21.黒騎士と魔女 —朝顔—

 極端に夜型な弟は朝が弱い。

 私もその点については、人のことは言えないわけだけれど、弟は本当に夜型なのだ。

 のだが、たまに朝からすごく元気だ。そういう時は、朝まで寝ていないだけだったりする。弟に言わせると、夜明けまでは全く夜の部類らしい。

 13号基地から少し離れた監視用の詰め所の建物は、ロクスリーの漁のための小屋だった。秘密の漁師小屋、と彼は言ったものだ。

「なかなかいい場所でしょう? ここは13号基地のゲートキーパーくんの影響下にあるから、いろいろ管理やってもらえて便利なんだ」

 この外見にして、ちょっとものぐさなところもあるロクスリーは、セキュリティ用の人工知能をいろんなことに使いすぎではある。

 それこそ、基地や詰め所に並んだプランターで家庭菜園をさせてみるなど、いろいろ頼んでいるようだ。

 ロクスリー本人については、彼がサーキット・サーティーンを名乗っていた時代、特に夜型でもなんでもなかったはずなのだが、今は”釣り”にいそしむせいか、彼も夜討ち朝駆けが基本。昼間はごろっと寝ていることもあり、あんまりだらしないと、金魚のマルベリーにつつかれてたたき起こされているのを見かけることがあった。

 深夜から起きだし、釣りからかえった後だ。泥の獣の出没する湖がここから近かったのだが、なかなか良い質の核がとれた。近ごろ、泥の獣は巨大化する傾向もあり、さらに言えば強くもなっていたけれど、我々の実力的にはそのあたりのレベルの敵のほうがちょうどよく、ロクスリーに言われるまでもなく、釣りは楽しかった。

 そんな楽しい釣りを終えてきた我々が、すんなり寝られると思ったら大間違いだ。

 釣りといっても一種の戦闘。ニンゲンでいうところのアドレナリンに操られたような状態が、我々にもあるわけで、狩猟のあと落ち着いてすぐに休めるわけでもない。

 シャワーを浴びたり、気を落ち着けてから朝寝をすることが多くなる。

 そのような状況の時に、前述の体質もあって、弟は我々の中でより元気なのだった。

 ゲートキーパーに任せきり、とはロクスリーの悪いくせだが、金魚のマルベリーはそんな彼のダメなところを知っているのか、カバーするような行動を取る。

 彼女は金魚だけれど、シャワーの前にちゃんとタオルを用意してくれるような機転は効く。そのあたりを見ると、彼女が、弟の連れている文鳥のようなペットロボットのおもちゃとは全く質の違うものだとわかる。

 戦闘時に小鳥の姿に変えて、自律的に行動させて糸をかける手伝いをさせていた通り、彼女はロクスリーの助手のような存在だった。

 そんな彼女なので、ロクスリーがスプリンクラーによる水撒きに頼っているプランターの世話も、やってくれるわけだった。

 水やりをしているマルベリーを見かけて、弟が如雨露を手にやってきた。

「マルベリーは良い子だな! おれもみずやり、てつだうな」

 せっせと働くマルベリーをなでなでしたあと、弟はプランターの植物に丁寧に水をかけていた。

「朝顔、咲いてる。そうか、レディ・マルベリーは朝顔すきだもんな」

 弟がそういいながら、鉢植えに水をかけている。彼の言う通り、そこには紫色の朝顔が花を咲かせていた。くるくるとつるがあちらこちらに巻いているのが、ちょっとかわいらしく、風情もあった。

