第1話 幽霊のうわさ
「ねぇアニス」
「うん?」
「幽霊のうわさって知ってる?」
午後の陽があたたかい、街はずれの森の中。
泉の傍に佇むルーが、そんな話題を投げかけてきた。
「いや、わかんない」
彼女の隣で腰を下ろしていたアニスは、草木の匂いをのんびり楽しみながら、首を横に振った。
ただ、興味がないわけでもないようで、こどもらしい純粋さをのぞかせる上目遣いで、ルーに話の先を促した。
そんな期待を受けてちょっと怯んだのか、「別に大した話じゃないけど」と前置きしてから、ルーは言った。
「
「うん」
「最近、夜になると白っぽい明かりが浮かんでくるんだって。それで、お墓の周りをふらふらしたかと思ったら、いつの間にか消えちゃうの。それだけ」
「誰か見たひとはいる?」
木々の向こう、お墓のある方向をぼんやり眺めながら、アニスは訊ねた。
ルーは、もう自分の語る話に興味を失ったみたいに、湧き出る水を
「ブランドンおじさん」
その名前を聞いて、アニスはルーが自信なさげに幽霊の話をすることに納得がいった。街の端っこで雑貨屋を営む彼は、一晩として酒場に来ないことがない大酒飲みとして有名だったからである。
つまり、大方のところうわさの幽霊とは、ブランドンが酔っぱらって見た幻なのではないかということなのだ。
けれどこのとき、現実的な諦めよりも、面白いことがあってほしいという半ば願いのような気持ちが、アニスの心の天秤に傾いた。
「よいしょ」
アニスは立ち上がり、スカートについた草葉を簡単に払った。
それで、泉を離れるらしいことを悟ったルーは、幼さを感じさせない鋭い弧を描く眼差しだけ彼女に寄越して言った。
「おじさんのところへ行くの?」
「なんか気になっちゃって。ルーも一緒に来る?」
「あなたってほんと元気ね……ううん、あたしはいい。今日はここでのんびりしてる」
「そっか。じゃあ明日、面白い知らせを持ってきてあげるからっ」
「期待しないで待ってる」
そう残すと、大きく手を振りながら、アニスは街を目指して森をぱたぱたと駆けて行った。
ルーもひらひらと手を振り返して、あちこち跳ねた亜麻色の髪を揺らす彼女の背中を見送った。
姿が見えなくなったところで、泉を離れて丈の短い草地に寝転がると、ルーはいずれ冬の訪れる冴えた青空を仰いだ。
「また焚きつけちゃった……まぁ、どうせいつもと同じ事だとは思うけど」
そして、
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