適役なんだ。ヤハタくんにもそう評価してもらっている」

「再利用実験だっけ。ああ、その金魚の子が?」

「ええ、灰色物質の再利用実験中の個体です」

 ビーティアがそう答えた。

 ヤハタ・ビーティアがマルベリーの残骸を彼に譲ったのは、表向き、黒騎士と魔女のための実験の一環だとされていた。

 彼女は魔女の灰色物質の残滓の効能を調べるため、おもちゃのペットロボットに詰めて、黒騎士のサーキットに渡して経過を観察しているだけ、ということになっている。

 サーキットには、それがマルベリーの残骸だと知らせていないことにしており、灰色物質の余りなどを気軽に再利用するための実験ということになっている。

 つまり、強化兵士として人間に投与して使えないものながら、ペットロボットなどの媒体で黒騎士の補助ができないかの実験だった。

 サーキットが行ったのは、訓練だけでなく実戦を含むもので、どのような補助ができるかや、汚泥に対してどんな効能をもたらすかを調査していた。

 アマツノは、素直に彼を褒める。

「サーキットは熱心だね」

「お褒めいただいて嬉しいですよ。でも、わたしもヤミィに負けられないので。彼、カヨが来てから成績が鰻上りとか」

「ああ、そうだね。魔女との適性によるけれど、それによっては黒騎士は大幅に強くなれる」

「夢のある話ですね。わたしも、黒騎士の端くれなので、こんな助手で戦いが楽になるのは、ありがたい話なんですよ」

 アマツノにそう答え、サーキットは席についた。

 やや非公式な実験でもあるので、データの受け渡しはこうしてオフに行われることも多かった。サーキットも任務があるので、暮れてから、こうしてバーで落ち合って話をするのだ。

 サーキットとマガミの外見は同じだ。サーキットが少し派手で、やや体格が良く、いかにも美青年風の堂々とした態度であるのが違いなだけ。同じ顔の青年が二人話し込むのは、不思議な光景だった。

 マガミは、静かな笑いかけるだけだ。本心の見えない顔だった。

『マガミ・レイだ』

 不意に私にサーキットの心の声が響いた。

『直接的にマルベリーを殺して、こんな姿にしたのはヤミィだが、ヤミィをあんな化け物にしたのは、間違いなくこの男だ。元凶はこの男に違いない。コイツがマルベリーをかわいそうなことにしたんだ!』

 冷静なサーキット・サーティーンの上辺の微笑みと対照的に、それは熱を帯びていた。

『わたしと同じ顔をした、この男の本当の素顔を必ず暴いてやる!』

 サーキットは、やはり気がはやっていたのだと思う。彼はマルベリーのことで冷静さを欠いていた。

「今日もデータありがとう。君からもらったデータはありがたく使わせてもらうよ」

 そう言っていつもマガミは、サーキットに手ずからウイスキーやバーボンのロックを作ってやる。

「ご苦労様、サーキット。今日も奢らせてね」

「ありがとう。実は強い酒は好物なんですよ。マガミさんのお酒は特に美味しいですね」

 その手並みに、アマツノが嘆息をついた。

「レイくんは、お酒作るのうまいからね。飲めたら美味しいでしょう? 僕は水割りでもきついくらいだから、そんなに飲めないんだけどね。サーキットは結構お酒はいけるんだな。羨ましいよ」

 アマツノは呑気にそんなことを言いながら、上機嫌になっているだけだが。

 ヤハタ・ビーティアは、同じ顔の二人が酒を飲み交わすのを、なぜか不安げに見つめていた。

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