「花が好きなのは、ロクスリー殿の趣味だったろうか」

「そうだよ。わたしはきれいなものが好きだからねえ。それに、わたしも花の似合う男前だから」

 とどこまで本気なのかわからないことを言う。

「うちのレディは、相変わらずネザアスが好きみたいだなあ。悪い男に惹かれる性分なんだろうか」

 とため息をつく。

「保護者目線、師匠目線としては、ネザアスみたいな悪い男だけはやめてほしいところなんだけれどねえ」

 と、私はそんな彼と弟と戯れるマルベリーを交互に見た。

 あれ以降、私はまだ弟の記憶を詳しくたどれていない。

 弟がヤミィに詰め寄り、そこで乱闘事件を起こしたらしいことはわかったのだが、以降の事情が読み切れなかった。

「まだ、わたしがどうしてこうなったかが判明してなさそうだねえ」

 そんな私の表情でそう気づいたのか、ロクスリーはにんまりしながら言った。

「まあさ、なかなか難しいところはあると思うよ。なにせ不確定もいいところの情報共有方法だし。でも、ドレイクはそろそろどういう事情がわたしたちにあるのか、うっすら予測できてきただろう」

 そう尋ねられて私はうつむいた。

「その、あの金魚のマルベリーはロクスリー殿の……」

 というと、ロクスリーは苦笑した。

「一度、わたしの記憶の共有ができないか図ってみようか。うまくいくかは未知数だけれどもね」

 そんな風にこたえるロクスリーは、弟と遊ぶマルベリーに視線を向ける。その眼差しは、いとおしいものをみる眼差しそのものであったが、どこかさみしそうでもあった。


***


 朝顔の花が咲いている。

 サーキット・サーティーンの管理していた施設は、緑に覆われた穏やかな場所だ。季節の花がいつでも花を咲かせていたが、その花が移り変わりつつあった。

 視線の先の朝顔に水をやっているのは、サーキット本人のようだった。

「すまないことをしたね、ネザアス」

 と彼が声をかける相手は、どうやら弟らしい。

「キミに謹慎までさせてしまって、申し訳ないことをした」

 弟はすぐには返事をしなかった。

 

 私は、また自分が弟の記憶をたどっていることに気づいた。それは相変わらず弟の視点で見る映像であったが、ふとした時に、別のものの視点も混ざっているようだった。それはロクスリーが開放した、彼の記憶なのかもしれなかったが、私は第三者としてその場に紛れ込んだかのような状態になっていた。

「別に、アンタのせいじゃねえよ。おれが個人的に許せなかったんだ」

 と弟は答えた。

「謹慎ぐらい今更。むしろ、アマツノが全面的にアイツの味方しなかったのにビビったぐらいだ」

 と弟は苦笑する。

 謹慎? と私は思い出していた。

 比較的問題児な弟ではあったが、処分を食らうようなことはそう何度もあるわけでもなかった。特に謹慎処分を食らったのは、私が知る限り一度きりだった。

 確か、彼は任務中にヤミィ・トウェルフと乱闘沙汰を起こしたのだ。喧嘩、といえばまだやわらかいが、実際は弟は刃を抜いているため、刃傷沙汰であり、任務中の私闘である。

 私も弟がヤミィと暴力沙汰になったこと自体は知っている。

 当時の私の見解では、それは弟の暴走のように思われていた。先に手を出したのは弟のほうであり、ヤミィは巻き込まれただけだとされていた。刃を抜いたのも実際弟が先だったのだ。

 それは、寵愛を受けるヤミィに対する、事実上のライバルにあたる弟の妬みや不満によるものとされていた。

 しかし、その件については、創造主アマツノ・マヒトは弟にやや同情的だった。アマツノは、弟をかばいたてしたのだ。

 任務中の私闘、おまけに一方的に弟が絡んでいったのだから、もっと重たい処分を下してもよさそうなものだったが、アマツノはなんらかの事情を鑑みて弟を一月の謹慎処分にしたらしい。彼がどこで預かられているのかは知らなかったが、この様子を見ると彼はサーキットの下に預けられていたらしい。

「アマツノくんは、すべて知っていたのかな」

「さあなあ。……まあでも、アマツノが事情を知って、おれをかばってくれたのだとしたら、まだ少し救われるかな」

 私の中に、あの時の弟の記憶がよみがえる。


「融けたのだ」


 弟の目の前にいるヤミィ・トウェルフはまっすぐに彼を見ていた。その瞳には、感情がこもっていなかった。

 彼は口をゆっくり開く。

「あの娘は融けたのだ」

「は?」

 ヤミィに詰め寄っていた弟は、その言葉にあっけにとられた。理解できるまで時間がかかったらしく、しばらく置いてから弟が動揺した気配があった。

「おれとともに戦場に赴いたが、強い力に耐えられずにいたところ、泥の獣の襲撃を受けた。そして融けた。……回収はしたが、すでに手遅れだった」

 ヤミィは感情の乗らない声で告げた。

「あの娘の適性ではおれにこれ以上ついていけない。だから帰したが、自ら了承して、能力を高める実験をうけた末に戻ってきたのだ。しかし、それゆえに体がついていかなかったのだろう」

「ッ、てめえ……! なんで、ッ!」

 弟が反射的にヤミィの胸倉をもう一度つかむ。

「な、なんで、助けてやらなかったんだ! お前ぐらいの実力者なら、なんとかなったんじゃねえか! なんで!」

「娘は勝手についてきた」

 とヤミィの返答は事務的だった。

「遅かれ早かれそうなったのだ。仕方があるまい」

「っ! てめえっ!」

 弟の蒼白な顔の血の気が、そのまま一度一気に引いたらしいのを知った。ざっと引いた後、頭に血が上る。

 そのまま弟は胸倉から手を離すと同時に、殴りかかっていた。

 周りの黒騎士が即座に止めに入ったが、ヤミィもその場で反撃したため、結構な騒ぎになってしまったのは確かだったらしい。

 容赦ない殴り合いのあと、表に出ろ、と弟が言って剣を抜き、そのまま決闘になだれ込みそうなところで、ようやくアマツノ直属の黒騎士たちに二人は引き離されたのだという。


「本当に助けられなかったなら、別にヤミィを殴ってねえ。アイツくらいの腕があるなら、身を挺してまでいかなくても、守ることはできる」

 弟はぼそりといった。

「アイツ、あの娘を意図的に見捨ててる。カヨってもう一人の子は、ちゃんと戦闘アシスタントができているらしいからな。無理な強化を施して戦闘についていこうとしていたマルベリーに、アイツは限界をみていた。アイツは意図的に助けなかった。あいつの目を見ててわかったぜ」

 弟の話をきいて、サーキットは痛ましげに目を伏せていた。

「ヤミィは、……どんどん人から外れて行っている気がする。あの男は、強くなるためにいろいろな更新をされているけれど、更新されるたびにいろんなものが剥がれ落ちて行ってしまっている。まるでアマツノくん、本人みたいにね。……けれど、ヤミィのそれは、もっと……」

 といいかけてサーキットは顔を上げた。

「すまなかったね。ネザアス。わたしが君を巻き込んでしまったも同然だ。しばらくわたしが身柄を預かることになっている。窮屈だろうけれど、わたしにできることなら何でも言ってくれ」

 弟は返事をしなかった。ただ、視線の先で咲いている朝顔は、昼の到来を察知して徐々にしぼみ始めている。


 *


 上層アストラルの創造主直属の研究所は、かつての万能物質開発メンバーを中心としたエリート研究員のための施設だった。ドクター・オオヤギをはじめ、アマツノと距離をとる研究者が出る中で、今そこで強い力を持つのは、アマツノの腹心のマガミ・B・レイだった。

 マガミの権力の深いその研究所は、魔女計画の研究施設だった。

 そこを、サーキット・サーティーンは一人訪れていた。そこからは弟の気配はない。これは、サーキットが私に開示した記憶なのかもしれない。

「サーキット。あなたがこんなところを来訪するなんて珍しいわね」

 そういったのは、黒髪が印象的な研究員だった。気の強そうな知的な美人、といった印象の彼女は、事実そのとおりの優秀な研究員だときく。

「ええ、ヤハタ女史。どうも研究所には足が向かなくてね。私はこうみえて、アナログなので」

 ヤハタ・ビーティアは、当時、アマツノからもマガミからもおぼえのめでたい、新進気鋭の研究員だった。

「しかし、ヤハタ女史。わたしがここに来た理由、貴女ならもうおわかりでは?」

 ビーティアは、少し警戒した表情になった。

「マルベリーとカヨのことかしら」

「ここに二人が所属しているのは知っています。カヨはヤミィとの相性もよく、共にいることで彼の能力を高めるために、一緒に任務に当たっているとききましたが」

「ええ。彼女と共にいることでヤミィの能力は高まる。魔女に与えた灰色物質アッシュ・マテリアルは、黒物質ブラック・マテリアルでできたものに効果を与えることができるのを知られている。汚泥や泥の獣の征圧に使われるけれど、黒騎士の能力を引き出すのにも役立てるのではと考えたの」

 ビーティアは美しい顔をまっすぐサーキットに向けた。

「ヤミィも自分の能力が強化されるなら、と、今はカヨのことを受け入れているわ。サーキット、魔女との共闘が今後現実的に進むなら、あなたにもそれは良いことになると思う」

 ビーティアは、自らの正しさを信じているようだった。自らにも灰色物質を取り込んで、その手法をオオヤギから批判されたという彼女には、自ら信じる信念があるのだろう。

 その姿は美しいが、どこか脆さを感じさせる。

「魔女の実験には、行き場のない少女達が使われているわ。サーキットもわかるでしょう。白騎士という受け皿のある少年とちがって、少女達はなにもない。上層の保護が届かず、性的な搾取を受けて苦界に堕ちる娘もいる。魔女は、そんな彼女達の運命を変えられる力があるのよ」

「それは興味深い」

 とサーキットは微笑んだが、それは上べだけのものだった。

「カヨのことはわかりました。問題はマルベリーのことですよ」

「彼女は、もはやここにはいません。彼女の登録は」

「登録が消えたことは知っていますよ」

 といいかけたビーティアを遮り、サーキットは言う。

「彼女がわたしの元を去ってから、わたしの管理する施設の所属の登録が消され、ここに移された。魔女計画の実践のためなので、それは違和感はない。しかし、ここから抹消されて後、彼女の足取りが掴めない」

「それは」

 と気の強いビーティアが、流石に言い淀む。

「ヤハタ女史」

 サーキット・サーティーンは、見かけにそぐわない年長者感のある落ち着きとやわらかさで、ビーティアと対峙した。

「研究者の信念を貫くキミにも良心はあるのでしょう。そうでなければ、キミが私と会ってくれるはずもない。マルベリーの生前、わたしは何度も面会と説明を申し込んだけれど、その度に断られてきた。今更、キミはどうしてわたしに会ってくれたんだい?」

「それは」

「キミは、マルベリーに少しは同情してくれていたのだろう? ヤミィに抱いていた恋心と、カヨへの競争心で、もはや戻れなくなっていたマルベリーが体に負担のかかる改造を受け入れた時、キミは反対したときいているよ」

「っ、それは、その」

「ビーティア女史。キミは強くて正しい女性だ。けれど、キミにはまだ人の心があるんだね」

 柔らかなサーキットの言葉は、ビーティアの張り詰めた警戒心を少しずつ解いていく。

「キミに少しでも罪の意識があるのなら、わたしの願いを叶えてほしいんだ」

「あなたの、願い?」

 ビーティアは少し動揺している気配があった。

「サーキット、あなたは何を望んでいるの」

「多くは望まない。あの子は泥の獣に食われて融けてしまったときいた。けれど彼女は貴重な魔女のサンプル。その汚泥と入り混じった灰色物質をキミ達は回収したはず。……それなりのデータはもう取れただろう。もう不要なはずだ」

 サーキットは悲しげに言った。

「彼女をわたしに返しておくれ」


 *


 しくしく。

『ごめんなさい。師匠』

 少女の泣き声がぼんやり聞こえる。

 それは幻聴なのか、我々の持つ黒騎士物質ブラック・ナイトが、そのナノマシンの残骸に残されたデータを読み取っているからなのか、私には判別できない。

『わたし、負けたくなかったの。でもね、もう、引き返せなくなっていて、それでね。もう、どこにいけばわからなくなったの』


「かわいそうに、マルベリー。いくあてがないなら、いいんだよ。わたしの元に戻っておいで。キミはいつだって、わたしのかわいい弟子なんだから」



 サーキットは、精巧なおもちゃの金魚のロボットを、ヤハタ・ビーティアより受け取った。表向き、それは黒騎士の彼が実験の協力のために受け取った品物ということになっていた。

「マルベリー、キミはしっかりして聞き分けの良い子だった。でも、最後だけ、どうしてわたしのいうことを聞いてくれなかったんだい?」

 自分の部屋に帰りつき、細く聞こえる泣き声にサーキットは語りかける。

「ヤミィだけはダメだと言ったのに。……それとも、あれかな。形式上は兄である、わたしの彼への複雑な感情を読み取って、わたしのやきもちだと思っていた?」

 おもちゃの金魚は、心なしか赤く光っているように見えた。

「この際、別の悪い男に誑かされてくれたら良かったのにな。彼になら、わたしが最終的に勝てる自信もあったのに」

 泥の獣にトドメを刺したあと回収できたのは汚泥とまざった、彼女に使われたナノマシン、灰色物質アッシュ・マテリアルだけだった。しかし、そこには彼女の思いが遺されている。

「この方法がうまくいくかはわからないんだけれどね、マルベリー」

 ふとサーキットは左手首を露わにし、そこに抜き放った刃をあてた。

「黒騎士の持つ黒騎士物質ブラック・ナイトは強いナノマシンなんだ。汚泥に食わせれば逆に彼らを食って支配してしまう。そして、ヤハタ女史の話によれば、キミたちの灰色物質に対する親和性が強い。だとしたら、理論的にはできるはずなんだ」

 サーキットは、刃をに左手で握り、そのまま剣の刃をすべらせて引いた。

 傷口からおびただしい血が流れ出したが、それは赤い色ではなく真っ黒な色をしていた。彼を構築するナノマシンが流れ出しているのだと、私は理解した。

 黒騎士物質ブラック・ナイトが金魚のおもちゃを覆い尽くす。

「キミの残された心が、わたしの血で体を持てるのだとすれば」

 いくら不死身の黒騎士とはいえ、急激な黒騎士物質ナノマシンの喪失による負担は大きい。

 サーキットは荒い息をつき、真っ青な顔をしていた。彼は悲しげにつぶやいた。

「キミが戻ってきたいなら、いつでも戻っておいで」

 

***


 はっと私が目が覚ますと、まだ他のものは眠っていた。

 小鳥のスワロ・メイと昼寝をする弟は、えへえへ上機嫌に笑いながら寝ている。良い夢を見ているのだろうか。

「んー、むり、まだねむいよ」

 そんな声が聞こえるのは、ソファで仮眠中のロクスリーであるらしい。

「いたいいたい、むりだってー、ねむいからさ」

 見ればロクスリーの髪の毛を、金魚のマルベリーが引っ張っている。

「レディ、せめてあと五分。多分五分じゃむりだけどー、とにかくまだむり」

 ロクスリーはどうも寝起きが悪いらしい。しつこくタオルケットをかぶって身を守り、惰眠をむさぼろうとする彼に、マルベリーはあきれたように空中をくるりと一周した。もう、叩き起こすのを諦めたのか、ゆらりとプランターの方に向かう。

 朝顔はもうしぼんでしまっていたが、他の花は今を盛りとばかり綺麗に咲いていた。

『せっかくお花が綺麗に咲いたから、起こしてあげたのに』

 私に幻聴のように、少女の声が聞こえた。

『師匠は相変わらずダメな人ですねえ』

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